「脳波を読み取るインプラント」で1000語以上の単語を出力してコミュニケーションすることに成功
体のマヒと発話障害を抱えた男性が「脳波を読み取って文章に変換するインプラント」を使用することで、合計1152語もの単語を操って文章によるリアルタイムのコミュニケーションが可能になったと報告されました。
Generalizable spelling using a speech neuroprosthesis in an individual with severe limb and vocal paralysis | Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-022-33611-3
Brainwave-Reading Implant Helps Paralyzed Man Who Can't Speak Spell Out 1,150 Words : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/brainwave-reading-implant-helps-paralyzed-man-who-cant-speak-spell-out-1150-words
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームは、2021年にFacebookと協力して「話す能力を失った被験者の思考を脳に埋め込んだインプラントで読み取る」という研究について発表しました。
思考をコンピューターにリアルタイムで出力することにFacebookが成功 - GIGAZINE
研究に参加した「BRAVO1(Brain-Computer Interface Restoration of Arm and Voice trial-1)」と呼ばれる患者は、20歳の時に脳卒中を患ってから発話能力を失ってしまい、体もマヒによって動かなくなってしまいました。そのため、普段は野球帽の上に取り付けたポインターでスクリーン上のキーボードをタッチして言葉を伝えているとのこと。
研究チームは、BRAVO1の脳で発話をつかさどる運動性言語中枢の上に高密度電極を外科的に埋め込み、頭蓋骨のポートを通じて電気パターンを検出できるようにしました。BRAVO1はアルファベットの26文字を表す鍵単語を頭の中に思い浮かべることで単語を伝えられるそうで、論文の筆頭著者であるSean Metzger氏は「もし彼が『cat(猫)』と言いたい場合、『charlie(c)-alpha(a)-tango(t)』と言うのです」と解説しています。
脳インプラントから送られた信号は「脳信号処理」「発話検知」「単語分類」「言語モデリング」といったコンピューター処理を経て、コンピューター画面にリアルタイムで出力される仕組みです。2021年の発表時点では、50語の限られた語彙(ごい)に焦点を当てていました。
研究チームは新たな研究で、BRAVO1と共に分類・検出モデルをトレーニングすることで、解読できる単語数を1152語まで拡大することに成功しました。これは自然な英語文で使われる単語の85%以上をカバーしており、事後シミュレーションでは多くの人が1年間に使う単語数に匹敵する9000語まで拡張できることが示されたとのこと。BRAVO1は脳インプラントを使ったシステムで1分間に29.4文字を出力することができ、エラー率の中央値は6.13%でした。
研究チームはこのシステムを使ってBRAVO1とのコミュニケーションを行っており、Metzger氏は「BRAVO1はこのシステムで私たちと迅速かつ簡単にコミュニケーションできるため、デバイスの使用を本当に楽しんでいました」と述べています。
研究の中でBRAVO1に対して何でも好きなことを話すように頼んだところ、「住んでいる施設の食べ物がかなり口に合わない」といった私的なことも知ることができたとのこと。BRAVO1が特に好きな言葉は、「Anything is possible(何でもできる)」だそうです。
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