サイエンス

「なぜ虫は光に引き寄せられてしまうのか?」がハイスピードカメラを使った研究で解明される


日本には「飛んで火に入る夏の虫」ということわざがあるほか、シェイクスピアの戯曲「ヴェニスの商人」やヒンドゥー教の叙事詩「バガヴァッド・ギーター」といった古典の中でも詩人たちが語ってきたように、虫たちが火や明かりに引き寄せられることは昔からよく知られてきました。それにもかかわらず、その理由はこれまではっきりとは分かっていませんでしたが、ハイスピードカメラによる観察でついに解明につながる大きなヒントが示されました。

Why flying insects gather at artificial light | bioRxiv
https://doi.org/10.1101/2023.04.11.536486

Why are insects attracted to artificial lights? | Live Science
https://www.livescience.com/animals/insects/why-are-insects-attracted-to-artificial-lights

Why Are Insects Drawn to Light? A Perennial Question Gets a New Answer. - The New York Times
https://www.nytimes.com/2023/04/27/science/moths-to-a-flame-insects-light.html

虫が光に捕らわれる「灯火採集(ライトトラップ)」は、古くは紀元1世紀のローマ帝国時代の書物で言及されているほど身近な現象であるため、これまで多くの理論が提唱されてきました。中でも主要な説は大きく分けてふたつあり、ひとつは虫が光を月などの天体と間違えて方向の基準にしてしまっているという「月測位(lunar navigation)仮説」で、もうひとつは虫には葉や茂みの隙間から漏れる光を目指す習性があるとする「光への脱出(escape to light)仮説」です。

ほかにも、光源からの熱放射で暖まるのを好むのではないかという説や、人工光のまぶしさに目がくらんでしまっているとの説などさまざまな理論がありますが、高速で飛び回る昆虫の姿を観察することは容易ではないので、これまでは仮説にとどまっていました。


プレプリントサーバー・bioRxivで発表された今回の研究の中で、インペリアル・カレッジ・ロンドンやフロリダ国際大学の研究チームは、ガやトンボなどの昆虫がライトの周りを飛ぶ様子を高速カメラで撮影しました。その結果、ライトに出会った虫が見せる飛行パターンは3つに分類できることが分かりました。

1つ目は、横からの光に対して光源を周回するように旋回し続ける「軌道周回行動(左)」、2つ目は光源が頭上にある時に急上昇して速度を失う「失速行動(中央)」、3つ目は光源の上を通過した後に地面に向けて急降下する「反転行動(右)」です。


特に注目すべきは、どの行動パターンでも昆虫は常に光に背中を向けようとしていたことです。一部の昆虫や魚に見られるこのような習性は、「背光反射(Dorsal Light Response)」と呼ばれています。

この結果を元に、これまでの主要な仮説を検証した研究チームは、ライトを背にして飛ぶ昆虫の行動がどの仮説とも合致しないことを発見しました。まず、虫は光を目指すのではなく光を背に飛んだので、「光への脱出」仮説は否定されています。また、「月測位」仮説では昆虫がらせん状の軌跡を描いて光源に向かっていくはずだとされていますが、昆虫は光源の周りを安定飛行する動きを見せたので、この説も不適当です。

こうした点から研究チームは、「つまるところ、昆虫が光に捕らわれる現象は背光反射で最も簡明に説明できると考えられます。背光反射は基本的な感覚機構なので、昼行性か夜行性かを問わずさまざまな昆虫が光に誘引されることの説明がつきます」と結論付けました。


空を飛ぶ虫がこの背光反射を身につけたのは、上下方向を素早く感知するためです。平衡感覚を持つ人間は、重力を頼りにどの方向が上でその方向が下なのかを把握できますが、高速で飛び回る虫にとっては、体が引っ張られる方向が常に下であるとは限りません。そこで、昆虫は明るい方向を上、暗い方向は下だと認識することで、方向感覚をつかんでいるものと考えられます。

今回の研究には直接関与していないハーバード大学の研究員であるアバロン・オーエンズ氏は、科学系ニュースサイト・Live Scienceに対して「虫には、重力を利用して自分の体がどこにあるのかを知るのは困難です。なぜなら、彼らにとって飛ぶことは私たちが水の中を泳ぐようなものだからです。そこに人工的な照明が現れると、光に照らされた世界の半分が突然期待とは違う場所になってしまいます」とコメントしました。


オーエンズ氏によると、光は虫を捕らえてしまうだけでなく、幼虫の成長を妨げたり、ホタルの発光を邪魔したり、光を苦手とする昆虫の生息域を狭めたりするおそれがあるとのこと。そのため、オーエンズ氏は「この問題を解決する最も効果的な方法は、常に電気を消すことです」と話しました。

とはいえ、街中の明かりを消して完全な暗闇にするというのはあまり現実的な解決策ではありません。今回の研究ではほかにも、上向きや水平方向に光を発する照明に比べて、真下に投光する照明は昆虫への影響が最も少ないことが分かっています。この知見は、「光害を減らすためには、地面だけを照らす下向きの照明を使うべき」という科学者の長年の主張と合致します。

論文の著者のひとりであるフロリダ国際大学のヤシュ・ソンディ氏は、「ライトを上に向けて床に置くと、虫は逆さまになって墜落してしまいます。ですから、明かりは上に向けないようにしましょう。また、昆虫の視覚を考慮すると、青より赤に近いライトを使い、できる限り屋外の照明を消すのもいいでしょう」と話しました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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