メモ

片手間状態で始めたWebサービスが年商500万円のビジネスに達するまでの成長録

By Philippe Lewicki

現在地の郵便番号を入れるだけで近隣の店舗をマップ上に表示させられるウィジェットサービスが「Storemapper」で、欧米を中心に500以上のブランドがウェブサイト上に配置してユーザーの利便性を高めています。設立者のTyler Tringas氏が2011年に立ち上げた時は単なるサイドビジネスとしての位置づけだったサービスは2年後はビジネスの主軸に置き換わったのですが、その試行錯誤の経緯がTringas氏のブログで詳細に公開されています。

Storemapper: Bootstrapped to $50,000/year in 2 years (with live metrics)
http://tylertringas.com/storemapper-store-locator-bootstrapped-to-50k

◆サービスを始めたきっかけ
Storemapperは、主に実店舗を構える小売店などがウェブサイト上に埋め込んで利用するタイプのウィジェット。お店を見つけたい一般の消費者が希望エリアの郵便番号を入れるだけで、そのエリアに隣接する店舗をマップ上に表示してくれるというサービスです。このサービスをサイトに埋め込んで利用するには月額7ドル50セント(約770円)から30ドル(約3100円)までの利用料を支払い、Tringas氏はその利用料が売上として入るというASPサービスの一種となっています。


サービス開始から約2年を迎えた2014年時点では、全世界で500以上の企業やブランドのウェブサイト上で活用されています。その売り上げ規模は年商ベースで5万ドル(約510万円)に達するというStoremapperですが、立ち上げ時点は他のスタートアップのご多分に漏れず手探り状態でのスタートで、いくつかのトラブルによって利用者を失ってきた経験もあるとのこと。Tringas氏は「大金持ちになるってほどではないけど、サイドビジネスとしてはまぁまぁイケてる」とこのビジネスについて語ります。


今から2年前の2012年8月ごろ、Tringas氏はフリーランスのウェブエンジニアとして小規模オンラインショップ運営サービスShopifyの仕事を請け負っていました。その時の仕事が、サイトを訪れたユーザーが郵便番号を打ち込むだけで近隣のお店を見つけることができるというストアロケーターだったのですが、その実装にはコーディングの知識が要求され、初心者にはハードルの高いものでした。

しかし、その便利さと普及具合を感じていたTringas氏は「これだけ使われるサービスなのだから、もっと簡単にサイト上に埋め込める仕組みがあってしかるべきだ」と目をつけます。市場リサーチを行いましたが、当時はそのようなサービスは提供されていなかったため、「それならば」ということで開発を開始したのがStoremapperの最初の第一歩となりました。


その数週間後、Tringas氏はサンフランシスコからアルゼンチンのブエノスアイレスまで出張に出かけることに。それまでに貯まっていた飛行機のマイルを利用してチケットを取ったところ、幸運なことに「ある条件」のもとでファーストクラスにアップグレードできるチャンスに恵まれることになりました。

しかしその条件とは「ニューヨーク乗り継ぎ便に変更する」というもの。乗り継ぎ時間として8時間がかかり、ファーストクラスと引き替えにしてもすこし微妙な内容といえるものだったのですが、Tringas氏は「乗り継ぎ時に空港のファーストクラスラウンジを使えることを計算すると、片道36時間のあいだ無料でWi-Fiが使えること、そしてシャンパンとコーヒー飲み放題プラス誰にも邪魔されない快適な空間を手に入れられる」と考えてこのオファーを快諾。そしてこの36時間のあいだにStoremapperの原型となる評価用プロトタイプであるMVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト)を作り上げることを決心しました。

By Michael Himbeault

そして見事36時間後にはMVPが完成。ブエノスアイレスに到着してすぐにサービスをローンチし、当時抱えていた自分の顧客に簡単な説明と決済方法をメールで連絡して運用を開始しました。当時の価格は1カ月あたり5ドル(当時のレートで約400円)でした。

サービス開始当日に集まった利用者は3名だったとのこと。Tringas氏は「それほど本腰を入れているわけではないプロジェクトなのに初日から3人もお金を払ってくれたのは、出だしとしては上出来です」と振り返っています。

◆「時間を割かない」という戦略
Storemapperが立ち上がった時、他のクライアントから多くの仕事を抱えていたTringas氏は、あえてその開発を後回しにしたといいます。この種のサービスではメールなどでの問い合わせが多く集まるものですが、問い合わせにはいちいち対応せず、ある程度の数がそろった時点でまとめて対応するというスタイルを通していたとのこと。

