人間はたった数秒で「偽の記憶」を作り出してしまうことが実験で明らかに

昔の記憶はあやふやなものであり、「偽の記憶や空想を事実だと誤認していた」という経験がある人も多いはず。ところが、オランダの研究チームが行った実験により、「人はたった数秒前に見たものでも偽の記憶を作ってしまうことがある」と判明しました。
Seeing Ɔ, remembering C: Illusions in short-term memory | PLOS ONE
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0283257

False Memories Can Form Within Seconds, Study Finds
https://gizmodo.com/false-memories-can-form-within-seconds-study-finds-1850303900
Human memory may be unreliable after just a few seconds, scientists find | Neuroscience | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2023/apr/05/short-term-memory-illusions-study
人間の記憶はかなり不確かなものであることが過去数十年の研究で示されており、存在しなかった出来事の記憶が捏造(ねつぞう)されることも珍しい事例ではありません。記憶のミスに関する研究の多くは長期記憶に焦点を当てたものですが、アムステルダム大学の認知心理学者であるMarte Otten氏らの研究チームは、短期記憶における潜在的な不確かさを調べる研究に取り組みました。
過去の研究では、回転した文字または反転した文字が提示された場合、被験者は「正しい形の文字を見た」と誤認することが多いことがわかっています。研究者らはこの現象が記憶ではなく知覚のミスだと考えてきましたが、Otten氏らは被験者が瞬時に「偽の記憶」を作った可能性があると考えて、数百人の被験者を対象にした複数の実験を行いました。
1つ目の実験では、基本的な視覚認識タスクを完了できることを確認した被験者に対し、6個または8個の文字が円形に並んだ「図1」を見せ、「図1」が消えてから0.75秒または3秒後に、円のどこに位置していた文字が思い出すべきターゲットなのかを提示しました。その1.5秒または3.75秒後に「図1」とは別の文字が記された「図2」を見せて、「図2」が消えた後で候補となる複数の選択肢を提示し、候補の中からターゲットとなった「図1」の文字がどれかを選ばせました。この「図1」や「図2」に表示された文字のうち1個か2個は、アルファベットが反転したものになっていたとのこと。

また、円形に文字が並んだ「図1」が消えてから0.75秒後に、「図2」と共にどこの文字が思い出すべきターゲットなのかが提示されるバージョンも行われました。いずれのバージョンでも、被験者に自分の回答がどれほど正しい自信があるのかを4段階で評価してもらいました。

実験の結果、「回答に自信がある」と評価する頻度が高かった23人の被験者が最もよく犯したミスは、ターゲットとなる文字の反転・非反転の選択ミスでした。しかし、ターゲットが反転文字だった時に被験者が「正常な文字を見た」と誤答する割合は37%だった一方、ターゲットが正常な文字だった時に被験者が「反転した文字を見た」と誤答する割合は11%にとどまりました。
これ以外にも、研究チームは正常な文字に反転文字を混ぜた図を被験者に見せ、後から特定の文字を思い出してもらう複数の実験を行いました。これらの実験でも同様の傾向が見られ、ターゲットが正常な文字だった場合の誤答率は10%程度だった一方で、ターゲットが反転文字だった場合の誤答率は最大40%に達したとのこと。また、文字が消えてから思い出してもらうまでの時間が長いほど誤答率が上昇しましたが、これもターゲットが反転文字だった場合に限られたそうです。
研究チームはこれらの結果から、被験者のミスが見た目の類似性による「知覚の誤り」ではなく、アルファベットに関する事前知識によって引き起こされた「短期記憶の誤り」によるものだと結論付けました。Otten氏は、「たとえ短期間であっても、私たちの記憶は完全に信頼できるものではないかもしれません」「特に、世界がどうあるべきかという強い期待を持っている場合、記憶が少し薄れ始めると、それが数秒後であっても期待に基づいて記憶を補い始めるのです」「つまり、正しく対象を見たにもかかわらず、それを記憶した途端におかしくなってしまうのです」と述べています。

今回の研究は、人生を通じて知識が強化されてきた「文字」に関するものでしたが、Otten氏の研究チームはその他のさまざまなシチュエーションでも同様の現象が見られるかどうかについて、さらに調査を続けることを望んでいます。
Otten氏は、「私は偏見やステレオタイプ、個人の信念といった社会的知識が短期記憶に与える影響を検証することに興味があります。たとえば、性別に基づく他人への期待は、瞬時に声や表情についての記憶を形成し始めるのでしょうか?あるいは、あるデータが気候変動に関する自分の信念に合わないため、ほんの数秒後に間違って記憶されるのでしょうか?」「これらは、6個の文字が並んだディスプレイを見てもらうより明らかに複雑な問題ですが、さらに研究を進めていきたいと思います」と述べました。

・関連記事
大麻を使用すると「偽の記憶」が作られてしまい犯罪捜査における「信用できない証人」になる可能性がある - GIGAZINE
偽の記憶にまつわる「記憶の7つの罪」とは?なぜ自白を証拠にしてはならないのか? - GIGAZINE
「偽の記憶」は脳のどの部分で作られるのか? - GIGAZINE
鳥に「偽の歌の記憶」を植え付けることに成功 - GIGAZINE
睡眠不足は記憶喪失の原因となり、さらにアルツハイマーの元となるタンパク質も蓄積してしまうことが判明 - GIGAZINE
驚異の記憶力で過去の出来事を細部まで思い出せる「ハイパーサイメシア(超記憶症候群)」の人々の頭の中で起こっていることとは? - GIGAZINE
「脳の記憶が雑」なせいで知識が増えるとかえって「思い出す力」が落ちる可能性、ただし創造性や決断力がアップする側面も - GIGAZINE
記憶を定着させて効率的に学習する方法とは? - GIGAZINE
「水を飲む」など記憶力をブーストするちょっとした習慣6選 - GIGAZINE
突然よみがえる「恥ずかしい記憶」をなぜ人間はなかなか忘れられないのか? - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in サイエンス, Posted by log1h_ik
You can read the machine translated English article Experiments reveal that humans create ``….