ネットサービス

手取り時給わずか170円のモデレーターが劣悪な労働環境でアフリカのFacebookコンテンツをチェックしている

by www.shopcatalog.com

Facebookでは毎日多くの写真や動画が投稿されており、その中にはポルノや暴力についてのガイドラインに反するコンテンツも含まれています。これらのコンテンツを取り締まるモデレーターの多くは、有害なコンテンツを見続けることによるストレスでメンタルヘルスの問題を抱えたり劣悪な労働条件に悩まされたりしていることが問題となっています。新たにアメリカのニュース雑誌・Timeが、東アフリカのケニアのオフィスで働くFacebookコンテンツのモデレーターたちが置かれる厳しい状況について報じました。

Inside Facebook's African Sweatshop | Time
https://time.com/6147458/facebook-africa-content-moderation-employee-treatment/


Facebook under fire for poor treatment of African content moderators | TechCabal
https://techcabal.com/2022/02/14/facebook-fire-for-poor-treatment-of-african-content-moderators/

ケニアの首都・ナイロビ郊外のオフィスビルでは、アフリカ各地から集められた約200人の若者たちがFacebookのコンテンツモデレーターとして勤務しています。これらの若者はFacebookから直接雇用されているわけではなく、アメリカ・カリフォルニア州に本社を置くSamaという下請け企業に雇用されています。Samaは「倫理的なAIをアウトソーシングする」と自らを宣伝しており、平均所得が低い国家を中心に機械学習アルゴリズムのデータ提供や検証などを行っているとのこと。

Samaは2019年初頭からサハラ以南のアフリカ大陸におけるFacebookコンテンツモデレーションを請け負っており、アフリカ諸国から集められた少なくとも11の言語を話す従業員を雇用しています。ケニアのモデレーターが監視するコンテンツの中には、内戦が激化しているエチオピアなど暴力や憎悪が巻き起こっている地域で投稿されたものも含まれており、モデレーターたちの負担は大きなものとなっています。

ところが、Facebookにとって重要な役割を果たしているケニアのモデレーターたちは、仕事に関するストレスに加え、非常に低い賃金や労働運動の抑圧といった問題にも悩まされているそうです。Timeは12人以上のSamaの従業員や元従業員に対するインタビューを実施したほか、電子メールや給与明細といった文書を基にして、アフリカのモデレーターが置かれている状況についてまとめました。

あるモデレーターはTimeに対し、「私たちの仕事は一種の精神的拷問です。私はその日暮らしをしており、貯金することはできません。時々、退職したいと感じることもありますが、自分自身に『私の赤ちゃんは何を食べるの?』と自問してしまうのです」と話しています。Timeによると、2人の従業員はうつ病やPTSDなどの精神疾患だと診断された後に退職したほか、複数の元従業員は金銭的な問題で精神疾患の診断は受けられていないものの、メンタルヘルスの問題で退職したとのこと。


Timeが確認した給与明細によると、Samaでは外国から集めた従業員に月額約528ドル(約6万900円)の税引き前給与を支払っており、税引き後の報酬は月額約440ドル(約5万600円)、税引き後時給は約2.2ドル(約250円)とのこと。これには外国からケニアに移住したことによるボーナスが含まれており、ボーナスを支払われていないケニア人の従業員は、税引き後時給が約1.46ドル(約170円)ほどだそうです。

2021年にマサチューセッツ工科大学の研究チームが行った(PDFファイル)調査によると、Samaがケニアで雇っているモデレーターの福利厚生を含む平均給与は、ケニアの最低賃金の約2.5倍とのこと。しかし、従業員らはこれらの給与では生活していくだけで精いっぱいであり、生活をよりよくすることができないと主張しています。

そこで、南アフリカ出身のモデレーターだったDaniel Motaung氏という人物が、2019年7月に100人以上の従業員を組織して労働条件の改善を求める交渉を行いました。従業員らは「全従業員の給与倍増」などを求める請願書を起草し、経営陣が7日以内に要求に対応し始めなければストライキを行うと述べたそうです。Motaung氏はこの交渉について、SamaはFacebookの下請け企業という立場であり、ストライキによってコンテンツのモデレーションが滞った場合、Facebookからも待遇改善の圧力がかかる可能性があると推測していたと述べています。