By brillianthues

当時のStoremapperはまだプロトタイプ版のままで、見た目の整ったトップページもなく、パスワードやアカウントの変更にも対応していないという原始的なものでしたが、「SaaS(もしくはSAPサービス)の成長には一定の期間が必要」との考えを持っていたTringas氏はStoremapperのプライオリティを低く保ち続けていました。しかしそれでも、Storemapperのサービスには毎月5~10名程度の申し込みが届いていたそうです。

この段階でTringas氏が行っていた行動は以下のようなものとなっていました。

・機能をゆっくりと作り上げる
Tringas氏はあえて「1.ある機能が実装されるまでは契約しないという利用者がたくさんになる」か、「2.その機能がないことを理由に退会を申し出る既存顧客が増える」のどちらの状況になるまでは、機能の実装を見送っていました。そのような要望は手元に届いていましたが、あえて決断の敷居を高くしていたとのこと。

・サポートリクエストはまとめて処理
問い合わせのメールは数日間おきに処理するようにしていたそうで、中にはそのことに不満を抱いて去って行った利用者も見受けられたようですが、そこはあえて方針を貫いていた、とTringas氏。サービス初期の段階ではすべてに対応することは不可能と割り切り、かけられる時間とのてんびんで対応を行っていたそうですが、実際には自分で問題を解決してしまうユーザーが多かったことを体験して驚いたといいます。

・「悪いことも起こるさ」という気持ちを持つ
Tringas氏にとって、Storemapperは直接利用者がクレジットカードで決済してくれる初めてのケースでしたが、それでも悪いことは起こってしまうので、諦めない気持ちを持つことも重要だったとのこと。最初からすべてうまく行くサービスなど存在しないので、「申し訳ありませんでした。今後はこのように修正してまいります」と対応して実行すれば前向きの力になります。

By Helga Weber

◆売上を増加させる
サービスを公開してから約半年がたった2013年春頃までに利用者の数は50名にまで増加し、毎月の売上額は数万円レベルに増加しました。しかしTringas氏にとってこの段階のStoremapperはお金を得る手段ではなく、実験と検証の場だったとのこと。

サービスとして確立させ、きちんと売上につながるための仕組みに取り組みだしたTringas氏は、6ヶ月間のターゲット期間を設定して当時住んでいたブルックリン地区の家賃をまかなえるだけの売上を得る計画をスタート。約半年後の2013年12月には、月々の売上が2000ドル(約20万円)にまで達するようになりました。

この段階でTringas氏が得た教訓は「自分のサービスを過小評価しすぎないこと」というものでした。当初の「月額5ドル」は、サービスの不十分さを考慮して低く設定していたものですが、中身が整うにつれてその価値は上がっていくもの。まずは新規申し込み客に対して9ドル(約930円)という新価格を設定しましたが、それでも利用者は増加。さらに3か月後には一気に20ドル(約2100円)にまで値上げしたにも関わらず、新規申し込み客が途切れることはありませんでした。


Tringas氏は、「常に高い価格をテストすることを忘れないこと」を教訓として語ります。難しいA/Bテストを行う必要はなく、新価格を試してみるのもいいテストになるとのこと。

◆よく寄せられる要望に対するサポートの向上
しばらくして「Storemapperの利用者は、一度サービスを使いはじめるとなかなか退会することはない」と気がついたTringas氏は、見込み顧客を実際に申し込ませるコンバージョンレート(CVR)の向上に力を注ぐことにしました。

ある時、無料トライアルを利用したにもかかわらず実際に申し込むことがなかった利用者がいたので、その理由を尋ねました。その利用者は、ある機能が搭載されていないことを理由に利用を思いとどまったのですが、なんとその機能は実際には搭載されていたものでした。しかも、その利用者からはその件に関する問い合わせは一切なかったとのこと。

これは一種の機会ロスにつながると判断したTringas氏は、さまざまな画面のスクリーンショットを撮り、ありとあらゆる機能を網羅するチュートリアルを作成。これが功を奏してCVRは向上しました。この例を含めて、多く寄せられる質問に対するわかりやすい答えを用意しておくことは、CVRの向上とサポートに必要な手間をカットすることにつながります。

◆リファラルマーケティングの導入
一方で、紹介ベースでマーケティングを行う一種の「口コミマーケティング」の手法はあまり功を奏さなかったといいます。無料トライアルの申し込みが伸び悩んでいたころ、Tringas氏はCookieを利用したトラッキングシステムを開発した紹介機能を導入しました。誰かの紹介で新たに申し込んだ人には1~3か月間の利用料を無料にするという手法ですが、実際には申し込みは現状ではゼロ。世間でよく使われる手法も、時には全く機能しないこともあるようです。

