サイエンス

ゴリラガラスならぬ「ライオンガラス」が開発される、普通のガラスと比べて二酸化炭素排出量が半減&割れにくさは10倍に向上

by ehpien

高い透明度とプラスチックを超える強度を誇り、スマートフォンやタブレットのスクリーンに採用されているゴリラガラスの開発に携わったペンシルベニア州立大学のジョン・マウロ教授らの研究チームが、標準的なガラスと比較して二酸化炭素排出量を半分に減らす「ライオンガラス」を開発したと発表しました。

New glass cuts carbon footprint by nearly half and is 10x more damage resistant | Penn State University
https://www.psu.edu/news/research/story/new-glass-cuts-carbon-footprint-nearly-half-and-10x-more-damage-resistant/


Penn State's New LionGlass Is 10X Tougher & Has Half The Carbon Emissions - CleanTechnica
https://cleantechnica.com/2023/07/05/penn-states-new-lionglass-is-10x-tougher-has-half-the-carbon-emissions/

二酸化炭素はさまざまな人為的活動によって排出されており、近年は地球温暖化防止のため二酸化炭素排出量を減らす取り組みが各分野で注目されています。しかし、あらゆる身近な製品や建築物に使用されているガラスの製造でも、毎年8600万トンもの二酸化炭素が排出されていることはそれほど知られていません。


世界で広く用いられているガラスは、ケイ砂炭酸ナトリウム炭酸カルシウムを混合して融解することで作られるソーダ石灰ガラスです。マウロ氏は、「ガラスが解ける過程で炭酸塩は酸化物に分解され、二酸化炭素が大気中に放出されます」と指摘しています。

また、ガラスが融解する温度まで炉を加熱する際にも膨大なエネルギーを使用し、二酸化炭素を排出しているとのこと。そこでマウロ氏らは、ガラス製造における二酸化炭素排出量を減らすため、組成物を変更して低い温度でも融解する「ライオンガラス」を開発しました。


ライオンガラスは融解に必要な温度が通常のガラスと比較してセ氏300~400度ほど低く、エネルギー消費量は約30%削減されると考えられています。マウロ氏は、「私たちの目標は、ガラス製造を長期的に持続可能なものにすることです」「ライオンガラスは炭素を含むバッチ原料を排除し、ガラスの融解温度を大幅に下げます」と述べています。

マウロ氏はかつてコーニングでゴリラガラスの開発に携わっていた人物でもあり、ライオンガラスという名称はゴリラガラスをイメージしたものに聞こえます。しかしペンシルベニア州立大学の公式ブログでは、ペンシルベニア州立大学のマスコットであるニタニー・ライオンにちなんで名付けられたものだと記されていました。

by apardavila

ライオンガラスは二酸化炭素排出量が少ないだけでなく、標準的なガラスよりもはるかに強度が高いことも特徴です。物体の硬度を示すビッカース硬さ試験機を用いた耐クラック性の試験では、通常のガラスでは約100gの荷重で亀裂が発生するところ、ライオンガラスでは10倍の1kgもの荷重をかけても割れませんでした。研究チームによると、ライオンガラスは試験機でテストできる最大荷重に達したため、耐クラック性は通常のガラスの10倍以上になる可能性もあるとのこと。

耐クラック性は材料がどれほどのダメージで破損するのかに関わっているため、ガラスをテストする際に最も重要な項目の1つです。ガラスでは表面に発生した微少な亀裂が弱点となり、時間経過と共に割れやすくなりますが、耐クラック性が高ければそれだけガラスが長持ちする可能性があります。

マウロ氏は、「損傷への耐性はガラスにとって重要な特性です。自動車産業やエレクトロニクス産業、建築、光ファイバーケーブルなど、ガラスの強度に依存するあらゆるものについて考えてみてください。ヘルスケアにおいても、ワクチンが強力で耐薬品性のガラス包装に保管されています」と述べ、耐クラック性の高さは重要だとアピールしました。

また、ガラスの強度が高いということは、通常のガラスより薄くても十分な強度が保てることを意味しており、結果として製品の軽量化につながる可能性もあります。マウロ氏は、「製品が軽量化されれば原材料の使用量が減り、製造に必要なエネルギーも少なくて済むので、環境にとってさらに良いことです。下流の輸送工程においても、ガラスを運ぶのに必要なエネルギーが削減されるので、誰にとっても喜ばしい状況になります」とコメント。これらの点から、ライオンガラスの二酸化炭素排出量は通常のガラスと比較して半分まで減ると期待されています。


研究チームはライオンガラスの特許を申請中であり、ライオンガラスの特性や応用についてさらに研究を進めているとのこと。マウロ氏は、「人類が5000年以上前にガラスの製造方法を学習し、それから今日まで、現代文明を築く上でガラスは重要な存在でした」と述べています。

環境に優しいテクノロジーを紹介するメディア・CleanTechnicaは、ライオンガラスの潜在的な用途として「より軽量かつ強度の高い車」「耐久性が高く軽量なソーラーパネル」などを挙げ、応用によってさらなる二酸化炭素排出量の削減が期待できると主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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