サイエンス

「寄生虫が皮膚の下をはっていると感じる」「自分はゾンビだと思い込む」など奇妙な症状が現れる5つの特殊な精神障害


精神障害の症状にはさまざまなものがあり、中には「寄生虫が皮膚の下をはっているように感じる」「自分はゾンビだと思い込む」といった妄想にとりつかれるものや、「手が自分の意思に反して勝手に動き出す」といった身体的症状が出るものもあります。そんな奇妙な症状が現れる5つの精神障害について、イギリスのノッティンガム・トレント大学で行動依存症などの研究を行っているマーク・グリフィス氏が解説しています。

Five rare and unusual psychiatric syndromes – including one where people believe they are dead
https://theconversation.com/five-rare-and-unusual-psychiatric-syndromes-including-one-where-people-believe-they-are-dead-205587


◆1:フレゴリ症候群
フレゴリ症候群(フレゴリの錯覚)とは、誰を見ても「あれは変装しているだけで実は同じ人物だ」と信じ込んでしまう症状のことで、ステージ上で外見を素早く替える芸で人気を博した喜劇俳優のレオポルド・フレゴリにちなんで名付けられました。通常は双極性障害や統合失調症、強迫性障害といった精神障害によって引き起こされるほか、パーキンソン病の治療に用いられるレボドパ製剤の副作用としても現れます。

2020年の研究では、脳卒中後の患者におけるフレゴリ症候群の発症率が1.1%と報告されており、非常にまれな症状であることが示唆されています。フレゴリ症候群の明確な治療法は開発されていませんが、抗精神病薬による治療が症状を軽減する可能性があるとのことです。

◆2:コタール症候群
「歩く死体症候群」とも呼ばれるコタール症候群は、「自分はすでに死んでいる」「自分は存在しない」「体が腐っている」「内臓や血液が失われている」という妄想的な考えにとりつかれる精神障害のことです。名称は1882年に初めてこの病気を報告したフランスの神経科医・ジュール・コタールにちなんだもので、症例が報告された女性は「自分は永遠の地獄に落ちたため自然死できない」と考えており、食事を拒否し続けて餓死したとのこと。

統合失調症やうつ病、双極性障害はコタール症候群の危険因子とされているほか、ウイルス感染症の治療薬であるアシクロビルの副作用として報告されることもあります。一般的に、抗うつ薬・抗精神病薬・精神安定剤といった薬物療法や、電気けいれん療法によって治療されるとグリフィス氏は述べています。


◆3:エイリアンハンド症候群
グリフィス氏が「最も奇妙な神経障害の1つ」と述べているのが、手が本人の意思とは関係なく勝手に動き出すエイリアンハンド症候群です。この症候群は1908年に初めて確認されたものの、明確に定義されるのは1970年代初頭になってからだとのこと。

一般的にエイリアンハンド症候群の患者は感覚処理障害を持っており、患者の中には勝手に動き出す手に別の心が宿っていると考えたり、エイリアンの所有物になってしまったと思い込んだりする人もいるそうです。原因としては認知症や脳卒中、プリオン病、脳腫瘍、発作などがあるほか、重度のてんかんを治療するために左右の大脳半球をつなぐ脳梁(のうりょう)を切断する脳梁離断術の副作用として現れたケースも報告されています。

とはいえ、やはりエイリアンハンド症候群は非常にまれな症候群であり、2013年のレビューではこれまでの症例数は150件しかないとされています。エイリアンハンド症候群の完全な治療法はないものの、影響を受けた方の手で特定のタスクを行い続けることで症状を最小限に抑えたり、ボツリヌス毒素を注射したりする治療が行われているとのこと。また、鏡を使って症状のある手が正常に動いているかのように見せかける「ミラーボックス療法」も、治療法の1つとされています。ミラーボックス療法を実際に行っている様子は、以下の動画を見るとわかります。

Mirror Box Therapy & NEUROPLASTICITY Following Stroke - YouTube


◆4:寄生虫妄想
寄生虫妄想とは、そんな事実はないにもかかわらず「自分の体内に寄生虫が侵入している」と思い込む精神障害であり、多くの場合は皮膚の下を昆虫がはっているような感覚を持つとのこと。1223人の患者を対象にした研究では、患者の3分の2が女性であり、40歳以上の中高年によくみられることや、症状が通常3~4年と長期間持続することもわかりました。

寄生虫妄想は妄想型の統合失調症や器質性脳疾患、妄想性人格障害といった精神障害に関連しているほか、アルコールの禁断症状があったりコカインを誤った方法で服用したりした人、脳卒中や認知症といった脳の病変を持つ人でも報告されているとのこと。患者は「皮膚の下に寄生虫がいる」と信じ込んでいるため、心理学的な治療法は根本的な解決にならないとして嫌がることも多いそうです。

◆5:不思議の国のアリス症候群
不思議の国のアリス症候群
は視覚や触覚といった外界の知覚、時間などの感覚が変容する精神障害であり、子どもの体が母親より大きくなったと感じたり、小さなはずの虫が数十cmほどに見えたりするとのこと。不思議の国のアリス症候群という名称は、「不思議の国のアリス」の中でアリスの体が大きくなったり小さくなったりするエピソードにちなんで名付けられました。

患者の多くは子どもであるほか、大人になっても経験する人はほとんどが片頭痛を持っているという点も特徴です。症状に襲われている人はおびえたりパニックになったりしやすいため、治療には休息とリラクゼーションが含まれることが多いとグリフィス氏は述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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