メモ

ウェブサイトの改善をプロに依頼したら予想以上の時間とコストがかかって後悔した話


「ウェブサイトの設計変更をプロのデザイナーに依頼したら、当初は順調だったプロジェクトの進捗が次第に遅れがちになり、予想を大幅に超過する期間とコストがかかってしまった」という体験談を、エンジニアで自身のショップを運営しているMichael Lynch氏が記しています。

I Regret my $46k Website Redesign · mtlynch.io
https://mtlynch.io/tinypilot-redesign/

Linch氏は2020年、コンピューターを遠隔操作するインターフェースとハードウェアを統合した「TinyPilot」というデバイスを開発し、ネットショップでの販売を開始しました。TinyPilotがどのようなデバイスになっているのかは、以下の記事を読むとわかります。

1万円以内でPCをOS起動前から遠隔操作できるシステムを構築する方法 - GIGAZINE


TinyPilotは順調に成長を続け、2021年には月間収益が4万5000ドル(約620万円)にまで達しました。当時、Linch氏のウェブサイトは自身のデザインとテンプレートを組み合わせたものであり、「大学生の趣味プロジェクト」のような出来栄えだったそうですが、ビジネスが軌道に乗ったこともあり「プロのデザイナーを雇ってウェブサイトを再設計しよう」と決意したとのこと。

なお、以下が再設計前のTinyPilotのウェブサイト。製品画像や解説動画の埋め込みなどで構成されたシンプルなものであることがわかります。Linch氏はトップページや購入ページなど合計3つのページを再設計しようと考えており、必要期間は2~3カ月、コストは1万5000ドル(約200万円)ほどだろうと見積もっていました。


Linch氏はウェブサイトの再設計のため、インターネット上で自身の需要にあった代理店を通じて依頼を行いました。Linch氏は「私は代理店をバッシングしようとしているわけではありません」と主張。Linch氏がデザインを依頼した代理店を「WebAgency」と仮称し、デザインやカスタムイラスト、3Dイメージなどのスキルがあるとうたっていたと記しています。

WebAgencyのCEOであるIsaac氏は最初にLinch氏とやり取りした際、全面的な再設計ではなくロゴ・配色・フォントなどの基本事項に焦点を当てた「リブランド」に切り替え、全体的なコストを削減することを提案。まずはコストを抑えたリブランドを行った後、収益の改善率を測定して再設計を続けるかどうか確認するのはどうかと伝えてきたそうです。この提案はLinch氏の耳にも賢いものに聞こえ、Isaac氏への信頼感を抱いたと述べています。


WebAgencyの見積もりではリブランドにかかる期間は2~4週間ほどで、必要時間は30~40時間となっていました。作業1時間当たりの時給は175ドル(約2万4000円)であったため、リブランドにかかる費用は5000~7000ドル(約69万~96万円)ほどになる見込みで、当初の予算の半分ほどに抑えられたとのこと。

この際Isaac氏は、WebAgencyが抱えている顧客はほとんどが長期契約を取り交わしており、小規模な契約しか交わしていないTinyPilotの作業は、長期契約顧客の作業の都合によって一時的に中断する可能性があると警告しました。しかし、当初の予想では改修に2~3カ月ほどかかる予定だったので、プロジェクトが数週間中断されたところで問題はないとLinch氏は考えていました。

プロジェクト最初の月、WebAgencyはリードデザイナー・シニアデザイナー・プロジェクトマネージャー・Isaac氏とLinch氏のミーティングを2週間ごとに開催しました。その席でWebAgency側は新しいロゴやブランドのサンプルをLinch氏に見せて、6週間以内に気に入ったコンセプトを絞り込んだとのこと。

ところが、ミーティングを重ねるにつれてWebAgency側は、当初の予定になかった「ウェブサイト全体のデザイン」の案を提示するようになりました。提示されたモックアップには、以下のようにカスタムイラストまで挿入され、プロジェクト開始から数週間後にはロゴやブランドに関しては何の進展もないのに、ミーティングでウェブサイトのデザイン案を見せてきたとのこと。そこでLinch氏が、「はっきりさせたいのですが、このプロジェクトはまだリブランドで、再設計ではありませんよね?」と確認したところ、リードデザイナーは「ええ、そうですそうです!」「ブランドの選択肢には古いウェブデザインでは意味がない場合もあるので、これは単なるスケッチです」と言ってLinch氏を安心させました。


プロジェクトの期間は2~4週間という予想を超えてずるずると伸びましたが、開始から3カ月が経過した12月にはTinyPilotの新しいロゴが95%できあがりました。後の作業はコーナーの丸みを変更して境界線をなくすことだけであり、Linch氏はほんの数時間の作業だろうと考えていました。とにかくロゴさえ完成して受け取れば、ウェブサイトやインターフェース上のロゴを変更したり、デバイスのケースに印刷したりできるとLinch氏は期待していましたが、残念ながらWebAgencyはなかなかロゴを納品してくれませんでした。それどころか、相変わらずWebAgencyはウェブサイトの再設計を進め、当初予定していた3ページ以外のページまでデザイン案を提示してきたとのこと。

