「誰がいつ・どこで・どんな商品を購入したのか」のデータを収集することをノルウェー統計局が決定
「誰がいつ、どこで、何を購入したのか」は個人のプライバシーに密接に関わるデータであり、これだけでも個人の生活習慣や趣味などが丸裸となってしまう可能性があります。そんな人々の購買行動を追跡するため、ノルウェー統計局が「主要なスーパーマーケットチェーンの全領収書データや取引の80%を超える決済処理データ」を収集することを決定し、プライバシー専門家から反発の声が上がっています。
SSB krever å få vite nøyaktig hva nordmenn kjøper i matbutikken
https://nrkbeta.no/2022/05/28/ssb-krever-a-fa-vite-noyaktig-hva-nordmenn-kjoper-i-matbutikken/
Norway to Track All Supermarket Purchases - Life in Norway
https://www.lifeinnorway.net/norway-to-track-all-supermarket-purchases/
ノルウェーは国民の税負担が大きい代わりに社会福祉が手厚い「大きな政府」の国家として知られていますが、税金を適切に分配するためには国民生活に関する詳細なデータ収集・分析が必要です。そこでノルウェーでは全国民に社会保障番号が割り当てられ、住所・収入・犯罪歴・教育などのデータをノルウェー統計局が収集し、多くの公的機関と情報共有を行っています。
そしてノルウェー統計局は2022年、新たに国内の主要なスーパーマーケットチェーンであるNorgesGruppen・Coop・Bunnpris・Rema 1000に対し「すべての領収書データを共有すること」を命じたほか、購入取引の80%をカバーする決済処理業者・Netsにもデータ提供を命じました。これにより、ノルウェー統計局は国民による食料品購入の70%以上について、領収書と決済取引をリンクさせることが可能になるとのこと。
以前からノルウェー統計局は福祉政策に役立てる目的で購買行動のデータ収集を行っており、2012年には3000世帯に「購入したものの詳細なリスト」の作成を行わせましたが、これには時間がかかる上に誤記も多かったそうです。そこで翌2013年には「消費者の購買行動に関するデジタルトラッカーを収集する」ことが議論され始め、ついに民間企業へデータ提供を命令することとなったというわけです。
ノルウェー統計局は収集したデータを基にして世帯レベルの詳細な統計を作成し、購買行動に地域・収入・教育レベルなどの要因をリンクさせ、それぞれの要因が及ぼす影響を分析するとしています。一方、データ収集はあくまでグループ単位の分析が目的であり、個人の詳細データを保持することが目的ではないとも主張しています。
すでにノルウェー国民は政府による情報収集に慣れているとはいえ、一部のプライバシー専門家はデータ収集が増加する傾向に懸念を抱いています。オスロ大学のMona Naomi Lintvedt氏は、一部世帯からのデータ収集が困難だったからとしても、それを改善するために全国民からデータ収集を行うのは不釣り合いだと指摘。ノルウェー統計局は少量のデータ収集を検討するべきであり、データ保持期間の制限についても疑問を呈しています。
また、ノルウェー科学技術大学で公共部門のデジタル化やデータ利用について研究するLisa Reutter氏は、「大量のデジタルデータを使用して市民の行動を分類・予測・制御する行政の能力を高めると、市民と国家のパワーバランスが変わっていまいます」と述べました。
これに対してノルウェー統計局のAnn-Kristin Brændvang氏は、反対意見は理解できるとしつつも他の代替手段は存在せず、全国民の購買行動のデータ収集は統計機関として不釣り合いではないと反論。ノルウェー統計局によるデータ収集・分析は社会へのデメリットよりもメリットが大きいと主張しています。ノルウェー統計局は年間16億件もの取引データを収集し、統計情報は時間が経過しても元データの形で検証可能であるべきだという考えに基づいて、基本的にデータは削除しない方針だとのこと。
ノルウェー統計局によるデータ収集に懸念を抱いているのはプライバシー専門家だけではありません。データ共有を命じられたスーパーマーケットチェーンのNorgesGruppenはノルウェー統計局の決定に上訴し、ノルウェーのデータ保護当局の指示を仰いだと明かしています。また、Coopはノルウェー統計局がよい統計情報を作成するための基盤を持っていると認めつつも、NorgesGruppenと同じくデータ保護当局に上訴することを検討しているとのことです。
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