脳のニューロンの数を増やす栄養素が判明
マウスを用いた実験により、脳の活性化や老齢期における記憶力の維持には必須元素の1つであるセレンが役立つ可能性が高いことが分かったとの論文が発表されました。
Selenium mediates exercise-induced adult neurogenesis and reverses learning deficits induced by hippocampal injury and aging - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1550413122000055
Natural mineral may reverse memory loss - UQ News - The University of Queensland, Australia
https://www.uq.edu.au/news/article/2022/02/natural-mineral-may-reverse-memory-loss
Widely available supplement may explain brain boost from exercise | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/widely-available-supplement-may-explain-brain-boost-exercise
運動は体だけでなく脳にもいいと言われており、過去の研究でも運動によりアルツハイマー病患者の脳が改善される可能性があることや、運動は脳の記憶領域を活性化させることが確かめられています。
運動はアルツハイマー病患者の脳を改善する可能性がある - GIGAZINE
しかし、運動が脳にいいことは分かっていても、具体的なメカニズムは不明でした。そこで、オーストラリア・クイーンズランド大学のタラ・ウォーカー氏らの研究チームは、運動後のマウスの脳で38種類のタンパク質濃度が上昇していたことを突き止めた以前の研究結果に着目。特に、セレンを含むタンパク質であるセレノプロテインPが運動後に2倍になっていたことを手がかりに、セレンが脳細胞に与える影響を調べる実験を行いました。
研究チームはまず、新しいニューロンを生み出す元となる細胞を培養し、そこにセレンが水や土壌などに存在する際の形態である亜セレン酸ナトリウムと、食事などに含まれる際の形態であるセレノメチオニンを加えました。その結果、たった14日間で神経前駆細胞が2倍になったとのこと。さらに、亜セレン酸ナトリウムをマウスの脳に7日間直接注入したところ、海馬の神経前駆細胞の数が3倍に増加したとの結果も得られました。
この実験結果を確認するため、研究チームはセレノプロテインPの合成や受容体に関わる遺伝を欠損させたマウスを作って運動をさせました。その結果、マウスが運動をしても神経前駆細胞が増加することはなかったとのことです。
セレンが神経新生にとって重要なことを確かめた研究チームは次に、人間の年齢に換算すると60歳に相当する生後18カ月のマウスに、セレノメチオニンを加えた飲み水を与えました。その結果、マウスの海馬にある新しい神経細胞の数は2倍になりました。
セレンを含む水を飲んだ老齢のマウスは、軽い電気ショックが出る場所を記憶して避けたり、32個ある穴の中からマウスが好む暗い部屋につながる穴を覚えたりする記憶力テストでも、対照群より優れた成績を示したとのこと。この結果は、セレンには脳の老化を食い止める働きがあることを示しています。
研究チームは最後に、セレンが脳の損傷による認知障害から回復するのに役立つかどうかを調べるため、マウスの海馬に神経細胞を破壊する物質を注入し、脳卒中に似た症状を発生させました。その結果、セレンを与えられていないマウスは前日に電気ショックを受けた場所を思い出すことができなくなりましたが、セレンを与えられたマウスは正常なマウスと同様にテストで優れた成績を示したとのことです。
また、新しくニューロンが形成されないようにしたマウスではセレンを与えても認知機能が回復しなかったことから、セレンによる脳の再生効果は神経新生が起きるかどうかにかかっていることも判明しました。
ウォーカー氏は、今回の研究結果について「運動が脳に新しい神経細胞ができるのを助けることは以前から分かっていましたが、そのメカニズムはよく分かっていませんでした。私たちの研究結果は、運動によるセレンの補給がニューロンを増加させ、認知力を改善することを示しました」と話しました。
セレンは、豆類や穀類、ナッツなどに豊富に含まれているミネラルで、優れた抗酸化作用があります。しかし、過剰摂取による毒性も強いことから、専門家はセレン入りのサプリメントの使用を運動の代用品にしたり、セレンを過剰摂取したりしないよう呼びかけています。
一般的に、野菜・肉・果物などのバランスがとれた食事をしている人は、すでに十分なセレンを摂取できています。しかし、高齢者や神経疾患を持つ人に対しては、セレンのサプリメントが有益な治療法になる可能性があると、ウォーカー氏は指摘しました。なお、この研究結果を取り上げたアメリカ科学振興協会の科学雑誌・Scienceは、今回の研究にはサプリメント業界からの資金提供は一切行われていないことを確認しています。
・関連記事
運動は脳の記憶領域を活性化させ、運動を継続すると記憶に良い影響を与えるという可能性がある - GIGAZINE
なぜ脳には運動が必要なのか? - GIGAZINE
運動はアルツハイマー病患者の脳を改善する可能性がある - GIGAZINE
科学に裏付けされた「脳の健康を保てる5つのちょっとした習慣」とは? - GIGAZINE
脳に良いのは「軽い運動」と「激しい運動」のどちらか? - GIGAZINE
・関連コンテンツ