フィリアス氏は3つの画面のうち1つでモデルたちとメッセージを介してコミュニケーションを図ります。通信内容はさまざまで、昼休憩に関するメッセージを送信することもあれば、ユーザーからのメッセージを英語やスペイン語に翻訳することもあるそうです。
フィリアス氏の業務は「アドバイザー」あるいは「モニター」と呼ばれるもので、スタジオで働くモデルの監督・支援・宣伝・トレーニングも行っているそう。ほとんどの人はアダルトウェブカメラ業界について深い造詣を持っておらず、配信者をサポートするフィリアス氏のような存在がいることを知りません。アダルトウェブカメラサービスが規制されていないコロンビアは推定4000万ドル(約51億円)の市場規模を誇っており、同国はルーマニアに次ぎ世界で2番目に大きなアダルトウェブカメラ市場を持つ国であるとのこと。
新型コロナウイルスのパンデミック期間にアダルトウェブカメラ業界の需要は増加し、フィリアス氏のようなアドバイザーの数も増えることとなったそうです。アダルトウェブカメラサービスを提供するJuan Bustos Studiosの創設者であるフアン・バストス氏は、業界の労働力が約10%も増えたと推定しています。
Rest of Worldの取材に応じたアダルトウェブカメラスタジオは3つ。この取材から、フィリアス氏のようなアドバイザーはモデルの監督・支援・宣伝・トレーニングを担当し、モデルがライブ配信をスタートしてからは映像や音声をチェックしながら、カメラアングルを提案したり、必要に応じてインタラクティブなアダルトグッズの設定も行ったりしていることが判明しています。さらに、アドバイザーの中にはモデルがソーシャルメディアアカウントに投稿する写真の撮影・編集を担当する人もいるそうです。
Juan Bustos Studiosでアドバイザーを務めるアレックス・サパタ氏の業務は、自身が監督する7人のモデルの配信計画を立てるところから始まります。モデルはサパタ氏が作成した「スペシャルショー」「ドレスアップ」「ルーレットゲーム」などのテーマに沿って配信を行うそうです。
アダルトウェブカメラサービスを提供するCamaleón Models Groupのアンドレ・フェルナンド・ベルナールCEOは、アドバイザーの業務について「モデルがどのような人物か、つまりはモデルごとの属性や品質を特定し、必要に応じてそれらを最大限に活用できるようにすることです」と語っています。
アダルトウェブカメラ業界でアドバイザーとして働いたことがあるというフェリペ・パニアグア氏は、「アダルトウェブカメラ業界でアドバイザーとして働くことはシムズをプレイするようなものです。少し違うのは、NPCではなく実際の人々とやり取りしなければいけないということです」と語りました。
ニューヨーク州立大学ファーミングデール校で社会学の教授を務めながら、オンラインセックスマーケットについて研究するアンジェラ・ジョーンズ氏は、「アダルトウェブカメラサービスにおける『モデルと対話できる機能』はユーザーにとって大きな魅力です。アドバイザーはそのコミュニケーションを促進する役割を担っていると言えます」と語っています。
コロンビア最大のアダルトウェブカメラスタジオであるJuan Bustos Studiosでは、約2000人のモデルと150人のアドバイザーが働いているそうです。なお、オックスフォード大学の研究員であるジュリア・ズルバー氏は、「コロンビアの一部の地域では合法と非合法の境界があいまいになっています」と語っており、コロンビアのアダルトウェブカメラ業界の正確なデータを収集することは困難になっていると指摘しています。
また、アダルトウェブカメラ業界で配信を行うすべてのモデルがJuan Bustos Studiosのようなスタジオに所属しているわけではありません。アダルトウェブカメラ業界について研究を行うオーストラリア国立大学のソフィー・ペズット氏は、「高速で安定したインターネットにアクセスできるモデルは、独自のコンテンツを配信しながら、ウェブサイトやソーシャルメディアを利用したプロモーションを行うことで、スタジオに所属するより多くの収入を得ています」と指摘。
しかし、ジョーンズ氏によるとインターネットの普及率が低いコロンビアのような国では、コンピューターやカメラ、安定した高速インターネット環境を用意することが難しいため、これらを支給できるスタジオに所属するしか手段がないそうです。なお、アダルトウェブカメラ業界で働くモデルは「同じような業種で活躍してきた人材」あるいは「業界入りしたのち適切なトレーニングを受けた人材」です。
一方でアドバイザー側は多種多様で、元プロのスポーツ選手やデザイナーや広報担当者からの転職者もいれば、元はライブ配信に出演するモデルとして働いていたものの、より安定した収入を求めてアドバイザーに転職したという女性もいるそうです。
Juan Bustos Studiosは新型コロナウイルスのパンデミック以降、全体の売上が30~40%も増加したとしています。パンデミック期間中にスタジオから独立したモデルもいますが、コロンビアのようなインターネット接続環境が貧弱な地域では、強力なインフラが整えられているスタジオに所属するほうが安定して働けるようで、一度スタジオから独立したことがあるというフアニータ・ベガ氏は「インターネットが切断された際に役立つスタジオやアドバイザーを持っていないことはひどい経験でした。インターネットが切断されれば何もできず、稼ぎもゼロとなります」と語っています。
スタジオと自宅の両方で配信をしたことがあるというアンヘル・リベラ氏は、自宅からの配信の方がより稼げるとしながら、「自宅の配信環境では1度にひとつのサービスにしか配信することができません」と語っています。ただし、スタジオに所属した場合、配信により生じる収益の半分がスタジオの取り分となります。
一方で、Juan Bustos Studiosで働くアドバイザーの月給は約320ドルの(約4万1000円)基本給と、担当モデルの収益の2%をインセンティブとして得られます。これにより、アドバイザーの月給は455~650ドル(約5万8000~8万2000円)程度になるとのこと。ただし、請負業者として働きながら配信の成否によって報酬が大きく変動するモデルとは異なり、社会保障や医療保障を受けられます。