◆グロースハッカーとの契約
サービスの詳細にまで踏み込んでアイディアやマーケティングを総合的に組み立てるグロースハッカーと呼ばれるプロに助けを求めたこともありました。成功を見込んで多少アグレッシブな目標(と契約料)を設定したというTringas氏でしたが、結果を述べると全くの失敗に終わったとのこと。現在でもグロースハッカーの存在には一目を置いているというTringas氏ですが、いまだにこの失敗から何を得られたのかはわからないとし、「もっとうまくやれるはずだった」と後悔している一面ものぞかせています。

◆「Powered by」のリンクが持つ力
Storemapperを訪れる利用者のほとんどは、広告リンクからではなくオーガニック検索や、既存の利用者のページに表示される「Powered by Storemapper」のリンクからの流入になっているそうです。


同社の有料サービスのうち最上級プランからは削除せざるを得なかったこの仕様ですが、それでも毎月多くの新規顧客がこのリンクから生まれているとのこと。やはり、実際にサービスに触れてその価値を見いだした人を直接誘導する仕組みというのは強い力を持っていると言えそうです。

◆年契約プランへの誘導
「これは厳密には成長戦略と言えないかも知れませんが」と前置きした上で、Tringas氏は利用者を年契約プランに誘導することも一時的には効果的であるといいます。ある時、Tringas氏は活動の拠点をニューヨークに戻すことに決定。すべての道具を持ってニューヨークに戻ってきたわけですが、そこでは高い家賃や生活費の問題に直面します。「甘く見ていた」と語るTringas氏ですが、一時期は支払いが迫っているのに銀行口座の残高が500ドル(約5万円)を切るという切迫した状況に陥ったこともあるといいます。

「今すぐ現金が必要、そのための方法は」と考えたTringas氏は、当時の月額9ドル(約930円)でサービスを利用していた顧客に、年額99ドル(約1万円)というプランを提案することにしました。約20%オフというおトクなプランを既存の顧客宛に一斉にオファーしたところ、その日のうちに11名の利用者からプラン変更の申し込みがあったといいます。そしてさらに次の日には10名ほどの申込者が。ほどなくして、数日後には2000ドル(約20万円)という現金が口座に振り込まれて事なきを得たTringas氏でした。

By Ken Teegardin

通年でみれば売上高の減少につながる割引制度ですが、場合によってはキャッシュフローの向上と、精神衛生の観点で大きな効果があるとTringas氏は語っています。

◆アウトソーシングのスタッフを雇って見込み客を見つけに行かせる
ここでもTringas氏は「私の場合は失敗ですが、別の人の場合は成功するかもしれません」と前置きした上で、アウトソーシングを活用したマーケティングの失敗例を挙げています。ここでTringas氏が利用したのは、オンライン上でフリーランスへの業務発注を請け負うサイトの「oDesk(オーデスク)」で、スタッフを雇って見込み客探しをしらみつぶしに行うという作戦を実行しました。

ここで採った作戦は、ある企業のサイトを訪れ、Storemapperのようなストアロケーターを利用しているかを確認。便利なロケーターを利用せず、さらに「店舗リスト」には膨大な店舗の名称がズラッとリスト表示されているとしたら、その企業をStoremapperの優良見込み客として判断し、営業をかけるというものでした。12名のスタッフを雇って一見うまく行きそうな作戦でしたが、これは見事に失敗。その原因は、結果的にはありとあらゆるサイトを対象に明確な目標もなく「とりあえずネットサーフィンして見込み客を見つけてこい」という手法を採ったことにあるとTringas氏は振り返っています。

◆そして今後の展開は
数々の試みを続けてStoremapperを成長させてきたTringas氏ですが、その経緯の中ではビジネスそのものを売却してしまうことを検討したこともあるといいます。2013年8月にはネット上の掲示板に買い手を求める書き込みを行い、実際に数多くのオファーが寄せられたとのこと。そのほとんどは詐欺同然のものであったり、自分の手を汚すことなく金儲けだけを考えていた者だったということですが、中には本気の魅力的なオファーもあり、8万ドル(約800万円)で売却寸前までパートナーとの話が進んだケースもありました。

しかし結果的にTringas氏はStoremapperを手元に置いておくことを決断。2014年2月にはパートナーとも関係を解消し、Tringas氏は再び個人企業家として運営を続けることになりました。現在ではStoremapperはTringas氏の最優先事項となり、以前は週あたり15~20時間に限定していた作業時間も大幅に増え、今後導入予定の新機能の開発が進められているといいます。

By Louish Pixel

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in メモ,   ネットサービス, Posted by darkhorse_log

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