電気自動車はガソリン車より大幅にエネルギー効率がいい、その理由とは?

電気自動車とガソリン車の違いは、単にモーターを動かすために使用されるのが電力かガソリンかという点だけでなく、「エネルギー効率」の点でも両者には大きな違いがあります。実は、電気自動車のエネルギー効率はガソリン車と比較して驚くほど高いとのことで、その理由についてイェール大学の気候に関する広報サイト・Yale Climate Connectionsがまとめています。
Electrifying transportation reduces emissions AND saves massive amounts of energy » Yale Climate Connections
https://yaleclimateconnections.org/2022/08/electrifying-transportation-reduces-emissions-and-saves-massive-amounts-of-energy/
Electric Vehicles Are Way, Way More Energy-Efficient Than Internal Combustion Vehicles
https://www.motortrend.com/news/evs-more-efficient-than-internal-combustion-engines/
地質学や気候学関連のライターであるカリン・カーク氏は、ガソリン車に用いられる内燃機関は根本的に非効率的だと指摘。従来のガソリン車は、燃料となるガソリンに含まれるエネルギーの約80%を浪費しており、実際に車輪を前に進めるために利用されるエネルギーは約20%に過ぎないそうです。
内燃機関が非効率なのは、熱力学的な理由によるものです。内燃機関は液体燃料を熱して加圧ガスを生成し、ピストンを押してクランクシャフトを回すことで車輪を回転させますが、その過程で多くのエネルギーが熱などに変換されて逃げてしまうため、車輪に到達するエネルギーは限られています。
ガソリン車において浪費されるエネルギーと車輪に到達するエネルギーを示した画像が以下。ガソリンに含まれるエネルギーのおよそ68~72%はエンジンの廃熱となり、4~6%がエンジンの冷却システムなどの動力として使われ、さらにトランスミッションなどのドライブ機構における機械的摩擦で3~5%のエネルギー損失が生じます。また、オーディオやライトなどの補助電機部品に使われるエネルギーは最大2%におよび、最終的に車輪の動力になるのはガソリン全体の16~25%に過ぎません。つまり、約800円で5リットルのガソリンを購入したとしても、車が移動するのに使われるのは1リットル(約160円分)だけであり、残る4リットル(約640円)は別のところで消費されてしまうというわけです。

燃費のいい車はより軽く、小さく、空力的に優れているため、駆動部品にたどり着くエネルギーを最大限に利用することは可能ですが、内燃機関の構造上のエネルギー損失を回避するようにはできていません。そのためカーク氏は、「最も燃費のいいガソリン車でさえこれらのエネルギー損失を回避することはできません」と指摘し、ガソリン車より効率的なディーゼルエンジンでも60%程度のエネルギーが熱などで失われていると述べています。
一方、電気自動車はガソリン車とはまったく異なるシステムで推進されます。エネルギーは電気の形態で車両内に充電され、「液体燃料を燃やしてガスにする」のように別のエネルギーへ変換されることなく、直接駆動部品にエネルギーを供給します。電気モーターは内燃機関と比較すれば可動部品が非常に少ない構造であり、動く過程におけるエネルギー損失も少ないほか、車輪の回転を発電機とする回生ブレーキによって、摩擦や熱として失われるエネルギーを電気エネルギーとして回収することも可能です。
電気自動車におけるエネルギー効率を示した図が以下。もちろん電気自動車でもいくらかのエネルギー損失は避けられず、充電時に10%ほどのエネルギー損失が生じるほか、約18%が駆動プロセスで失われたり約3%が冷却システムなどで失われたりします。また、補助電気部品で消費されるエネルギー量は最大4%で、冬の暖房に廃熱を使いにくいこともあって多少ガソリン車より多めです。しかし、駆動部品に到達せずに失われるエネルギー損失は31~35%にとどまっており、回生ブレーキによるエネルギー回収率が22%となっているため、総合的には充電エネルギーの87~91%が車輪を動かすために使われる計算になります。

アメリカでは1日あたり890万バレル(約14億1500万リットル)もの自動車用ガソリンが使われていますが、エネルギー的に見ると全体の約8割が熱や摩擦などで浪費されており、車両の推進に利用されているのはわずか180万バレル(約2億8600万リットル)相当のエネルギーに過ぎません。もし、ガソリン車をすべて電気自動車に置き換えた場合、消費されるエネルギー総量は11%のエネルギー損失を加えてもせいぜいガソリン200万バレル(約3億1800万リットル)相当であり、大幅なコストとエネルギーの節約が達成できます。
もちろん、電気の発電時にもエネルギー損失は生じてしまうため、燃料となる化石燃料や原子力などに含まれるエネルギーがすべて電気エネルギーに変換されるわけではありません。しかし、発電所はガソリン車の内燃機関よりも効率的であるため、石炭/原子力発電のエネルギー効率は約33%、天然ガス発電所なら約44%とのことで、水力発電に至っては約90%もの発電効率を誇っています。
発電所におけるエネルギー効率を考慮し、電気自動車におけるエネルギー効率を示した図が以下。石炭火力発電ならエネルギー効率は31%、天然ガス発電なら48%、水力発電なら75%と、ガソリン車を上回る効率でエネルギーを推進力に変えることが可能です。

さらにカーク氏は電気自動車のバッテリー製造プロセスにも目を向けていますが、バッテリー製造に必要なエネルギーはガソリン約74ガロン(約280リットル)相当とのことで、電気自動車に切り替えればあっという間に元が取れる計算です。
カーク氏は、世界のエネルギーを脱炭素化するのは巨大で困難な課題だと認めつつ、少なくとも自動車分野においては電気自動車への移行で大幅に改善できると主張。「電気自動車は走行効率を大幅に向上させるので、二酸化炭素や環境汚染物質の排出量を減らすことができ、同時にエネルギー需要全体も減らすことができます。厳しいトレードオフの世界において、これは楽な勝利です」と述べました。

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