Linch氏がこの点をWebAgencyに訴えると、Isaac氏はデザイナーが「単なるスケッチ」を超えてしまったことを認めました。デザイナーたちはこのプロジェクトに興奮するあまり予定外の再設計にも着手してしまいましたが、Isaac氏はこの予定外の作業については時給を請求しないと言ったそうです。

しかし、その後WebAgencyからの連絡が途絶えがちになり、ミーティングがなくなった上にコメントが数週間無視されるようになり、仕事の質も低下する事態になったとのこと。2月上旬にLinch氏がメールを送ると、Isaac氏はWebAgency内部で問題が発生し、プロジェクトマネージャーも11月に辞任していたことを認めて謝罪しました。Isaac氏によると、WebAgencyは長期契約顧客の作業で手一杯であり、Linch氏のウェブサイトのリブランドに関する作業は隙間時間に押し込められていると説明。残る契約時間は10~20時間ほどでしたが、今後2カ月で終わるかどうかわからない程度だとIsaac氏は述べました。

そしてIsaac氏は一連の問題を解決する方法として、Linch氏に長期契約顧客として「月額40時間以上・時給160ドル(約2万2000円)」の契約を結ぶことを提案しました。これなら確かにLinch氏の作業が隙間時間に押し込められ、効率が低下することは避けられますが、Linch氏は「私はだまされ、操られていると感じました。WebAgencyはすべての作業が80%完了するように構造化しましたが、何も使用できるようにはしませんでした。もし私が新しいベンダーにこの仕事を持っていけば、膨大な量の手直しがあるでしょう。そして今、私が高価な契約を結ぶよう仕向けるため、彼らは最後の20%を人質にしていたのでしょうか?」と述べています。


Isaac氏は一連の流れの責任がWebAgencyにあることを認め、過去の時給175ドルで雇っていた期間も遡及的に時給160ドルで計算し直すこと、ウェブサイトの再設計を請け負うことなどを条件に出し、Linch氏はWebAgencyと60時間の長期契約を結びました。

しかし、本来であれば3月に終わるはずだった60時間の作業はなかなか進まず、「1人の開発者が優先度の低い小さなバグ修正に15時間も使う」「数日で終わると言われていたデザイン切り替えに5週間かかる」といった問題が発生。最後にはIsaac氏の権限で無料の作業時間を突っ込み、どうにか納期を2日オーバーした6月にウェブサイトの再設計と切り替えが完了。結局、当初予定していた2~3カ月を大幅に超えた8カ月もの作業期間と、予算を3倍もオーバーした4万6000ドル(約630万円)もの費用がかかってしまいました。

以下は、ウェブサイトの再設計前(左)と再設計後(右)を比較した画像です。どうにか再設計は完了したものの、Linch氏は「このプロジェクトは、私が当初望んでいたものをはるかに超えた負のスパイラルと化し、時間と費用の果てしない浪費となりました。とにかくこれが終わってホッとしました」と述べています。


一連の作業が終わった後、Linch氏はIsaac氏と共に「プロジェクトを良くするために何ができたか」を話し合ったとのこと。その結果、以下のような問題点があったことが浮かび上がってきました。

・WebAgencyの業務はほとんどが長期契約顧客による依頼であり、Linch氏のように小規模な契約を受けた経験が少なく、Isaac氏は予算に合わせてワークフローを縮小することに失敗した。
・Linch氏はロゴなどの成果物が早めに欲しいことを伝え、「ロゴ→細かいデザイン→ランディングページのデザイン」という風に、段階的にステップアップしていくよう働きかけるべきだった。
・WebAgencyはプロジェクト管理に充てる時間を請求時間のうち5%未満に抑えようとしており、Isaac氏は予算の兼ね合いからプロジェクト管理を行わなかった。
・WebAgencyはスケジュールをLinch氏とほとんど共有しなかった。

そしてIsaac氏は、今回の出来事から得られた教訓として以下の点を挙げています。

・代理店を挟むとチーム管理やコミュニケーションが問題となってしまうため、今回のように比較的小規模な作業であればフリーランス開発者を雇った方がいい。
・複数の作業を並行して進めると「それぞれの作業は80%まで来ているが、何1つ成果物はない」という状態が生まれてしまう。1カ月かかる作業が8つあるならば、8カ月目にすべての成果物が上がるようにするのではなく、1カ月に1つずつ成果物が上がるようにした方が安全で精神的負担も小さい。
・最初から各開発者に作業時間の見積もりを出してもらい、正確なタイムラインを引き、予定からずれたら再検討する手間を惜しむべきではない。
・ベンダーにとって「小さな顧客」になると作業がどんどん後回しにされてしまうので注意するべき。


Linch氏は、WebAgencyはあくまでこのプロジェクトで最善を尽くしており、わざと作業を遅らせて金を搾り取ろうとしたのではないと考えています。それでも、お互いのコミュニケーション不足や認識の食い違いによって、こんな事態になってしまったとのこと。

幸いにも、TinyPilotの売上高はウェブサイトを再設計した後に伸び始め、当初の「10~20%の増加」という予想を超え、2022年6月には再設計前より66%も高い売上高を記録しました。「すべての失敗とストレスにもかかわらず、結果はすべての痛みを正当化するかもしれません」とLinch氏は述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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