サイエンス

SF作品に触れることが「世界的な連帯感」を育む役に立つ可能性がある


SF(サイエンス・フィクション)は科学的なバックグラウンドに基づいたフィクション作品であり、過去のSF作品に記された内容が後年に現実のものとなったり未来の軍事的脅威を予測するためにSFに目が向けられたりするケースもあります。中国で行われた研究では、SF作品に触れることが「世界的な連帯感」を育む上で役立つ可能性があると示されました。

Entertainment for Cosmopolitism: Science Fiction Fosters Identification With All Humanity via Awe - Fuzhong Wu, Zheng Zhang, 2024
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00936502241295300


Science fiction may help foster a sense of global solidarity by evoking awe, study finds
https://www.psypost.org/science-fiction-may-help-foster-a-sense-of-global-solidarity-by-evoking-awe-study-finds/

過去の研究では、ある種の物語が人々の共感を促したり、偏見を減らしたりすることが示されていますが、これらの研究の多くは特定にストーリーラインや感情に焦点を当てています。そこで、中国の蘇州大学清華大学などの研究チームは、SFのようなジャンル全体が人々の社会的態度に影響を及ぼすかどうかを調査しました。

研究チームが特に注目したのが、「全人類との同一化」という概念です。これは、国籍・人種・背景に関係なく、その人が世界中すべての人々とどれほどつながっていると感じるかを指しています。「全人類との同一化」は、世界中の他者に対する関心を持つ包括的なアイデンティティを反映しており、国際活動への寄付・難民支援・環境への配慮といった向社会的な行動と関連付けられているとのこと。

研究チームは今回の研究にあたり、「SF作品は想像力に富んだ世界と人類が共有する未来によく焦点を当てているため、人々に対してよりグローバルな視点を持つように促すのではないか」という仮説を立てて、検証のための実験を行いました。


研究チームは3つの実験を行いました。最初の実験では中国全土から募集した1060人を対象に、「SF」「ロマンス」「コメディ」「アクションアドベンチャー」「ドキュメンタリー」など、12ジャンルいずれかの映画について思い出すように依頼しました。その後、思い出した映画が「畏敬の念」「感謝」「思いやり」「称賛」「希望」といった感情をどの程度喚起したのかを尋ねました。

その結果、SFはその他すべてのジャンルと比較して、「畏敬の念」と最も強く関連付けられていることが判明。重要なことに、同様のパターンはその他の自己超越的な感情にはみられず、畏敬の念の増加はSF独特の反応だったことが示唆されています。


2つ目の実験では、約1000人の被験者が「あるテーマを扱ったSF小説」「同じテーマを扱った現実的な小説」「同じテーマについて語っているが物語ではない文章」のいずれかを読むように、ランダムで割り当てられました。そして読書の後、感情的な反応や他の人々とのつながりをどれほど感じたのか調査しました。

調査により、SF小説を読んだ人々は他のグループの人々よりもかなり強い畏敬の念を感じると共に、より高いレベルで「全人類との同一化」を感じていることがわかりました。統計分析によると、畏敬の念が増加することによって、人々のグローバルな認識が強化されていたとのこと。


また3つ目の実験では、543人の大学生を2カ月にわたって追跡し、調査機関中のさまざまなタイミングで「最近どれだけSFに触れたか」「日常の中でどれほど畏敬の念を感じたか」「『全人類との同一化』にどれほど強く共感しているか」を報告してもらいました。

その結果、SFに関与すればするほど日常的な畏敬の念が増加し、最終的に「全人類との同一化」への共感が増すことが示されました。つまり、SFに没頭すればするほど日常生活で畏敬の念を抱く可能性が高くなり、それがより強固なグローバルアイデンティティの構築につながったというわけです。

さらにこの実験では、すでに全人類に強く共感している被験者は、翌月により多くのSFコンテンツを求める傾向も確認されました。これは、グローバルな団結を重視する人々がこの考えを強化するメディアに引きつけられるというフィードバックループを示唆しており、その結果としてさらにアイデンティティが強化されるとみられます。


なお、今回の実験ではいずれも一貫した結果が得られたものの、被験者全員が集団主義的価値観が強い中国の人々だったため、他の文化的環境では異なる結果が出る可能性もあるとのこと。

研究チームは、SFは「全人類との同一化」を促進する唯一のジャンルではなく、ドラマやロマンスといったジャンルも思いやりや愛といった感情を通じ、世界への関心を醸成する可能性があると強調しています。それでも心理学系メディアのPsyPostは、「しかしながらSFは心を拡大し、宇宙における人類の位置に対して驚く気持ちを刺激することで、独特の方法で『全人類との同一化』を育んでいるように見えます」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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