白髪の発生は幹細胞の「立ち往生」が原因との研究結果、細胞の運動機能を回復させればまた黒髪に戻れる可能性
髪の色が抜けて白くなってしまうのは、白髪の人にとって悩みの種です。マウスの毛を繰り返し抜いて毛包を強制的に老化させてしまう実験により、色素を作る細胞が毛包の中を移動しながら成熟と若返りを繰り返すユニークな能力を持っていることや、それが失われることで白髪になってしまうメカニズムが判明しました。
Dedifferentiation maintains melanocyte stem cells in a dynamic niche | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-023-05960-6
Study Links ‘Stuck’ Stem Cells to Hair Turning Gray | NYU Langone News
https://nyulangone.org/news/study-links-stuck-stem-cells-hair-turning-gray
Scientists May Have Finally Worked Out Why Hair Turns Gray – And Possibly How to Stop It : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-may-have-finally-worked-out-why-hair-turns-gray-and-possibly-how-to-stop-it
以前から、白髪の原因は「メラノサイト」と呼ばれる特殊な色素細胞の不足だということが知られています。しかし、一体なぜこれが不足してしまうのか、白髪になるのを防ぐにはどうしたらいいのかは分かっていませんでした。
この問題の解明に取りかかったニューヨーク大学の研究チームは、まず「メラノサイト幹細胞」という細胞に注目しました。研究チームによると、このメラノサイト幹細胞は、毛が生育している毛包にメラノサイトを供給して毛に色を付ける役割を担っているとのこと。メラノサイト幹細胞は、毛が生えているうちは毛包の上部にある毛包バルジ(Bulge)という部分で待機していますが、毛が抜けてから新しい毛の生育が始まると再び成長区画に移動してメラノサイトを供給します。
by Ueno, M., Aoto, T., Mohri, Y., Yokozeki, H. and Nishimura, E. K. (2014)
研究チームが、マウスの毛を何度も生え替わらせて強制的に老化させる実験を行った結果、毛包バルジで立ち往生してしまうメラノサイト幹細胞が増加したことが確かめられました。メラノサイト幹細胞が老化によって運動性が失われ、毛包バルジの中から動けなくなると、成長中の毛にメラノサイトを供給することができなくなってしまい、これが白髪の原因になります。
一方、毛包バルジと毛乳頭との間を往復し続けられたメラノサイト幹細胞は、マウスの寿命に当たる2年の間、再生能力やメラノサイトへの成熟能力、色素を生み出す機能を維持することができました。
このマウスでの実験結果について、研究チームのQi Sun氏は「これは、メラノサイト幹細胞がどのようにして髪を着色するのかについての基本的な理解を深めるものです。メラノサイト幹細胞の位置が固定されてしまう現象は、人間にも存在する可能性があります。もしそうなら、立ち往生した細胞が発育中の毛包区画の間を再び移動できるよう手助けすることによって、人間の白髪を元通りにしたり予防したりできる可能性が示されました」と話しました。
以下は、ピンク色のメラノサイト幹細胞が休止期(左)から初期の成長期(右)に変化する際の様子を表したものです。
今回の研究ではほかにも、メラノサイト幹細胞にはメラノサイトを生み出す過程でTA細胞(transit-amplifying cell)に分化した後、また幹細胞に戻る特殊な能力があることも分かりました。
TA細胞は、メラノサイトとメラノサイト幹細胞の中間状態のような形態ですが、普通の幹細胞はTA細胞になると元に戻ることはできません。一方、メラノサイト幹細胞は発育中の毛包の中を移動する過程でさまざまなシグナルとなるタンパク質にさらされることで、幹細胞とTA細胞との間を行き来できるとのこと。しかし、毛包バルジから動けなくなったメラノサイト幹細胞はこのサイクルから切り離されるので、メラノサイトを供給できなくなってしまいます。
毛の発育に応じて移動する性質は、メラノサイト幹細胞に特有のものです。例えば、毛を生やす毛包幹細胞は移動をしなくても毛包細胞に移行できるので、メラノサイト幹細胞がいなくなってしまっても新しい毛、つまり白髪を生やすことができます。
研究の責任者であるニューヨーク大学グロスマン医学部の伊藤真由美氏は「白髪が生えたり、髪の色が抜けたりする原因は、メラノサイト幹細胞のカメレオン的な機能の喪失にあると考えられます。これらの知見は、メラノサイト幹細胞の運動性と可逆的な分化が、髪の毛の健康と色を保つ鍵であることを示唆しています」と話しました。
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