ところが、カリフォルニア州本社の上級幹部は従業員らの要求に対し、Samaが雇うモデレーターが得ている賃金はケニアにおいてかなり高給だとビデオ会議で反論。さらに数日のうちに2人の上級幹部がナイロビに到着し、Motaung氏に仕事を禁じてオフィスから隔離したり、ストライキに関与した従業員に昇進の可能性をちらつかせたり、あるいは簡単に解雇できることを示唆したりしたとのこと。こうしてSamaにおける労働運動はつぶされ、Motaung氏は2019年8月に「他の従業員を脅して請願書に署名させた」として解雇されました。

SamaはTimeの問い合わせに対し、「ストライキや労働運動は一度もありませんでした」とコメントし、上級幹部がナイロビにやってきたのは、チームに大して誠実に対応するためだったと主張しています。Motaung氏が解雇された後も、南アフリカ出身のアフリカーンス語品質アナリストだったJason White氏などが労働環境の改善に動いていたものの、White氏も2020年の夏に解雇されてしまったそうです。


また、匿名でTimeに証言したモデレーターによると、SamaではFacebookコンテンツのチェックに「時間制限」が設けられており、1つのコンテンツにつき約50秒で判断することを迫られるとのこと。この時間制限は作業負荷や人員配置によって上下し、少ない場合は36秒にまで短縮され、コンテンツレビューに時間がかかりすぎるとマネージャーから責められるそうです。内部トレーニングプログラムの再実施が行われたり、最悪の場合は解雇されたりするとモデレーターは証言しています。

時間によるプレッシャーだけでなく、コンテンツモデレーターたちは「品質スコア」によっても監視されています。モデレーターたちがチェックしたコンテンツを上級の「品質アナリスト」がチェックし、両者の間で判断の食い違いがあった場合、品質アナリストの判断が正しいとみなされ、モデレーターの品質スコアが低下するとのこと。そのため、Facebookがモデレーターを保護するために提供している「動画を白黒にする」「ぼかしを追加する」といったオプションは品質スコアを下げる恐れがあるとして、モデレーターに十分活用されていないとモデレーターは述べています。

Timeはこの時間制限により、エチオピア内戦などに関する過激なコンテンツがFacebookに残り、拡散する一因になっている可能性を指摘。また、当時Facebookのオペレーション担当ヴァイス・プレジデントだったEllen Silver氏が2018年に投稿したブログで、「コンテンツレビュー担当者は、設定された数の投稿を評価する必要はありません……レビュー担当者は必要な時間を使うことを推奨しています」と述べた内容と矛盾すると主張しました。

イギリスの法律NGOであるFoxgloveはMotaung氏の不当解雇疑惑に関する法的措置を検討しているほか、Facebookの親会社であるMetaのマーク・ザッカーバーグCEOに対して「労働者の搾取をやめるように」との公開書簡を公開しています。

Mark Zuckerberg: stop exploiting your workers - Foxglove
https://www.foxglove.org.uk/campaigns/mark-zuckerberg-stop-exploiting-your-workers/

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
Facebookのモデレーターが「利益のために命が危険にさらされている」と主張、割増賃金や権利の拡大を求める - GIGAZINE

殺人や暴力映像を監視・削除するFacebookのモデレーターの間にセックス・大麻・差別ジョークが広まる事態に - GIGAZINE

Facebookの下請け会社では劣悪な職場環境により従業員が死亡したと元従業員が告白 - GIGAZINE

「Facebookのコンテンツ監視は著しく不十分」との指摘、健全なプラットフォーム構築のため何を改善するべきなのか? - GIGAZINE

Facebookが55億円超の和解金を有害コンテンツの監視でPTSDを患った下請け従業員らに支払うことで合意 - GIGAZINE

Facebookがヘイトスピーチの制御に失敗しているという報道 - GIGAZINE

Facebookがコミュニティルールに違反する投稿が多いグループを「保護観察処分」にしている - GIGAZINE

in モバイル,   ネットサービス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.