Appleのアプリ開発者向けの新しいヒューマンインターフェイスガイドライン
AppleやGoogleといったOSを開発するメーカーは、自社プラットフォーム向けのアプリをリリースする開発者向けに、どのようにデザインを構築していけばいいのかをまとめたガイドラインを作成し公開しています。Appleの「Human Interface Guidelines」は、言葉・画像・デザインをどのように選択すればユーザーが簡単にコンテンツや機能を使えるようになるかをまとめたもので、開発者だけでなく多くの人にとって参考になる内容が多く含まれたものとなっています。
Inclusion - Foundations - Human Interface Guidelines - Design - Apple Developer
https://developer.apple.com/design/human-interface-guidelines/foundations/inclusion
◆デザイン
シンプルで直感的な体験は、優れたデザインのアプリの中核をなすものです。直感的な体験をデザインするためには、まず人々の目標や考え方を調査し、人々に共感してもらえるようなコンテンツを提示することから始めます。
この調査において、共感は重要なツールです。なぜなら、異なる視点を持つ人々が、作成したコンテンツや体験に対してどのような反応を示すかを理解するのに役立つからです。例えば、アプリに登場する言葉や画像が、ある視点からは理解できない、あるいは意図しない意味を持っていることが分かるかもしれません。
アプリをさまざまな視点から検証する場合、不快感を与える可能性のあるコンテンツを探し求めるようなことは避けるべきであるとガイドラインには記されています。その理由は、どのアプリも不快な素材や体験を含むべきではないものの、無害なアプリが必ずしも適切なアプリであるとは限らないためです。
◆言葉選び
簡単な言葉を使えば、誰にでもアプリを理解させやすくなります。アプリ内の文章を注意深く見直し、開発者の口調や言葉が人を排除していないかどうかを確認します。以下は、直接的でわかりやすく、包括的なテキストを書くための事例です。
・コピーの語調をさまざまな角度から検討しましょう。文章のスタイルは、あなたが使う言葉と同じくらい多くのことを伝えます。アプリによってコミュニケーションスタイルは異なりますが、意図しないメッセージを送ってしまわないよう口調に注意すべきです。例えば、高尚な文体では、高学歴の人しか使えないアプリと思われてしまう可能性があります。アプリに適したスタイルを模索する際には、明確で直接的、かつ敬意を払うことに重点を置いてください。
・人の呼び方にも気を配る必要があります。一般的には、「あなた」などの表現を使って直接的に呼びかけることが効果的です。「ユーザー」と間接的に呼ぶと、ユーザーはアプリへの親近感を失ってしまうことがあります。また「私たち」といった言葉は、アプリや会社を表す言葉として使うことを検討してください。そうしないと、これらの言葉は人を侮辱した、または見下したものと解釈される可能性があります。
・専門用語や技術用語は使用することを避け、使用する場合は正しく定義すべきです。専門用語や技術用語を使用すると文章が簡潔になりますが、その用語の意味を知らない人を排除することにつながります。どうしても使いたい場合は、その用語の定義を明確にし、簡単に調べられるようにすべきです。文章中の専門用語の定義を知っている場合でも、平易な言葉で表現した方が読みやすく、翻訳もしやすくなります。
・口語的な表現は平易な表現に置き換えるべきです。口語的な表現は文化に沿った物が多く、翻訳が難しい場合があります。さらに悪いことに、口語表現の中には開発者が知らないような悪意ある意味を持つものもあります。例えば「peanut gallery(取るに足らない批評をする人という意味)」や「grandfathered in(既得権という意味で使われるものの、同時に黒人の権利をはく奪したアメリカの過去の規定も意味する言葉)」という表現は、いずれも抑圧的な文脈から生まれ、現在も人々を排除しています。口語的な表現に排他的な意味がない場合でも、それを理解しないすべての人を排除する可能性があります。
