サイエンス

認知症の症状が夕方から夜にかけて悪化する「夕暮れ症候群」とは何なのか?周囲の人はどう対処すればいいのか?


認知症やアルツハイマー病の症状は1日を通じて一定ではなく、多くの患者において夕方~夜にかけて症状が悪化する傾向があります。この現象は「(PDFファイル)夕暮れ症候群」と呼ばれており、一体なぜ夕暮れ症候群が発生するのか、周囲の人々はどう患者をサポートすればいいのかについて、モナシュ大学の精神医学者であるスティーブ・マクファーレン准教授が解説しています。

What is 'sundowning' and why does it happen to many people with dementia?
https://theconversation.com/what-is-sundowning-and-why-does-it-happen-to-many-people-with-dementia-208005


まずマクファーレン氏は、「夕暮れ症候群」とは多種多様な状況と行動を包括した言葉であり、使う場合は問題を単純化している点に注意するべきだと指摘しています。その上で、一般的に夕暮れ症候群には混乱・不安・動揺・徘徊(はいかい)・身近な人の追跡といった状態や行動の変化が含まれており、認知症の程度や性格、過去の行動パターンなどによってその内容は変化すると説明しています。

多くの認知症患者において夕暮れ症候群が発生する理由について、マクファーレン氏は大きく2つを挙げています。

◆1:明るさの減少
人々は五感を通じて脳に入る情報から周囲の世界を解釈しており、これらの中で特に重要なのが視覚と聴覚です。そのため、複雑なタスクを行う場所が暗い部屋だった場合、明るい部屋で作業する場合よりも効率が落ちたり、ミスが発生したりすることが増えます。

自分が置かれた環境を正しく解釈するために感覚に依存しているという点は、認知症やアルツハイマー病の患者でも同じですが、これらの人々は感覚情報を統合する脳の機能が低下しているという点が異なります。1日の終わりに向かって周囲が暗くなるにつれ、認知症の患者が利用できる感覚情報が減っていき、結果として混乱や予期しない行動が生じます。これらが夕暮れ症候群と総称されていると、マクファーレン氏は説明しました。


◆2:認知的疲労の増加
多くの人々は認知能力に余裕を持った状態で日々を過ごしており、日常的なタスクをこなしただけで認知能力を使い果たしてしまうことはまれです。そのため、複雑な問題に直面したりストレスの多い状況に置かれたりしても、余剰の認知能力を駆使することで乗り切ることができるとのこと。減少した認知能力は休息や睡眠によって回復し、翌日になればまたスッキリとした頭で物事を考えることができます。

しかし、長年にわたって認知能力が低下している認知症やアルツハイマー病の患者では、もはや脳が余分な認知能力を確保することができないため、日常生活において物忘れや奇妙な行動といった問題が生じます。また、これらの患者は通常の人々と比較して日常生活を送るためにより多くの精神的努力が要求され、日中のうちに認知能力が使い果たされやすいそうです。

普通の人々も頭を酷使して疲れている時はうっかりミスが増えたり、感情の起伏が激しくなったりしますが、認知症患者は普通の日常生活を送るだけでこういう状態になってしまうとマクファーレン氏は指摘。そのため、起きてからある程度時間がたった夕方以降は、認知症の症状が悪化しやすいというわけです。


◆周囲の人々はどう対処すればいいのか?
身近な人々が認知症を発症した場合、夕暮れ症候群を防ぐために打てる対策がいくつか存在します。まず、周囲が暗くなってしまうことが夕暮れ症候群の一因であるため、午後になったら早いうちに明るい電気をつけ、就寝する前まで部屋を明るく保つことで発生を防ぐことが可能です。また、患者が朝から夜まで起き続けていると認知能力が使い果たされやすいため、昼食後に昼寝をしてもらうことで認知的疲労を軽減することも有効な可能性があるとマクファーレン氏は述べています。

しかし、そもそも夕暮れ症候群はさまざまな状況や行動を大ざっぱに包括した言葉であるため、最も重要なのは個々の患者に寄り添って根本的な原因を調べることです。たとえば、空腹・喉の渇き・痛み・うつ病・退屈・孤独といった要因で症状が悪化するケースがあるとのことで、これらの根本的な原因を取り除くことが、夕暮れ症候群を防ぐ上で最も重要なことだとマクファーレン氏は結論付けました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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