サイエンス

男性の自慰行為は生殖管から病原体を洗い流すために4000万年前から進化してきたのではないかと研究で明らかに


自慰行為は猫や犬、イルカ、馬などといった動物界全体で一般的な行動となっていますが、特に人間を含む霊長類では顕著な行動として観察されています。自慰行為は、病理学的または性的興奮に伴う行動だと考えられていましたが、進化の歴史や重要性に関する研究はごくわずかでした。しかしユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの人類学者であるマチルダ・ブリンドル氏らの研究チームが「霊長類における自慰行為は古代から続く特徴的な行動で、生殖の成功率を高め、性感染症にかかるのを防いでいる可能性がある」という研究結果を発表しました。

The evolution of masturbation is associated with postcopulatory selection and pathogen avoidance in primates | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://doi.org/10.1098/rspb.2023.0061


Study explains the evolutionary origins and advantages of masturbation
https://phys.org/news/2023-06-evolutionary-advantages-masturbation.html

Masturbation May Actually Protect Against Pathogens. Here's Why. : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/masturbation-may-actually-protect-against-pathogens-heres-why

Jacking Off Has Evolutionary Benefits Going Back 40 Million Years, Study Says
https://www.vice.com/en/article/qjvvjx/jacking-off-has-evolutionary-benefits-going-back-40-million-years-study-says

ブリンドル氏らの研究チームは、「自慰行為に関する体系的な従来の比較研究はほとんど存在せず、その進化の歴史は不明です」と述べており、このギャップを解消すべく霊長類の自慰行為に関する246件の学術論文や、霊長類学者や霊長類の飼育係からの150件のアンケート結果などの分析を行いました。分析の結果、「霊長類における自慰行為は、メスが複数のオスと交尾する種では、オスの自慰行為の頻度が顕著になる」という結果が明らかになりました。研究チームは「メスが単一のオスと交尾する種では自慰行為の頻度が極端に低下しましたが、複数のオスと交尾する種では頻度の低下が見られませんでした」と報告しています。


そのため、自慰行為について偶発的なものではなくパターン化されたものであるという研究チームの発見は、自慰行為が単なる性的快楽を得る目的だけではない可能性を示唆しています。

また、研究チームは系統学における比較法を利用して、霊長類の自慰行為の進化的経路を経時的に分析しました。調査の結果、自慰行為は霊長類の間で長い進化の歴史があり、4000万年前に霊長類の祖先がメガネザルなどのサルと類人猿に分岐して以来、類人猿における自慰行為が一般的になった可能性があることが示唆されました。また、霊長類における自慰行為はその後進化してきた可能性があることが分かりました。


ブリンドル氏らは自慰行為という一見意味のない行為にどのような利点があるかについて、「交尾後選択仮説」と「病原体回避仮説」の2種類を挙げています。

「交尾後選択仮説」は、オスの霊長類がメスとの交尾に備えて自慰行為を行うことで、交尾の際により高品質な精子を利用できる可能性を提起するものです。また、以前の研究では自慰行為を行うことで古い精子を事前に排出しておき、実際のメスとの交尾で新しい精子を射精することで、受精の確率を高める可能性があることが示唆されています。研究チームによると、オスの自慰行為はメスを巡っての別のオスとの競争の中で進化した可能性があるとのこと。

「病原体回避仮説」は、自慰行為を行うことで多くの性感染症の感染部位である尿道を洗浄することができるという仮説です。自慰行為による射精によって、生殖管から性感染症を引き起こす病原体を洗い流すことで、メスとの交尾の後に性感染症にかかる危険性を低減することができるとされています。ブリンドル氏らは「性感染症につながる病原体が存在しない場合、自慰行為の頻度は非常に高い割合で低下しましたが、一方で病原体が存在する場合、自慰行為の頻度は低下しませんでした」と述べています。

一方でメスの自慰行為は報告数が少なかったことなどから重要性は明確ではないことを報告し、研究チームは「メスの自慰行為の進化的役割を明確に理解するためには、メスの性行動に関するより多くのデータが必要です」と主張しています。


ブリンドル氏は「今回の私たちの分析結果は、一般的な行動とはいえほとんど理解が進んでいない自慰行為の歴史や機能に光を当て、自慰行為に関する理解における重要な発見を生み出しました。自慰行為が野生、飼育下を問わず多くの霊長類で観察されているという事実は、自慰行為が快楽目的だけではない健康的、健全な性行動のレパートリーの一部であることを示しています」と述べています。

またブリンドル氏は「霊長類は自身が置かれている複雑な状況に応じて、必要に応じて自慰行為を行っている可能性があります」と主張しています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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