サイエンス

奇妙な新型コロナウイルスの変異に2年間感染し続けている何者かが存在するとして研究者がデータを公開


ウイルス研究者が「オハイオ州中部在住の何者かが少なくとも2年間にわたって特殊な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の変異に感染している」というデータを公開しました。研究者によると、公衆衛生への脅威はないものの、この症例が長期にわたるCOVID-19(ロングCOVID)の治療に必要な答えをもたらしてくれる可能性があるとのことです。

Who in Ohio has had COVID-19 for years? The search is on
https://www.nbc4i.com/news/local-news/columbus/mysterious-covid-strain-found-in-central-ohio/


ミズーリ大学医学部の微生物学教授であり、分子ウイルス学者でもあるマーク・ジョンソン氏は、キャリアの多くをヒト免疫不全ウイルス(HIV)研究に費やしてきたという人物。

2020年初頭、新型コロナウイルス感染症の流行を追跡するため、ミズーリ州の保健当局がジョンソン氏に「廃水サンプリングプログラム」の主導を依頼しました。当時を振り返りながらジョンソン氏は「ウイルスの遺伝物質に関する入手可能なデータはほとんど存在しませんでした」と語っています。


新型コロナウイルスがデルタ株やオミクロン株といったさまざまな変異株に進化するにつれ、廃水サンプリングプログラムで採取した廃水の遺伝物質配列を解析することで、「どの地域でどの変異株が流行しているのかを特定できるようになっていった」とジョンソン氏。この解析を続ける中で、研究チームは独自の変異を遂げた新型コロナウイルスの「不可解な株」を見つけたそうです。

この「不可解な株」を調査したところ、「不可解な株」は下水処理システムに一定期間留まり、突然消えてしまった模様。当初、研究チームはなぜこの「不可解な株」がニューヨーク市のような人口密集地域で流行しないのか理解できなかったそうですが、「初めはネズミ由来の変異株なのだと考えていました。それ以外に考えられなかったためです」とジョンソン氏は語っています。しかし、研究チームがネズミの糞便を検査しても、検査結果は陰性だったそうです。


その後、ミズーリ州の廃水サンプリングプログラムのような「下水道の廃水を分析するプログラム」がアメリカ全土に広がるようになったのち、ジョンソン氏ら研究チームが公的に入手可能なデータを調査し、ウィスコンシン州で再び「不可解な株」を発見します。

ジョンソン氏ら研究チームは10万人以上が暮らす地域に存在する主要な下水処理場の調査から始めて、すべての下水道をチェック。その後、「不可解な株」がある特定の下水道からのみ流れてくることを突き止めます。さらに調査を進めたところ、「不可解な株」がウィスコンシン州にあるひとつのマンホールから流れてきていること、このマンホールが従業員30人ほどの会社の下水のみを流していることが明らかになったそうです。

この会社の従業員の約3分の2がCOVID-19のPCR検査を受けることに同意しましたが、検査結果はすべて陰性であったため追跡調査は打ち切りとなったそうです。それでも諦めきれなかったというジョンソン氏は数カ月にわたり「不可解な株」を研究し続けており、会社の排泄(せつ)物のサンプル採取にこぎつけますが、ここでも「不可解な株」は検出されなかったそうです。

ジョンソン氏は「検出されない理由はわかりません。仕事を辞めてしまったのか、それともCOVID-19から治ったのか、寛解したのかはわかりません。我々はまだ監視を続けており、今もこの会社から排泄物のサンプル収集を続けています」と語っています。


また、ジョンソン氏ら研究チームはオハイオ州のコロンバスにある下水道施設でも「不可解な株」を発見しています。この「不可解な株」はWashington Court Houseでも検出されており、2021年夏に最も流行したデルタ株よりも古い系統の変異株だそうです。

ジョンソン氏はコロンバスで発見された「不可解な株」について、「特定の人物が2年以上にわたり新型コロナウイルスを保有、排出してきたことを示しています。この人物はコロンバスに住んでおり、仕事のためにWashington Court Houseに通勤しているものと予測します」とコメントしました。


研究チームはこの奇妙な話を共有することで、心当たりのある人物が名乗り出てくれることに期待していると語っています。ジョンソン氏は「このような奇妙なケースはどの程度あるのでしょうか?彼らの症状はどういったものでしょうか?長期にわたるCOVID-19(ロングCOVID)に関連しているのでしょうか?」「COVID-19に感染してもなかなか治らない人がいますが、その理由は明らかになっていません。おそらくほとんどが慢性感染症ではありませんが、一部は慢性感染症の可能性があり、理論的には治療可能です」と述べました。

ジョンソン氏は、ウイルスは胃腸管を通過すると不活性になるため、下水道で検出される「不可解な株」に公衆衛生上の脅威はないと説明しています。

ジョンソン氏は自身のTwitter上でもこの「不可解な株」についてツイートしており、この謎の被験者が名乗り出てくれることに期待していると改めて述べました。


「どうしてひとりの人間だとわかるのでしょうか?」という質問に対して、ジョンソン氏は「新型コロナウイルスのシーケンスは時間の経過と共に変化しますが、2つの下水道施設で検出されたシーケンスは同じように変化しています。複数の人間の場合、シーケンスは個別の分岐を形成します。これを考慮すると、ひとりであるという証拠はないものの、ひとりのデータであると考えるのが最も可能性の高い説明です」とツイートしています。


なお、オハイオ州保健当局の広報担当者は「不可解な株」について、「たったひとりに関連したものと確信しているわけではないものの、公衆衛生上の脅威をもたらすものではないため当局が調査を進めることはありません」と説明しています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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