サイエンス

天の川銀河の中心から放出される反物質の原因はダークマターではなくパルサー


天文学者を長らく悩ませてきた「天の川銀河の中心から過剰な反物質が放出されている」という謎の現象の原因は、これまでダークマターが消滅した際に生じる陽電子により引き起こされるのではないかと予測されていました。しかし、最新の研究結果により反物質の発生原因はパルサーであることが明らかになりつつあります。

Pulsars, not dark matter, explain our galaxy's antimatter - Big Think
https://bigthink.com/starts-with-a-bang/pulsars-dark-matter-milky-way-antimatter/

目に見えるものは実際に宇宙に存在するもののほんの一部に過ぎません。もし、目に見えるものだけで宇宙を調べようとすると、目に見えない光の波長に存在する大量の情報はすべて見逃すことになります。しかし、目に見えない光の波長にもガンマ線や電波、赤外線、X線、紫外線、マイクロ波など、天体物理学的な情報が多く含まれています。


このような光を観測する方法とは別の「宇宙を測定する方法」が、「粒子と反粒子を観測する」という宇宙線天文学的な手法です。10年以上にわたり、天文学者たちは電子の反物質に相当する宇宙線陽電子を観測することで、宇宙で起きている事象について理解を深めようとしてきました。

宇宙には電子の反物質である陽電子を生成する物質が複数存在します。2つの粒子間で十分に高いエネルギーの衝突が起きると、新しい粒子と反粒子のペアを生成する可能性のある一定量のエネルギーが発生します。このエネルギーが「新しく生成される粒子と反粒子のペア」の等価質量より大きい場合、衝突が起きるたびに新しい粒子と反粒子のペアが生成される可能性があります。

このようなエネルギーは、「ブラックホールにより加速された粒子」「高エネルギーの陽子が銀河円盤に衝突」「中性子星の近くで加速された粒子」などにより発生するそうです。また、ダークマターなどの未知の発生源から生まれるケースも考えられていました。


スペースシャトル・エンデバーの最終ミッションで国際宇宙ステーション(ISS)に設置されたアルファ磁気分光器(AMS-02)は、宇宙空間でこの種のデータを収集しています。AMS-02は年間100億個以上の宇宙線粒子を収集・測定しており、この中のほんの一部が陽電子だったことが明らかになっています。

AMS-02の注目すべき点は、実験で観測する「磁気」です。磁場は荷電粒子を曲げますが、移動する荷電粒子にかかる磁力はその電荷と速度にのみ依存します。そして、粒子が曲がる度合は、検出器を通過する粒子の量や、入ってくる粒子の質量・運動量に依存します。AMS-02はこれらの宇宙線を種類とエネルギーの両方で分類することが可能なため、陽電子がダークマターにより生成されたものなのか否かを判断するためのデータを提供してくれるわけです。

このデータセットを分析したところ、低エネルギーでは宇宙線が星間物質に衝突するという従来の予測と一致したものの、より高いエネルギーでは何か別の事象が影響していることが明らかになりました。


AMS-02では宇宙線と星間物質の衝突により発生する陽電子が予測以上に多く観測されたものの、これが必ずしもダークマター由来のものであるとは限りません。加速するパルサーが高エネルギーでピークに達し、過剰な陽電子を生成する可能性があります。

過剰な陽電子がダークマター由来のものなのか、パルサー由来のものなのかを判別する方法は、高エネルギーを観測してエネルギースペクトルの減衰が急激か否かを確認することだそうです。エネルギースペクトルの減衰が急激な場合はダークマター、緩やかな場合はパルサー由来であると区別することができる模様。

また、観測された陽電子を生成しているのがパルサーである場合、これらの陽電子の大部分は宇宙線に到達する前のタイミングで星間物質中の電子と衝突することになります。陽電子は電子と衝突すると消滅し、それぞれの反応で非常に特殊なエネルギー特長を持つガンマ線を生成します。

しかし、パルサーは理論的には電子と陽電子を非常に高いエネルギーに加速させます。これは世界で最も強力な地上粒子加速器である大型ハドロン衝突型加速器ですら全く到達できないレベルです。さらに、光子がこれらの超加速した粒子と相互作用すると、逆コンプトン散乱として知られるプロセスを通じ、異常なエネルギーにブーストされる可能性があるそうです。


NASAのフェルミガンマ線宇宙望遠鏡の登場により、従来のガンマ線観測所と比べて空間分解能やエネルギー分解能が大幅に向上しました。フェルミガンマ線宇宙望遠鏡は記事作成時点で世界で最も洗練されたガンマ線観測装置であり、これまで観測できなかったパルサーなどの詳細も観測可能となっています。宇宙線から生じるガンマ線を差し引くことで、星間ガス雲と衝突した際に発生する電子や陽電子と相互作用する星の光から発生する残留信号の謎を明らかにできる可能性があります。

2019年に公開された論文では、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡の観測データとAMS-02の収集したデータを分析しています。同論文の共著者のひとりであるフィオレンツァ・ドナート氏は「低エネルギーの粒子は、星の光にぶつかり、エネルギーの一部をパルサーに移し、光をガンマ線に高める前に、パルサーからさらに遠くまで移動します。これが、ガンマ線の放出がより低いエネルギーでより広い領域をカバーする理由です。また、ジェミンガハローは、空間を通るパルサーの運動のせいで部分的に伸びています」と語り、反物質の発生原因がパルサーにあると指摘しています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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