航空機に使用される電子部品の耐放射線性をテストする「ICE House」とは?

近年は航空機のデジタル化が進み、操縦装置や計器類は電子機器によって制御されていますが、高度が高くなるにつれて自然放射線の影響が強まるため、航空機に搭載される電子部品には高い耐放射線性が要求されます。アメリカのロスアラモス中性子科学センター(LANSCE)には、さまざまな電子部品の耐放射線性をテストするための施設である「ICE House」が存在するとのことで、ロスアラモス国立研究所の公式サイトでICE Houseについて紹介されています。
The ICE House Heats Up | Los Alamos National Laboratory
https://www.lanl.gov/media/publications/1663/ice-house-heats-up

目に見えない放射線が電子機器に影響するとは想像しにくいかもしれませんが、理論上はたった1個の中性子が半導体デバイスを故障させる可能性があります。ロスアラモス国立研究所の物理学者であり、ICE HouseのLANSCE放射線影響ユーザープログラムで主任科学者を務めるスティーブ・ウェンダー氏は、「たった1個の中性子でも列車を止めることができます。少なくとも理論上はそうですが、実際にはこれらの装置はバックアップと安全対策が講じられた状態で構築されています」と指摘しています。
宇宙から地球へ降り注ぐ宇宙線は主に陽子からなり、太陽など地球に近い星から飛来するものもあれば、他の銀河で爆発した星など非常に遠くから飛来するものもあります。
地球には毎日数兆個もの粒子が降り注いでおり、高エネルギーの粒子が地球の上層大気で空気中の分子に衝突すると、宇宙線と分子の両方が破裂して低エネルギー粒子が四方八方に飛び散ります。さらにこれらの粒子が別の分子に衝突し、連鎖的に低エネルギー粒子が生み出される現象は空気シャワーと呼ばれています。この空気シャワーの中で、大気中に存在する電子機器に最も大きな影響を及ぼすのが中性子です。
大気シャワーは地球の大気圏上層、高度2万4000~3万5000mほどの高さで始まり、地表に向かうにつれてより多くの粒子が放出され、高度2万m付近で最も粒子密度が高くなるとのこと。多くの民間航空機は高度9000~1万2000m付近を巡行しており、海面と比べると300倍も多い中性子にさらされます。

電子機器にとって中性子が問題となるのは、中性子が半導体チップに搭載されているトランジスタに影響を及ぼすためです。トランジスタは電子回路に流れる電圧を制御して電気信号を増幅するための電子部品であり、中性子がトランジスタ内の原子に衝突すると空気シャワーと同様に電荷を帯びた二次粒子が放出されます。この電荷がデバイス内に蓄積されることで、デバイスの動作を妨げる可能性があるというわけです。
中性子による影響は、それぞれのトランジスタが小さくなるほど増えます。2025年3月時点では、民生用マイクロプロセッサチップ1個当たりのトランジスタ数は最大で1840億個に達しており、特殊用途のチップではトランジスタ数が数兆個に達する場合もあるとのこと。
放射線が引き起こすデジタルデバイスのエラーは「シングルイベントアップセット(SEU)」と呼ばれ、プロセッサのメモリやロジック機能に影響を及ぼします。多くのSEUは非破壊的なものであり、コードに組み込まれたエラー訂正ロジックで修正できたり、デバイスをリセットすることで修復できたりしますが、中には永続的な損傷を引き起こすものもあります。
SEUによる永続的な損傷が蓄積すると、デバイスにさまざまな問題が発生する可能性が高まります。古くなったデバイスが急激に熱くなったり、バッテリーの消耗が早くなったりする問題の背後には、トランジスタに蓄積した損傷がある可能性もあるそうです。
ICE Houseでは自然放射線を模したビームを電子部品に照射することで、問題が発生するまでの放射線量や問題となる中性子のエネルギー、発生するエラーの種類や頻度といったデータを提供します。ウェンダー氏は、「私たちのビームで1時間照射することは、航空機高度における100年間の自然放射線への暴露に相当します。大手企業のほとんどは自然環境における部品の性能を予測し、信頼性の限界を探るためにここで部品の試験を行っています。ここでは、通常であれば何年もかかるようなことを数時間で知ることができるのです」と述べています。

電子部品メーカーは耐放射線性を高めるため、放射線の影響を受けにくい素材を使用したり、放射線に敏感な部品の周囲に遮蔽(しゃへい)材を組み込んだり、損傷に耐える独創的なレイアウトを採用したりしています。また、コードのエラー検出および訂正機能の組み込み、部品内の回路冗長化、システム内の部品冗長化といった工夫もみられるとのこと。現代の商用および軍用の航空電子部品は、ほぼすべてに3重あるいは4重の冗長性が備えられているそうです。
ICE Houseの歴史は1990年代にさかのぼります。航空電子工学業界において自然放射線の影響が懸念され始めた1990年代初頭、ロスアラモス国立研究所では中性子研究が発展を遂げていました。そんな中、中性子科学者から航空機エンジニアに転身したウェンダー氏の同僚が、ロスアラモス国立研究所の中性子テクノロジーを航空電子部品のテストに使う可能性を思いついたとのこと。
ウェンダー氏らは1992年に初めて実験を行い、2004年にはICE Houseの施設が建設されました。それ以降もICE Houseの需要は高まっており、2012年までにはICE IIと呼ばれる2つ目の実験施設を建設しているほか、さらなる需要に応えるために3つ目の施設を建設するための交渉が行われています。
さらに、宇宙環境での放射線の影響をテストするための陽子放射設備に向けたプロジェクトも進んでいます。航空機の高度では大気が持つ遮蔽効果により陽子はあまり問題になりませんが、大気のない宇宙空間にはより多くの高エネルギー陽子があるため、これらが電子機器に及ぼす影響を評価する必要があるとのこと。ウェンダー氏らはNASAの科学者らと協力し、極端な宇宙天気現象を測定・観測する陽子検出器を開発し、電子機器の耐放射線性を改善することを目指しています。
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