ナイル川の源流を巡る冒険の歴史とは？

長さ6650km、流域面積287万平方キロメートルに及ぶ世界最長の河川「ナイル川」の源流を探すという探求は、ヨーロッパにおける19世紀の最も重要な科学的問題の1つだったとのこと。数々の探検家が挑戦したこの謎について、科学系記事を取り上げるDiscover Magazineが解説しています。

The Source of the Nile River: A Mystery That Spanned Three Millennia | Discover Magazine
https://www.discovermagazine.com/planet-earth/the-source-of-the-nile-river-a-mystery-that-spanned-three-millennia

ナイル川は人類の歴史上最も古い文明の中で重要な役割を果たしてきました。膨大な水の量がなければ古代エジプト人は富と権力を蓄えることができず、ピラミッドも建設されなかったと考えられています。ナイル川の源流を探し続け、その記録を収めた「Journey to the Source of the Nile」を執筆した探検家のクリストファー・オンダーチェ氏は、不可能なことを試みるという意味を持つ古代ローマのことわざ「Nil caput quoerere(ナイル川の頭を探す)」を紹介し、「ナイル川の源の謎は3000年に及ぶ挑戦でした」と述べています。

ナイル川への関心は古くから高く、紀元前5世紀には古代ギリシアの歴史家・ヘロドトスが、その源流の謎について言及していたり、紀元前3世紀にはプトレマイオス2世が源流を探す遠征隊を派遣したりといった記録が残っているとのこと。ただし、いずれも源流を見つけられたかどうかは不明でした。

ナイル川をさかのぼるといくつかの支流が現れますが、主要なものは青ナイル川と白ナイル川の2つ。青ナイル川の水源は既にエチオピアのタナ湖であることが明らかになっていますが、オンダーチェ氏いわく、ヨーロッパ人で最初にタナ湖までたどり着いたのはイエズス会司祭のペドロ・パエスで、1618年の出来事でした。この後、ヨーロッパにおける遠征のほとんどは白ナイル川の水源を見つけることが目的となっています。

1855年、「千夜一夜物語」を翻訳した大英帝国を代表する冒険家のリチャード・フランシス・バートンは、イギリス領インド陸軍の将校であったジョン・ハニング・スピークと共に白ナイル川の源流を探す旅に出発。現地の部族に襲われ、マラリアなどに苦しみながらも冒険を続け、2人でアフリカ大陸東部のタンガニーカ湖に到着します。スピークが病により一時的に目が見えなくなったため、バートンがヨーロッパ人で初めてタンガニーカ湖を目視した人物となりましたが、すぐにタンガニーカ湖にも大きな川が流れ込んでいることが明らかになりました。スピークの視力は回復しましたが、今度はバートンが病で倒れてしまったため、スピークは単独で冒険を続けてタンガニーカ湖に流れ込んでいた川の源流に到達。それをヴィクトリア湖と名付け、この湖こそが真のナイル川の源流であると主張しましたが、ヴィクトリア湖全体を地図に収めることはかなわなかったとのこと。

その後も数々の冒険が行われたにもかかわらず、白ナイル川の源流はいまだ明らかになっていないとオンダーチェ氏は話しています。オンダーチェ氏自身もアフリカを探索した際、ヴィクトリア湖にカゲラ川が流れ込んでおり、さらにカゲラ川がブルンジ共和国とルワンダ共和国の湧き水から生じていること、スピークが源流であると主張したヴィクトリア湖の水はアルバート湖を通って白ナイル川に流れるものの、アルバート湖水のほとんどはコンゴ民主共和国のセムリキ川から流れているらしいことを確認し、源流とされる河川が複数存在していると考えているそうです。

オンダーチェ氏は「ナイル川は2つの大きな湖と2つの川によって供給されており、単一の水源によって供給されているわけではありません。スピークによる発見はナイル川の源流の謎に対する答えの1つにすぎません。現状政治問題のために私がたどった道をさかのぼることは不可能であり、ナイル川の謎は未解決のままです。ロマンスはまだそこにあると思います」と述べました。