・ユーモアを入れる場合は熟考する必要があります。ユーモアは非常に主観的で、口語表現と同様に、ある文化から別の文化に翻訳するのが困難です。アプリにユーモアを盛り込むと、それを理解しない人を混乱させたり、繰り返すことで人をイライラさせたり、異なる解釈をする人を侮辱したりする危険があります。
◆親しみやすさ
親しみやすいアプリは、使う際に特定のスキルや知識を必要とせず、時間をかけて理解を深めていくための明確な道筋を提供します。開発者のアプリがさまざまな強力な機能を持つ場合でも、1つのシンプルなタスクを実行する場合でも、親しみやすいアプリにするための2つの方法を紹介します。
・明確でわかりやすいインターフェイスを提示する。Appleは各プラットフォームの他のアプリと調和するシンプルなインターフェイスを設計するために、iOS、iPadOS、macOS、watchOS、tvOSのためのデザインを公開しています。
・アプリの使い方を学ぶための方法を組み込む。アプリの初回起動時の体験では、新規ユーザーがステップバイステップで操作できるようにする一方で、経験豊富なユーザーが必要なコンテンツにすぐにアクセスできるようにします。これも専用のガイダンスが公開されています。
◆性同一性
歴史を通じて、世界中の文化は、女性と男性の二元的な差異を超えて広がる自己認識と表現を認識してきました。
特定の性別への不必要な言及を避けることで、誰もがアプリに歓迎されていると感じられるようになります。例えばユーザーは自認する性別を指定し、使ってほしい人称代名詞を「he/his」や「she/her」といった形で公にしていることがありますが、開発者もこの考え方にのっとり、文章の中に性別を指定しない「his or her」といった文言を挿入する場合があるかもしれません。しかし、あえて人称代名詞を使わなくとも、「ユーザー」などという代替表現を使用することで、性別にとらわれない文章を作成することができます。
また、アバターや絵文字なども、特定の性別への言及が不要な例として挙げられます。すべての人を歓迎するために、自分を正確に表現するアバターや絵文字を作成するのに必要なツールを提供することです。一般的な人物を描く必要がある場合は、性別に関係ない人間の画像を使い、一般的な人物とは男や女ではなく「人間」であるというメッセージを強調します。
ほとんどのアプリでは人の性別を知る必要はありませんが、健康上の理由や法律上の理由などでアプリがこの情報を必要とする場合は、ノンバイナリーや表明拒否など、包括的なオプションを提供することを検討すべきです。この場合、必要なときに適切な表現ができるように、使用する代名詞を指定できるようにすることもできます。
◆人物と設定
人間の多様性を表現することは、アプリがすべての人を歓迎するための最も重要な方法の1つです。ユーザーがアプリやその関連資料の中に自分と同じような人がいると認識すれば、排除されたと感じる可能性は低くなり、そのアプリから恩恵を受けると考える可能性も高くなります。
人を表現する文章や画像を作成する際には、さまざまな人の特徴や行動を描くようにすべきです。例えばフィットネスアプリの場合、人種、体型、年齢、身体能力が異なる人たちによるエクササイズの実演を掲載するなどです。一般的な職業を描く必要がある場合は、男性の医師だけ、女性の看護師だけなど、ステレオタイプな表現は避けるべきです。
また、見せる設定や物も見直しましょう。例えば、裕福な生活を見せることは、あるシナリオでは意味があるかもしれませんが、他のケースでは歓迎されず、アプリが時代錯誤であると思われる可能性があります。アプリの中で意味がある場合は、多くの人にとって身近で親しみやすい場所、家、活動、アイテムを表示することをAppleは推奨しています。
◆ステレオタイプを避ける
誰もが偏見や固定観念を、多くの場合無意識のうちに持っています。そして、それらが自分の思考にどのような影響を与えているかを発見するのは難しいことです。このデザインの目標は、自分の偏見や一般化された考え方に気づくことで、それがデザインの決定に影響を与える可能性があることを認識することができます。
