遺伝子操作で「発電できる大腸菌」が登場、エネルギーを使って廃棄物処理する時代から廃棄物処理でエネルギーを生む時代へ
大腸菌の遺伝子を改変して発電能力を与えることで、環境に有害な有機物が大量に含まれている工場廃水で増殖できる発電バクテリアが誕生したことが報告されました。
Extracellular electron transfer pathways to enhance the electroactivity of modified Escherichia coli: Joule
https://www.cell.com/joule/fulltext/S2542-4351(23)00352-5
Bacteria generate electricity from wastewater - EPFL
https://actu.epfl.ch/news/bacteria-generate-electricity-from-wastewater/
Scientists Engineer E. Coli Bacteria to Generate Electricity : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-engineer-e-coli-bacteria-to-generate-electricity
1988年にニューヨークにあるオナイダ湖で見つかった「シュワネラ・オナイデンシス(Shewanella oneidensis)」という細菌は、金属を還元して代謝し電気エネルギーを発生させる能力で注目を集めていますが、増殖するのに特定の化学物質を必要とするため、応用の幅が制限を受けるという難点があります。
スイス連邦工科大学ローザンヌ校のアルデミス・ボゴシアン教授らの研究チームは、2023年9月8日付の査読付き科学ジャーナル・Jouleに掲載された論文で、一般的な大腸菌(E. coli)の遺伝子を操作し、シュワネラ・オナイデンシスのような発電能力を獲得させることに成功したと発表しました。
研究チームはまず、大腸菌のゲノムを改変し、細菌の細胞内から細胞外に電子を伝達する代謝プロセスである細胞外電子伝達(EET)を付与して、発電効率の高い「電気微生物」を作り出しました。
こうして生まれた発電能力を持つ大腸菌は、シュワネラ・オナイデンシスの発電能力の一部しか持たなかった従来の「バイオ工学大腸菌」の2倍以上の発電量を発揮したとのこと。
これについて、研究チームは大学のリリースの中で「この研究の重要な革新のひとつは、大腸菌内で完全なEET経路を構築したことです。研究チームは、発電で有名な細菌であるシュワネラ・オナイデンシスMR-1の構成要素を統合することで、細胞の内側と外側にまたがる最適化された経路を作成することに成功しました」と説明しています。
せっかく発電する能力を持つバクテリアが誕生しても、デリケートだったり特殊な餌が必要だったりして、繁殖させるのに大量のエネルギーが必要なようでは意味がありません。
そこで、研究チームはスイス・ローザンヌにある地元のビール醸造所から廃水を集めて、そこに新しく開発した大腸菌を投入する実験を行いました。ビール醸造所は原料となる穀物の洗浄やタンクの洗浄のために水を使いますが、その廃水には大量の糖分やデンプン質、ビール酵母の混合物が含まれており、そのまま垂れ流すと望ましくない微生物が繁殖してしまうため、処理してから排出しなければなりません。
実験の結果、研究チームが投入した大腸菌はビール醸造所の廃水の中で大量に増殖したことが確かめられました。これに対し、シュワネラ・オナイデンシスは廃水中ではほぼまったく繁殖できませんでした。
ボゴシアン氏は「これは、有機廃棄物を処理するのにエネルギーを使うのではなく、有機廃棄物を処理するのと同時に電力を生み出す一石二鳥のシステムです。私たちが、ローザンヌの地ビール醸造所のレ・ブラッスールから回収した廃水でテストした結果、従来の電気微生物は生き残ることさえできなかったのに対し、私たちがバイオエンジニアリングした電気微生物は廃棄物を餌にして飛躍的に増殖することができました」と述べました。
今回の研究が活用できる分野は、廃棄物処理に限りません。遺伝子操作された大腸菌はさまざまな資源から発電できるため、微生物燃料電池やバイオセンシングなど、幅広い用途が考えられます。
論文の筆頭著者であるモハメド・モヒブ氏は「私たちは生体電気バクテリアの将来に興奮しており、企業がこの技術を新たな規模に拡大させるのが待ちきれません」と話しました。
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