学校でスマホを禁止すると成績はどう変わるのか

2025年11月にオーストラリアで世界初となる「16歳未満のSNS利用を禁止する法律」が施行されたように、スマホから受ける悪影響から若者を守るために学校でスマホを禁止すべきかどうかをめぐる議論が各国で交わされています。授業中の注意散漫やSNS依存、学習時間の減少といった問題が指摘される一方で、スマホは連絡手段や学習補助としても使われているため、学校で一律に禁止することが正しいのかは意見が分かれるところです。こうした中で、アメリカ・フロリダ州の大規模都市学区で行われた研究が、学校内でのスマホ禁止が生徒に与える影響を具体的なデータにより明らかにしました。
School Cell Phone Bans and Student Achievement | NBER
https://www.nber.org/digest?page=1&perPage=50
The Impact of Cellphone Bans in Schools on Student Outcomes: Evidence from Florida | NBER
https://www.nber.org/papers/w34388
(PDFファイル)THE IMPACT OF CELLPHONE BANS IN SCHOOLS ON STUDENT OUTCOMES: EVIDENCE FROM FLORIDA

この研究を行ったのは、ロチェスター大学のデビッド・N・フィグリオ氏と、ランド研究所のウムト・オゼック氏。研究の舞台として選ばれたのは、フロリダ州にある大規模な都市学区です。フロリダ州ではフロリダ州下院法案379号(K–12 公立学校におけるテクノロジー法制)により学校内でのスマホ使用が厳しく制限されていますが、この学区ではさらに厳しく、授業中だけでなく校内にいる間は基本的にスマホを使えないルールが導入されています。
例えば、フロリダ州下院法案379号では以下のように規定されています。
・生徒が授業時間中に無線通信機器を使用することを禁止
・教師には無線通信機器を保管する指定場所を設けることを求める
・生徒がアクセスできる内容を年齢に適した教材・情報に限定
・生徒の個人情報を保護すること
・学区のネットワーク経由でのソーシャルメディア利用を禁止
・TikTokの利用制限
・ソーシャルメディアの影響に関する教育の義務化
そして、今回の研究対象となった大規模都市学区では以下のルールで運用されています。
・校内にいる間は終日無線通信機器を使用不可
・違反した場合、没収や停学を含む懲戒処分の可能性あり
フィグリオ氏らは、生徒の学力テスト結果や欠席・無断欠席の記録、停学などの懲戒処分の履歴といった学校の公式データに加え、学校敷地内でのスマホ利用状況を示す位置情報データまで用いて分析しました。スマホ禁止前に「スマホをよく使っていた学校」と「利用が少なかった学校」を比較している点が特徴です。スマホ依存度の高かった学校ほど影響が大きく出るかどうかが検証されています。
◆スマホ禁止で最初に起きたのは「混乱」

分析の結果、スマホ禁止の導入直後に停学や懲戒処分が一時的に増加していました。特にスマホ禁止1年目は、スマホ関連の違反や教師の指示に従わない行動が目立ち、規律面では悪化したように見える結果となりました。
ただし、この状態が長期間続いたわけではありません。2年目には懲戒件数がほぼ元の水準に戻っており、フィグリオ氏らはこれを「一時的な調整コスト」だと説明しています。
◆成績の変化

スマホ禁止から1年目の段階ではテストの成績に大きな変化は確認されず、禁止すればすぐに学力が向上するという単純な話ではないことが分かります。
一方で、2年目に入ると状況が変化しました。英語と数学の両方でテスト成績が統計的に有意に上昇しており、学力面での効果がはっきりと現れています。導入直後の混乱が落ち着いた後に成果が現れた形です。
この成績向上は、すべての生徒に同じように見られたわけではありません。特に効果が大きかったのは中学生や高校生で、スマホ禁止前にスマホの利用が多かった学校ほど成績の伸びが顕著でした。年齢が上がるほど、スマホによる注意散漫の影響が学習に及んでいた可能性も考えられます。
成績の上昇幅は劇的と呼べるほどではないものの、全国基準で見れば数パーセンタイルに相当する変化です。教育研究の分野では、この程度の改善であっても無視できない効果として扱われることが多いとされています。
◆欠席が減ったことが成績向上のカギ
研究では、なぜ成績が向上したのかについても詳しい分析が行われました。その中で注目されたのが、「生徒の欠席数の変化」です。スマホ禁止後、生徒が学校を休む回数は全体的に減少していました。特に減少が目立ったのは、病気などの正当な理由がない「無断欠席」。単に欠席日数が減っただけではなく、学校に行きたくなくて休む生徒が減ったことを意味しています。この傾向は、中学生や高校生、そしてスマホ禁止前にスマホの利用が多かった学校ほど強く現れていました。授業中の集中力が高まっただけでなく、学校生活への関与そのものが強まった可能性があるとフィグリオ氏らは指摘しています。
また、成績が上がった理由の3~4割はこの「欠席が減ったこと」で説明できるとのこと。スマホ禁止によって学校に来る日が増え、結果として学習時間が確保されるようになったことが成績向上の一因になった可能性があるそうです。

この研究が示しているのは、学校でのスマホ禁止は導入直後こそ混乱を招くものの、その段階だけを見て失敗と判断するのは早すぎるという点です。実際、スマホ禁止の1年目には停学や懲戒処分が一時的に増えましたが、生徒や教師が新しいルールに慣れるにつれて状況は落ち着き、2年目以降には欠席が減り、成績が向上するという変化が確認されました。
一方で、この研究には限界もあります。分析対象は単一の学区に限られており、さらに学区全体で一斉にスマホ禁止が導入されたため、実際の効果よりも控えめに見積もられている可能性があるとフィグリオ氏らは指摘しています。また、長期的に見た場合の影響や、生徒の精神的健康や社会性にどのような変化が生じるのかについては、まだ明らかになっていません。
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in 教育, スマホ, Posted by log1b_ok
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