サイエンス

「ズバットを食べたためショウヨウシティで新型コロナのパンデミックが起きた」という論文が学術誌に掲載されたことが示す真の問題とは?


ポケットモンスターシリーズに登場するキャラクターが、「ショウヨウシティでのCOVID-19のアウトブレイクはズバットの食用消費と関係がある」という旨の論文を学術誌上で発表したとして、話題を呼んでいます。

Opinion: Using Pokemon to Detect Scientific Misinformation | The Scientist MagazineR
https://www.the-scientist.com/critic-at-large/opinion-using-pokmon-to-detect-scientific-misinformation-68098

2020年3月18日、アメリカの生物医学科学研究向けの学術誌であるAmerican Journal of Biomedical Science and Research上で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックはポケモンのズバットの食用消費と関係があるとする論文が掲載されました。

この論文は正式な学術誌に掲載された論文ですが、ポケットモンスターシリーズに登場するジョーイさんウツギ博士などが著者となっており、これは明らかに「偽の論文」です。

Cyllage City COVID-19 Outbreak Linked to Zubat Consumption
(PDF)https://biomedgrid.com/pdf/AJBSR.MS.ID.001256.pdf


論文の本当の著者はマッタン・スクローミ氏で、同氏は他にもピカチュウポリゴンプリンといったポケモンを用いた論文を発表しています。当然ですが、そのすべてが「偽の論文」です。スクローミ氏は偽の論文を発表している理由について、「論文を発表している学術誌が査読を行っていないためである」と指摘。研究者の投稿した論文原稿をまともな査読や編集を経ることなく、そのままオープンアクセスの学術誌で出版する行為を「捕食出版」と呼びますが、スクローミ氏は複数の学術誌がこの捕食出版を行っていることを示すために偽の論文を発表しまくっているわけです。

スクローミ氏は「私の論文を発表した学術誌は捕食出版を行っています。これは合法的な行いのようにも見えますが、これらの学術誌では査読や編集、実際に論文を読むことさえ行われていません。American Journal of Biomedical Science and Researchを発行するBiomedGridや、OMICS、Longdom Publishingといった出版社は、著者が数百ドル(数万円)から数千ドル(数十万円)の料金さえ支払えば、どんな論文でも受け入れます」と語り、複数の出版社が金儲けのために捕食出版を行っていると指摘しています。

加えて、スクローミ氏は「捕食出版を行っている学術誌はただの高価なブログであり、有名人のTwitter以下の信頼度しか持っていない科学情報のソースです」と辛らつに批判しています。


さらに悪いことに、COVID-19とズバットの関係性について記したスクローミ氏の論文は、すでに複数の論文で引用されているとのこと。

チュニジアを拠点に活動するある物理学者は、別の捕食学術誌であるIJERT上で「COVID-19は人為的に引き起こされた病気で、ハーブを用いて治療可能である」という論文を発表しており、この論文中でスクローミ氏の偽論文を引用しています。さらに、同論文では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を最初に特定した論文として、スクローミ氏が発表した別の論文である「ポケルス感染の兆候と症状」が引用されているとのこと。

スクローミ氏がこの物理学者と連絡を取ったところ、同氏はオープンアクセスジャーナルと捕食学術誌の違いに気づいていなかったとのこと。スクローミ氏は「2つの違いは重要であり、特に公衆衛生に関する研究において、捕食学術誌で発表されるような偽の論文は本当に危険な存在となります」と注意喚起しています。


また、捕食学術誌だけでなく出版後に査読を行う学術誌も存在することから、スクローミ氏は「学術論文だからといって公開されているものをすべて盲目的に信頼するべきではない」と指摘しました。


なお、捕食学術誌を見つけるための方法として最も有名なのが、コロラド大学デンバー校の准教授だったジェフリー・ビール氏の作成したビールのリストをチェックすることです。ただし、スクローミ氏は自身で捕食学術誌を見つけるための目を養うことも重要としており、具体的に「専門分野以外の学術誌や、あまりにも幅広いテーマを扱っている学術誌、迅速な査読を約束していたり、『著名な研究者』による褒め言葉でお世辞を言ってきたりする学術誌」などは、捕食学術誌である可能性が高いとしています。

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in サイエンス,   ゲーム, Posted by logu_ii

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