塩1粒よりもミニサイズな世界最小のバッテリー
コンピューターの小型化はますます進んでおり、体内に組み込む生体適応性センサーシステムのような小型のマイクロエレクトロニクス端末に電力を供給するためのバッテリーも開発されています。新たに研究チームが発表した世界最小のバッテリーは、塩1粒程度の超小型サイズとなっています。
On‐Chip Batteries for Dust‐Sized Computers - Li - - Advanced Energy Materials - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/aenm.202103641
World's smallest battery can power a computer the size of a grain of dust
https://techxplore.com/news/2022-02-world-smallest-battery-power-size.html
ケムニッツ工科大学でナノエレクトロニクス材料システム学の教授を務めるオリバー・G・シュミット博士は、ライプニッツ固体・材料研究所や中国科学院長春応用化学研究所の研究者と共同で、極小バッテリーの開発に取り組んでいます。
1平方ミリメートル未満という極小サイズのコンピューターを実現するには、これで利用できる小さなサイズのバッテリーを開発するか、電気を生成するための方法を発明する必要があります。電気を生成するための方法としては、熱を電気に変換する方法などが提案されていますが、出力が低すぎるという問題があります。他にも光や振動を電力に変換する方法も考案されていますが、これらはあらゆる場所で常に利用できるエネルギー源ではないという問題があります。人体に埋め込むような生体適応性センサーシステムの場合、常に電力を供給する必要があるため、自己発電するような技術よりも極小のバッテリーを採用する方が向いているというわけ。
しかし、極小バッテリーの生産は通常のバッテリーとは大きく異なります。例えば、エネルギー密度の高いコンパクトな電池であるボタン電池は湿式化学を使用して製造されており、電極材料と添加剤(炭素材料とバインダー)をスラリーに加工し、金属箔にコーティングします。これと同じ要領でオンチップマイクロバッテリーを製造すると、優れたエネルギーと電力密度を実現できますが、フットプリントは1平方ミリメートルを大幅に超えてしまうとのこと。
また、オンチップマイクロバッテリーの製造も、積み重ねられた薄膜、電極ピラー、交互に配置された微小電極を有すため、エネルギー貯蔵量が不十分になるケースが多く、フットプリントを1平方ミリメートル未満に抑えることは非常に難しくなってしまう模様。
シュミット博士はこれらの問題を解決した1平方ミリメートル未満という極小サイズのバッテリーを設計しています。研究チームが開発したこの極小バッテリーのエネルギー密度は1平方センチメートルあたり100マイクロWhです。
シュミット博士ら研究チームは世界最小のバッテリーを製造するために、マイクロスケールで集電体と電極ストリップを巻き上げています。これはいわゆる「スイスロール電池」と呼ばれる方式の電池で、ポリマー・金属・誘電体材料による薄膜をウェーハ表面に層状にコーティングすることで作成されます。スイスロール電池はすでに確立されているチップ製造技術と互換性があるため、ウェーハ表面にハイスループットのマイクロバッテリーを製造することが可能になると研究チームは主張しています。
この方法を使用して、研究チームは「地域の周囲温度を継続的に測定するための世界最小のコンピューターチップに約10時間電力を供給することができる充電式マイクロバッテリー」の製造に成功しています。この極小バッテリーはIoTや小型化された医療用インプラント、マイクロロボットシステム、超フレキシブルエレクトロニクスなどの分野で活躍する可能性が挙げられています。
なお、研究チームは「この技術にはまだ大きな最適化の可能性があるため、はるかに強力なマイクロバッテリーが完成することも期待できます」とも語っています。
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