チェスでAI不正疑惑のハンス・ニーマンが反撃、Chess.comやマグヌス・カールセンに1億ドルの訴訟
チェスのプレイ中に不正を働いたという疑惑をかけられていたグランドマスター、ハンス・ニーマン氏がついに反撃に転じ、かねてからニーマン氏の不正疑惑に言及していたグランドマスターのマグヌス・カールセン氏らに対し、自身の名誉を毀損(きそん)したとする1億ドル(約150億円)の訴訟を提起しました。
gov.uscourts.moed.198608.1.0.pdf
(PDFファイル)https://storage.courtlistener.com/recap/gov.uscourts.moed.198608/gov.uscourts.moed.198608.1.0.pdf
Hans Niemann Files $100 Million Lawsuit Against Magnus Carlsen, Chess.com Over Cheating Allegations - WSJ
https://www.wsj.com/articles/chess-cheating-hans-niemann-magnus-carlsen-lawsuit-11666291319
訴訟においてニーマン氏は、オンラインチェスサイトの「Chess.com」やカールセン氏らが「中傷行為」や「違法な結託」によってニーマン氏をプロチェス界から締め出したため、壊滅的な損害を被ったと主張しています。
Chess.comはカールセン氏が携わったチェスアプリ「Play Magnuns」を約8300万ドル(約12億円)で買収しており、この利害関係が両者の共謀を生んだとニーマン氏は主張しています。ニーマン氏はこの2者を含め、自身に不正疑惑をかけたグランドマスターのヒカル・ナカムラ氏を、誹謗(ひぼう)中傷や名誉毀損、不正なボイコット、およびニーマン氏のビジネスに対する不法な干渉で訴えました。
ニーマン氏の不正疑惑は2022年9月4日に行われた対面対局「シンクフィールド・カップ」に端を発します。アメリカのセントルイスで行われた本トーナメントにおいて、53連勝中のカールセン氏は対戦相手のニーマン氏に敗れ、その後に予定されていた6試合を欠場しました。
当時カールセン氏は欠場の理由を明らかにしていませんでしたが、不正を疑っていることを匂わせるようなツイートを投稿していたため、カールセン氏の真意を推測する声がささやかれていました。この声を受け、19歳のニーマン氏は「12歳と16歳のときにオンライン対戦で不正をしたことがある」と認めたものの、現在は人生最大の過ちだったと反省していると語り、対面対局中に不正をしたことは一切ないと反論しました。加えて、シンクフィールド・カップの運営側は「不正行為はなかった」とする公式声明を発表しています。
Official statement from Chief Arbiter of the 2022 #SinquefieldCup, @ChrisBirdIA: pic.twitter.com/QQrEDamLbH
— Grand Chess Tour (@GrandChessTour) September 10, 2022
しかしながら疑惑が晴れることはなく、グランドマスターのダニエル・レンシュ氏率いるChess.comは2022年9月9日にニーマン氏を追放したことを明らかにしました。Chess.comは「ニーマン氏に連絡を取り、決定について説明し、彼の主張と矛盾する情報を共有しました。ニーマン氏が再びChess.comに参加できる解決策を見つけることを期待して、説明を行うよう求めました」と述べていますが、不正を裏付ける確たる証拠が示されなかったため、チェスコミュニティでは賛否両論の声が起こりました。15年間にわたりチャンピオンの座を守り続けた元プロプレイヤーのガルリ・カスパロフ氏は「うわさやへりくつで派閥を作るとチェス界にダメージを与えます」と警告し、証拠も示さずにプレイヤーを追放したChess.comに疑問を呈しました。
さらに、2022年9月19日に行われたオンライン対局「Julius Baer Generation Cup」で再びニーマン氏と対局したカールセン氏は、自身の2手目を指すことなく投了しました。翌週、カールセン氏は公式に「ニーマン氏が不正行為をしていると考えた」という声明を発表し、不正は2度だけと主張するニーマン氏に関し「もっと多くの不正を行っている」と指摘しました。しかし、不正が具体的にどの試合で行われたのか、カールセン氏が何らかの証拠を握っているのかなど、詳細は明らかにされていませんでした。
その後2022年10月5日、Chess.comはプラットフォームで行われたニーマン氏の対戦結果を分析し、「100回以上不正を行った可能性がある」と指摘しました。この結果はプレイヤーのパフォーマンスを分析したり、プレイヤーが別のタブを開くなどの行動を検出するツールを用いたりした結果もたらされたものだとChess.comは説明しています。
このような経緯があり、ついにニーマン氏が反撃の一手を打ったというわけです。被告の中にヒカル・ナカムラ氏の名前がありますが、ナカムラ氏は精力的にストリーミング活動を行う影響力の強い人物であり、直接ニーマン氏と対峙したわけではないものの、配信を行いながらカールセン氏の肩を持って状況を分析していたことが理由となっています。ナカムラ氏に対し、ニーマン氏は自身の疑惑について説明した約30分の動画を見て状況を正しく分析して欲しいと訴えかけていましたが、ナカムラ氏はこれに応じませんでした。これらのことから、ニーマン氏は訴状にて「ナカムラ氏はカールセン氏とChess.comと共謀して、不正疑惑を助長しようとする何時間ものビデオコンテンツを公開し、さらに多くの中傷的な発言で補強しようとした」と訴えています。
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