ニューヨークでは「蒸気」を使った暖房や給湯システムが現役で稼働中、一体どのように機能しているのか?
by Keisuke Omi
世界有数の大都市であるアメリカ・ニューヨーク市では、意外なことに「蒸気」を用いた暖房や給湯システムが現役で稼働しています。ニューヨーク市の蒸気システムがどのように機能しているのか、一体どのような利点があるのかといった疑問について、ニューヨーク市のさまざまな話題を取り上げるUntapped New Yorkがまとめています。
How the New York City Steam System Works - Untapped New York
https://untappedcities.com/2021/07/09/new-york-city-steam-system/
ニューヨーク市の街中では、以下の写真にあるような白とオレンジのしま模様をした煙突から、白い蒸気が噴出している光景を見ることができます。これは、ニューヨーク市の地下に張り巡らされた蒸気ネットワークシステムの一部であり、蒸気の漏れる位置を可能な限り車両や歩行者から遠ざけると共に、蒸気システムの状態を監視する役割も持っているとのこと。
世界初の蒸気機関と呼ばれるアイオロスの球が記述されたのは古代ローマ時代のことであり、実際に蒸気機関が広く使われるようになったのは18世紀のことです。そして1877年、ニューヨーク州ロックポートに住んでいたバージル・ホリーというエンジニアは、「地下室で蒸気を発生させることで家を暖める」というシステムを考案。ホリーはニューヨーク市の投資家や都市開発者にこの技術を売り込み、興味を引くことに成功しました。
当時のニューヨーク市は超高層ビルブームのまっただ中であり、エンジニアたちは高層ビルを暖める効率的な方法について検討している時期でした。蒸気はエネルギーを必要とせずに自然と上へ向かうため、ホリーが考案した蒸気による暖房システムは高層ビルの暖房に適していたとのこと。
ニューヨーク市はアメリカの主要都市で最も早い1882年に蒸気システムを導入し、記事作成時点でもアメリカ最大の蒸気システムを有しています。記事作成時点ではマンハッタン島を中心に、実に105マイル(約169km)もの蒸気管がニューヨーク市の地下に張り巡らされており、エンパイア・ステート・ビルディングやクライスラー・ビルディング、グランド・セントラル駅、国際連合本部ビル、ロックフェラー・センターなど、実に1500を超える建物にエネルギーを提供しています。
ニューヨーク市の蒸気は、個人および公有のさまざまな建物・施設内にある蒸気プラントや、蒸気と電気を同時に作るコージェネレーションプラントで作られるとのこと。コージェネレーションプラントは1つの燃料源から電気と蒸気の両方を生成するため、非常に効率的なエネルギー生産が可能だそうです。
ニューヨーク市の蒸気事業を手がけるCon Edisonで蒸気事業担当ゼネラルマネージャーを務めるフランク・クオモ氏は、「Con Edisonの蒸気サービスは、マンハッタンのビルで利用可能な他のすべてのオプションと比較して、供給されるエネルギー単位あたりの炭素排出強度が最も低くなっています」とコメント。近年は環境意識の高まりから、蒸気システムへの関心が再燃しているそうです。
Con Edisonが供給する蒸気はカ氏450~475度(セ氏約232度~246度)であり、建物の暖房や給湯に利用されています。また、夏場には空気を冷やすための大型スチームチラーに蒸気を利用している建物もあるほか、ドライクリーニング、病院でのスチーム滅菌、ニューヨーク近代美術館などの加湿にも利用されているとのこと。
蒸気は比較的クリーンなエネルギー源であることに加え、病院などが設備維持に使用する電気の量を減らすことで、電力をMRIや救命装置などその他の重要な機器に割り当てることを可能にします。また、建物本体に必要な設備が少ないため、利用可能な地下空間が小さい場合や地下室を広くしたい場合、蒸気システムを導入する大きなメリットがあります。
以下の写真は、エンパイア・ステート・ビルディングにある蒸気プラントです。
Con Edisonの蒸気プラントでは、可能な限り純水に近づけた水を特定の圧力と温度になるようにコントロールしつつ加熱し、生産した蒸気をシステムに流しています。使用される燃料は97%が天然ガスであり、冬場や緊急事態のみ燃料油が使用されているそうです。また、長さ105マイルの蒸気管ネットワークはすべて相互接続されているため、どこかの蒸気プラントで生産が滞った場合でも、別の蒸気プラントで生産した蒸気を顧客の建物まで届けることができる仕組みとなっています。なお、蒸気システムの多くは年中無休でリモート監視されているものの、実際に蒸気管をメンテナンスするには地面を掘り返すしかないとのこと。
蒸気システムによる収益はCon Edison全体の数%にすぎませんが、記事作成時点ではシステムの拡張は検討していません。その代わり、蒸気管ネットワークが張り巡らされている範囲内で、新たな顧客を獲得することに注力しています。
クオモ氏は、「Con Edisonの蒸気システムに使用する燃料は、石炭、重油、天然ガスと進化してきました。私たちは再生可能燃料や再生可能テクノロジーを使ったシステムのグリーン化に取り組んでいます。未来の燃料が何であるかはわかりませんが、それが何であれ私たちは購入し、街を動かすために使っていくつもりです」と述べました。
by Phil Roeder
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