サイエンス

ぜんそくの治療薬が認知症の特効薬となる可能性が示される


アメリカ食品医薬品局(FDA)が承認したぜんそくの治療薬に、これまで隠されていた知識を明らかにする効果がある可能性が示唆されました。この治療薬が有効であることが証明されれば、認知症やアルツハイマー病の特効薬となる可能性が期待されています。

Recovering object-location memories after sleep deprivation-induced amnesia: Current Biology
https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.12.006

"Magic" Drug Restores Lost Memories and Unleashes Hidden Knowledge - The Debrief
https://thedebrief.org/magic-drug-restores-lost-memories-and-unleashes-hidden-knowledge/

フローニンゲン大学の神経科学者ロバート・ハベケス氏らの研究チームは、睡眠不足時の学習と、その知識を取り出すことの難しさに焦点を当てて、失った記憶や脳内に保持されている隠された知識を呼び起こすために、マウスを使った実験を行いました。


ハベケス氏らの研究チームはマウスの海馬の神経細胞に遺伝子操作を行い、光に反応するタンパク質を生成しました。このタンパク質は、光を当てることで活性化します。さらに、タンパク質の活性化により、マウスは学習した記憶を思い出すことができます。

次に、遺伝子操作されたマウスに複数の物体の位置を学習させ、その位置を思い出させるテストが行われました。また、その際に研究チームはマウスの半数を意図的に睡眠不足の状態に陥らせました。マウスによる物体の位置を思い出すテストは海馬の働きに大きく依存するため、失われた記憶を復元するテストに役立つとのこと。

物体の位置を学習した数日後、複数の物体のうち1つを移動させ、再度テストを行ったところ、同じテストを行ったにもかかわらず、睡眠不足の間に学習を行ったマウスは本来の物体の位置を忘れていました。


しかし、研究チームが睡眠不足のマウスのタンパク質に光を当てて活性化させ、再度テストを行ったところ、これらのマウスは物体の元の位置を正確に思い出しました。この結果は、睡眠不足の間の学習でも、学習した情報が脳内に保存されていたことを示しています。ですが、脳内に保存された情報を取り出すためには、刺激を与えることが必要です。

残念ながら、マウスに用いた遺伝子操作の手法は、倫理や健康の観点から人間への適用は困難です。そこで人間の健康を害さずに脳内に保存された情報を取り戻す手法を発見するために、ハベケス氏らの研究チームは、脳の神経細胞を活性化することで知られる「ロフルミラスト」を投与したところ、光の照射による活性化と同様の効果がマウスに現れました。

ロフルミラストはFDAによって承認されたぜんそくの治療薬で、広く処方されている安全な医薬品です。ロフルミラストを人間に投与することで、マウスと同様の記憶を思い出す効果が期待されています。


ハベケス氏らの研究チームによる今回の発見の最大の功績としては、認知症やアルツハイマー病、またはその他の記憶喪失になった人々が、病気によって失った人生の一部を取り戻すことを、ロフルミラストの投与によって手助けできる可能性があることだとされています。

ハベケス氏は「ぜんそくの治療薬であるロフルミラストの投与で認知症や若年性アルツハイマー病の人々の記憶を刺激し、思い出させることが可能かもしれません。また、マウスのテストで成功したように、特定の記憶を再活性化して、それらの記憶を永久に覚えていることができるかもしれません」「この研究が、失われた記憶を取り戻すための医薬品の開発につながることを期待しています」と述べています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1r_ut

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