学術出版社エルゼビアが掲載料引き下げを拒否したため学術委員会の全科学者が辞任
by ActuaLitté
世界的な学術誌の出版社・エルゼビアで、あまりにも利益率が高すぎるとして学術委員会が求めた掲載料の引き下げが拒否され、学術委員全員が辞任するという事態が発生しました。エルゼビアの利益率はGoogleやApple、Amazonをしのぐもので、今回の動きは巨人に対する反抗であるとして世界の学者からは称賛されているとのことです。
‘Too greedy’: mass walkout at global science journal over ‘unethical’ fees | Peer review and scientific publishing | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2023/may/07/too-greedy-mass-walkout-at-global-science-journal-over-unethical-fees
エルゼビアは自社の学術誌に論文を掲載する研究者から、「掲載料」という名目で料金を徴収しています。たとえば、脳神経画像に関する研究をリードする学術誌「NeuroImage」は無料で読めるオープンアクセス誌ですが、研究論文の著者は掲載にあたって3450ドル(約46万7000円)ほどを支払っています。元編集者はこれを「非倫理的」と表現し、関連費用とは無関係だと主張しています。
辞任した科学者の1人でカーディフ大学のクリス・チェンバーズ教授は「エルゼビアは学術界を食いものにして、科学にほとんど価値を与えることなく、莫大な利益を要求しています」と述べ、他の科学者たちに、エルゼビアの学術誌を捨てて、チームが代わりに立ち上げた非営利でオープンアクセスの学術誌に論文を投稿するように呼びかけました。
エルゼビアは世界の科学論文のうち18%を発行し、2022年の収益は前年比10%増の29億ポンド(約4940億円)。利益率は40%に上り、この部分が科学者の反発を呼んでいます。
「オープンアクセス研究の推進に取り組んでいる」というエルゼビアは、論文の掲載料について「その分野で最も近い同等の学術誌の価格を下回っています」と説明しています。
一方で、学術誌や教育向け書籍については印刷されたもの(書籍版)と電子書籍版の価格の違いについて大学図書館から怒りの声が挙がっています。マンチェスター大学図書館のクリス・プレスラー教授は「我々は教育と研究の両方において、搾取的な価格モデルの持続的攻撃にさらされています」と述べました。
一例として、植物生物学の教科書が書籍版なら75ポンド(約1万2800円)、電子書籍版なら3ユーザー向けで975ポンド(約16万6000円)という見積もりだったとのこと。人文科学・社会科学の学術誌を出しているラウトレッジによる研修生向け教科書「Learning to Read Mathematics in the Secondary School」も、書籍は35.99ポンド(約6130円)、電子書籍版は1ユーザー向けで560ポンド(約9万5300円)だったそうです。
ダービー大学の司書で、電子書籍を図書館も利用できるようなものにするためのキャンペーン「Campaign to investigate the Library ebook market」に携わるキャロライン・ボール氏は「こうした費用を支払う余裕がない機関もあります」と述べています。
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