幸せになるためには期待を低く見積もるべきなのか?
「どう生きれば幸福になれるのか」は人間にとって大きな問題であり、これまでにさまざまな回答が出されてきました。中には、「何にも期待しなければ、少なくとも期待値を低くすれば、ささいなことでも幸福だと感じられる」という思想を持っている人もいますが、アイルランド王立外科医学院のポジティブヘルスサイエンスセンターで上級講師を務めるJolanta Burke氏が、「人は期待を低く見積もっても幸福になれるわけではない」と主張しています。
Having low expectations probably won't make us happier – here's what psychology research says
https://theconversation.com/having-low-expectations-probably-wont-make-us-happier-heres-what-psychology-research-says-203084
2023年、世界幸福度報告(World Happiness Report)による幸福度ランキングでフィンランドが6年連続1位を獲得しました。北欧諸国がトップにランクインし続けている理由については、「所得の平等性」「自然の中で過ごす時間」など、さまざまな理由が提唱されています。
しかし、フィンランド出身の社会学教授であるJukka Savolainen氏は、フィンランドの幸福度が高い理由を「『よい生活についての期待』に現実的な限界を設ける文化的な方向性」にあると主張しています。つまり、フィンランドの人々は期待を低く見積もっているため、自分は幸福だと感じられているのだというわけです。
この説に対してBurke氏は、「それでは私たちは、より幸せになるために期待値を下げるべきなのでしょうか?私は、心理学の研究はその逆を示唆していると主張します」と述べ、人々は幸福になろうとして期待を低く見積もるべきではないと訴えています。
Burke氏は、将来への高い期待は夢を持って目指すべき目標を作成するために重要だと指摘。人々は具体的な目標について考えるメンタル・コントラストというプロセスを通じて将来への期待について判断し、どの夢を追求するのが現実的であり、どの夢を手放すべきなのかを決定しているとのこと。
たとえば、たくさんの友達に囲まれた生活を夢見ているものの、現実には孤独であることに悲しみを感じている場合、メンタル・コントラストはかなえたい夢と潜在的な障害を予測し、夢を実現するために「クラブに行って誰かに話しかけてみる」といった行動を計画するのに役立ちます。つまり、期待は現実的なものである場合、ポジティブな変化を起こす動機としての力を持っているというわけです。
また、「きっと最終的にうまくいく」という期待は、逆境にある人がそれでも前を向く原動力となります。たとえば、「いつか生涯寄り添えるパートナーと出会えるはず」という期待を持っている人は、たとえ1人のパートナーと破局したとしても、再び出会いを求めて動き出すことができます。
しかし、期待が低すぎると自分の状況を改善するための能力が制限され、変化に適応するのではなく無力感や絶望感につながる可能性があるとのこと。期待を持っていない人が逆境にさらされた場合、そこから抜け出そうと行動することがなく、可能性の高いチャンスにも飛びつけなくなってしまいます。Burke氏は、「大きな期待を抱くことは、ヘンカスル状況に適応し、前進し続けることにつながります。それはレジリエンス・適応力・ウェルビーイングの証です」と述べました。
重要なのは自分が自らに対して抱いている期待だけでなく、他者から期待をかけられる人はより高いパフォーマンスを出せる傾向もあります。これはピグマリオン効果と呼ばれるもので、他の人々が自分のことを有能であり高いパフォーマンスを出せる人間だと思っている場合、自分はその期待に応えるために努力しようという気持ちになります。一方、他の人からの期待値が低い場合、パフォーマンスが低下する傾向があるとのこと。
期待を持つことはおおむね良い影響をもたらしますが、期待値を高く設定しすぎると悪影響が生じる可能性もあるとのこと。自分のスキルを過大評価し、無理な目標に挑んで失敗してしまった場合、欲求不満や不安を引き起こすことがあるとBurke氏は指摘しています。
この問題を回避するためには、単純に「自分のスキルに見合った期待を持つ」ことが必要です。たとえば、ディナーパーティーであまりに難しい料理に挑戦して失敗すれば、パーティーを楽しむことができなくなってしまうかもしれません。これを回避するには、パーティーに出す料理の難易度をもう少し下げて、いつもより気合いは入っているものの失敗はしなさそうなものにすることが有効です。
Burke氏は、「自分に期待したくないと思う理由の1つに、希望がかなわなかった時の失望から自分を守りたいというものがありますが、これは正しい懸念です。しかし、悲しみやいらだちが襲ってきた時に感情をコントロールできるようになれば、逆境に効果的に対処できるようになります。目標を設定し、達成しようとする意欲を高めるという点では、高い期待のメリットは低い期待から得られるメリットよりも優れています。これらのことを考慮すると、フィンランド人が幸福なのは期待値が低いからだと考えるのは、あまりに単純だと思います」と述べました。
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