サイエンス

雷の原理で空気中の「湿気」から24時間365日クリーンエネルギーを取り出せる新技術が登場


マサチューセッツ大学アマースト校の研究チームが、2023年5月に査読付き学術雑誌・Advanced Materialsに掲載された論文で、空気中にある水の分子の電荷から電力を得ることができる技術を発表しました。

Generic Air‐Gen Effect in Nanoporous Materials for Sustainable Energy Harvesting from Air Humidity - Liu - Advanced Materials - Wiley Online Library
https://doi.org/10.1002/adma.202300748

Engineers at UMass Amherst Harvest Abundant Clean Energy from Thin Air, 24/7 : UMass Amherst
https://www.umass.edu/news/article/engineers-umass-amherst-harvest-abundant-clean-energy-thin-air-247

「空気には、膨大な量の電気が含まれています」と話すのは、マサチューセッツ大学アマースト校の工学部で電気・コンピュータ工学を教えているJun Yao氏です。Yao氏は、今回発表した技術について「ただの水滴の塊である雲のことを想像してください。水滴は電荷を帯びており、条件が整えば雷を生成しますが、雷から確実に電気を得る方法が分かっていません。一方で私たちは、人間が作った小さな雲から確実かつ継続的に電力を生成し、収穫できるようにしました」と説明しました。


Yao氏らの「ジェネリック・エアジェン効果(generic Air-gen effect)」は、電気を生み出すことができる細菌であるGeobacter sulfurreducensを使った2020年の研究を土台としています。この研究でYao氏らは、Geobacter sulfurreducensから得られたタンパク質のナノワイヤーでできた特殊素材を使うことで、空気中からエネルギーを得ることができると発表しました。

当時は単に「エアジェン効果(Air-gen effect)」と呼ばれていたこの現象についてさらに研究していたYao氏は、ある特性さえ備えていれば、細菌から得た特殊素材でなくてもほぼ全ての物質でエアジェン効果を生み出せることを突き止めました。その特性とは、100ナノメートルより小さい穴、つまり毛髪の太さの1000分の1以下しかない穴が開いているということです。

この100ナノメートルという穴の大きさは、空気中の水分子が他の分子にぶつかることなく進める距離である平均自由行程が約100ナノメートルであることに由来しています。


小さな穴があいている薄い素材に空気が触れると、穴を通じて水の分子が素材の上から下に通過します。しかし、穴が100ナノメートル以下のナノ細孔だと、水分子は穴の縁にぶつかりやすくなります。すると、素材の上部に下部より多くの電荷を帯びた水分子が集まり、まるで雷雲のようにアンバランスな状態になります。これを利用することで、湿度を含んだ空気をあたかも電池のように利用してエネルギーを得るというのが、今回研究チームが提唱した「ジェネリック・エアジェン効果」の原理です。

クリーンエネルギーを生み出す既存の太陽光発電や風力発電には、雨の日には使えなかったり風が吹かない地域では使えなかったりするという欠点があります。しかし、湿度はどのような地域でも、どんな天候でも空気に含まれているので、世界中にさまざまな素材を使った収穫機(ハーベスター)を設置して、24時間365日エネルギーを収穫できます。

Yao氏は「このアイデアはシンプルながら、これまで発見されたことがなく、さまざまな可能性があります。熱帯雨林ではある種類の素材で、より乾燥した地域では別の素材で作られた収穫機をイメージしていただければと思います」と話しました。


また、空気中の湿度は3次元方向に拡散し、ナノ細孔の薄膜は厚さが髪の毛の数分の1ほどしかないので、何千層も積み重ねることで収穫機の設置面積を増やすことなく効率的にスケールアップできます。これにより、一般的な電気事業で使われるキロワット単位の電力を生み出すことも可能とのこと。

この技術の展望について、Yao氏は「どこでもクリーンな電気が使える未来の世界を想像してみてください。ジェネリック・エアジェン効果の万能さは、このような未来の世界が実現できるということを意味します」と語りました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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