例えば、様々な家族の口座へのアクセスを管理するアプリを考えてみましょう。このアプリが妻、夫、子どもがいるステレオタイプな家族の定義を使用している場合、コピーや画像でそのようなステレオタイプをユーザーに伝えてしまう可能性があります。この場合、アプリは、その定義とは異なる家族を持つすべての人を排除することになります。
このアプリの前提は明らかな誤りと思われるかもしれませんが、すべての前提がそう簡単に見つかるわけではないことを認識することが重要です。例えば、将来の本人確認のために、「大学時代に一番好きだった科目は何ですか?」「初めて買った車の車種は?」「初めて虹を見たとき、どう思いましたか?」というようなセキュリティ上の質問を選択する必要があるアプリを考えてみましょう。
ある視点から見れば、これらの質問はありふれた出来事を指していますが、いずれも誰もが持っているわけではない経験に基づいているのです。何かを伝えるために文脈特有の経験を使うことは、その文脈を共有しないすべての人にとって無意味であり、事実上排除されるものです。上記のような文化や能力に特化した質問に代わるものとして、「好きな趣味は何ですか?」「最初の友だちの名前は何でしたか」「あなたを最もよく表しているのはどんな性質ですか?」というような、より普遍的な人間の経験を参照すべきとガイドラインには記されています。
一般論は人間の多様な視点を反映することができないため、ステレオタイプや仮定に基づいてデザインを決定すると、必然的に排除につながります。思い込みを避け、その代わりに全体を含むようにすることで、すべての人にとって有益な体験を作り上げることが可能となります。
◆アクセシビリティ
人々は、画面上の文字を読み上げるVoiceOverや画面表示設定、字幕などのアクセシビリティ機能を利用して、ユーザーそれぞれのニーズに合わせてデバイスをカスタマイズしているため、開発者のアプリケーションでこれらの機能をサポートすることが不可欠です。
また、何らかの障害があるためにアプリを使用したくないと思い込まないようにすることも重要です。このような思い込みは、アプリの利用者を限定するようなデザインになりかねません。これに対して、アプリの各体験をアクセシブルにすることに注力すれば、すべての人が自分に合った方法でアプリの恩恵を受けられるようになります。
それぞれの障害は多用で、たとえば視覚障害は、弱視から全盲まであり、色覚異常、かすみ目、光線過敏、および周辺視野障害などが含まれます。誰もが障害を経験する可能性があります。多くの人が年齢とともに経験する障害に加えて、感染症による短期間の難聴のような一時的な障害や、騒がしい電車の中で耳が聞こえないというような状況的な障害もあり、さまざまなタイミングで誰もが影響を受ける可能性があります。
あらゆる能力を持つ人々を歓迎するコンテンツを設計する際には、障害者を排除するような画像や言葉を使わないようにすること、人を第一に考えたアプローチを取ること、シンプルさと認識しやすさを優先することなどを考慮する必要があります。この点に関して、Appleは別途ガイドラインを公開しています。
◆言語
人々は言語を選択し、日付、時間、お金などの値を地域に合うように選択して、自分のデバイスをカスタマイズすることを期待しています。アプリや関連コンテンツをローカライズする際には、色の使用方法にも注意してください。色には文化特有の強い意味があることが多いため、サポートする地域ごとに、人々が特定の色にどのような反応を示すかを確認することが重要です。例えば、白は死や悲しみを連想させる地域もあれば、純潔や平和を連想させる地域もあります。色をコミュニケーションの手段として使う場合は、アプリの各バージョンで同じことを伝えるよう、色の選択を確認する必要があります。
Appleはこれらのガイドライン公開にあたり、「すべてのデザインと同様に、今回着目したアプリのデザインは繰り返しのプロセスであり、正しく仕上げるには時間がかかります。そのプロセスを通じて、他の人々がどのように考え、感じるかについてのあなたの仮定を検証し、知識と理解を進化させることに前向きであるよう心掛けて下さい」と述べました。
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