サイエンス

芝生を「野生の草花」に置き換えることが環境に大きなメリットをもたらすことをイギリスの名門大が実験で証明


イギリス・ケンブリッジ大学キングス・カレッジの名物である芝生を野生の草花に置き換えたところ、植生が豊かになって保護が必要な種を含む生き物が増え、ヒートアイランド現象が抑制されて涼しくなり、メンテナンスの手間も減って二酸化炭素排出量が削減されるなど、多数のメリットがあったことが報告されました。

Urban wildflower meadow planting for biodiversity, climate and society: An evaluation at King's College, Cambridge - Marshall - 2023 - Ecological Solutions and Evidence - Wiley Online Library
https://doi.org/10.1002/2688-8319.12243

A break from the lawn: can an iconic meadow seed wider change?
https://www.cam.ac.uk/stories/kings-wildflower-meadow-a-break-from-the-lawn

芝生の手入れが社会的規範となっている西洋社会では、見事な芝生は家主や地主たちの富や地位の象徴であり、町並みの美観を保つ上でも欠かせない要素とされてきました。こうした文化を背景に、ケンブリッジ大学のキングス・カレッジでは1772年から芝生が維持されてきましたが、丁寧に刈り込まれた芝生は野生の草が生える草原に比べて管理にコストがかかり、生物の多様性も乏しくなるという欠点があります。

by David Baron

都市部の芝生を草原に置き換えた際の影響について調べるため、キングス・カレッジは2019年から、「King's Back Lawn」として親しまれている裏庭の約40%に芝生ではなく野生の草花を植える実験を行いました。草原は、できる限りケルト由来の伝統的な慣習「ラマス(Lammas)」に従って管理され、8月1日の「ラマスの日」と12月の2回に分けて350mmほどの高さに刈り込まれました。また、訪問客が増えるシーズンには手作業で好ましくない雑草が除去されました。

一方、残りの芝生は従来通り3月から9月までは週2回の芝刈り、10月から12月までは週1回の芝刈り、1月と2月には隔週での芝刈りが行われ、夏と春に肥料がまかれ、年に1~2回除草剤が散布されました。除草剤の散布量は必要最低限とし、殺虫剤は使用せず、できるだけ散水は行わないようにしました。

以下は、キングス・カレッジの中庭を上空から撮影した写真で、左側が草原の区画、右側が芝生の区画となっています。


実験開始から約2年後の2021年に芝生と草原を比較したところ、草原の植物種の多様性は芝生に比べて3.6倍も豊富なことがわかりました。研究で採取された植物は84種類もありましたが、そのうち人の手で持ち込まれたのは33種類だけで、残りはすべて自然に生えてきたものだとのこと。また、植物以外の生き物も草原の方が多く、草原に生息する無脊椎動物の総バイオマスは芝生の25倍もありました。

虫の個体数で比較すると、採取用の落とし穴にかかったクモやカメムシの数は芝生より草原の方が3.8倍多く、虫を食べるコウモリが飛ぶ頻度も草原の方が3.1倍高くなりました。これは、食物連鎖の下から上までバランスよく豊かになっていることを意味しています。


さらに、草原は芝生に比べて草刈りや施肥が少なくて済むおかげで手入れが簡単で、その影響を二酸化炭素排出量に換算すると、1ヘクタール当たり年間1.36トンが削減できるとのこと。これは、ロンドンからニューヨークの飛行機1往復分に相当します。気候変動により草が伸びる季節が長くなれば、その分だけ芝生の維持に必要な草刈りが増えるので、芝生と草原の差は今後どんどん大きくなると考えられています。

草原は生き物や地球環境にとってだけでなく、近隣の住民にも直接メリットをもたらします。研究チームが航空写真や衛星画像を元に草原と芝生の太陽光反射率を計算した結果、草原は芝生に比べて25%も反射率が高いことがわかりました。都市部はヒートアイランド現象により気温が高くなるため、太陽光をより多く反射することによる冷却効果は夏の暑さにも有効だといえます。


ケンブリッジ大学植物科学部のシシリー・マーシャル氏は「私たちは、草原が生物多様性にとって驚くほど有益であることを発見しました。特に、これほど小さな地域でこれほど大きな変化が起きることには本当に驚きました」と話しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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