実験室で育てる「培養肉」は本物の牛肉の最大25倍も環境に悪いことが判明、安価かつ低エネルギーで培養する技術に課題
畜産業や食肉の生産工程は気候変動に大きな影響を与えているとされており、肉を培養肉や合成肉に切り替えることで二酸化炭素排出量を80%削減できるとの試算結果も報告されています。ところが、アメリカ・カリフォルニア大学の調査により、少なくとも現行の培養技術で生産し続けた場合の培養肉は、店に並ぶ牛肉より桁外れに多くの二酸化炭素を発生させてしまうことがわかりました。
Environmental impacts of cultured meat: A cradle-to-gate life cycle assessment | bioRxiv
https://doi.org/10.1101/2023.04.21.537778
Lab-Grown Meat Potentially Worse For The Climate Than Beef | UC Davis
https://www.ucdavis.edu/food/news/lab-grown-meat-carbon-footprint-worse-beef
培養肉は、動物から採取した細胞を栄養豊富な培地で育てて増殖させることで生産しますが、このバイオリアクターには課題があります。それは、高度に精製された成長培地を使うため、食品というよりは医薬品を製造するためのバイオテクノロジーに近いプロセスで生産することになるという点です。
これについて、カリフォルニア大学デービス校食品科学技術学部のデリック・リスナー氏は「もし企業が成長培地を医薬品レベルまで精製しなければならないのであれば、より多くの資源を使用することになり、地球温暖化を悪化させる危険性も高まります。言い換えると、培養肉を製薬的アプローチで生産し続ける場合、従来の牛肉生産よりも環境に悪く、価格も高価になってしまうということです」と説明しています。
この課題について検証するため、研究チームはプレプリントサーバー・bioRxivで発表した論文の中で、培養肉を生産する全工程で必要なエネルギーと、そのために排出される温室効果ガスのライフサイクルアセスメントから「地球温暖化係数(GWP)」を算出し、市販されている牛肉と比較しました。
その結果、牛肉1kg当たりのGWPが平均60kgCO2e(二酸化炭素換算キログラム)なのに対し、培養肉は1kgあたり246~1508kgCO2eで、実に4~25倍も多くの温室効果ガスが発生してしまうことが判明しました。
以下は、計算結果をグラフにしたものです。緑色の棒グラフが市販の牛肉の化石燃料消費量を、青色の棒グラフがこれまでの研究で提案されている3種類の培養肉生産コスト計算法による消費量を、赤色の棒グラフがそれらの計算法を医薬品グレードの精製度で再計算した場合の消費量を表しています。培養肉の生産に必要なエネルギーの計算には、工場で作る際のエネルギーだけが考慮されており、調理や保存、流通にかかるエネルギーは加味されていないため、これでも最小値だと研究チームは指摘しています。
培養肉業界は、最終的には高価な医薬品グレードの原料や膨大なエネルギーを要する工程を使用せず、食品グレードの原料や培養液を使用して培養肉を生産することを目標にしています。
食品グレードでの培養肉生産が達成できたことを前提に、研究チームが培養肉のGWPを計算したところ、環境負荷が従来の牛肉より80%低くなるケースもあれば、26%高くなる可能性もあることがわかりました。これは、将来的には安価かつ環境に優しい培養肉が登場する可能性があるという有望な結果ですが、実現には技術的な課題があります。
論文の共著者であるエドワード・スパング氏は、「私たちの調査結果は、培養肉が本質的に牛肉より環境にやさしいわけではないことを示唆しています。つまり、培養肉は地球温暖化の特効薬ではありません。将来、環境への影響を減らすことは可能ですが、培養液の性能を上げてコストを下げるのには、かなりの技術的進歩が必要になります」と述べました。
また、リスナー氏は培養肉分野への注目が高まっている点について、「もし環境に優しい食肉が実現できなくても、より安価な医薬品の開発につながるかもしれません。私が懸念しているのは、あまりに急速に生産規模を拡大することで、かえって環境に有害になってしまうことです」と述べました。
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