サイエンス

神経細胞すべてのマッピングに成功した生物はわずか1種、神経科学の強力なデータとなる「コネクトーム」とは?


2020年、ハーバード大学の神経科学者とGoogleのエンジニアが、人間の脳の神経細胞を染色してマッピングしたものを共同で発表しました。しかし、この共同研究で行われたマッピングは人間の脳全体のわずか100万分の1。神経細胞をマッピングする「コネクトーム」がどのようなものなのか、科学系メディアのQuanta Magazineが解説しています。

New Brain Maps Can Predict Behaviors | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/new-brain-maps-can-predict-behaviors-20211206/

コネクトームを行ったハーバード大学のジェフ・リヒトマン氏らは、人間の脳を5000を超える片に切断し、電子顕微鏡で観察できた血管や神経細胞の画像化を行うことでマッピングに成功。長年コネクトームに従事してきたリヒトマン氏は「新大陸を発見したようなものだ」と成果を喜びましたが、人間の脳すべてをマッピングするにははるかに長い時間がかかることも認めています。


神経細胞がどのように配置されているのか、神経細胞同士がどのように接続されているのかを知ることは、脳の持ち主である生物がどのように考え、感じ、行動するのかを理解する鍵になるといいます。ある実験ではコネクトームから動物の次の行動を予測できる可能性が示され、また別の実験では神経細胞が動作する一定のルールをコネクトームから導ける可能性が示されたとのこと。このような知識を追求するには脳全体のマッピングが不可欠ですが、それに成功しているのはたった1種の生物だけというのが現状。その生物は、体長わずか1mmという線虫の1種です

線虫のコネクトームが完成したのはさかのぼること1986年のこと。わずか302個の神経細胞しか持たない線虫にマッピングが行われ、約5000の化学シナプスや約2000の神経節接合部約600のギャップ結合など、すべての部位がどのような構造で配置されているのかが正確に明らかになりました。この研究は電子顕微鏡の画像と光学式文字認識(OCR)を利用して手描きでマッピングするという骨の折れるプロセスで、15年以上かけて行われました。


現在、画像認識技術の進歩により、線虫のコネクトームにかかる時間は1カ月にまで短縮されています。複数の線虫をマッピングすることにより、「行動パターンがそれぞれ違う別個体でも、交尾中に周囲の環境からの情報を処理するという脳の働きはすべての個体で一貫している」などの研究成果が得られています。神経細胞がどのように働くのかをより良く理解するためのデータベースとして、科学界においてコネクトームの重要性が着目されています。

しかし、線虫以上に複雑な生物ほど、脳のすべてをマッピングすることは非常に困難だとされています。特に脳だけでも1000億ほどの神経細胞を持つ人間では、一部の神経細胞が複数人で一致したからといって、それがすべての人間に普遍的であるかどうかは不明。リヒトマン氏は「100人分マッピングできればある程度明確にできる」と述べていますが、1人当たり1.4PB(約1400TB)ともされる情報量のマッピングを行うことは容易ではありません。

しかし、コネクトームの研究は部分的でありながらも、重要な進歩を遂げているといいます。2020年には、ショウジョウバエの脳の大部分、2万5000の神経細胞をマッピングすることに成功。これを元に、ショウジョウバエが飛行する際に活発化するとされる数十の新たな神経細胞と回路の発見に至っており、このマッピングはショウジョウバエ研究のマイルストーンとして歓迎されているとのこと。


コネクトームは単に神経細胞のマッピングを行うだけであり、神経細胞がどれだけの情報量を伝達しているかなど、コネクトームだけでは分からないこともあります。それでも、リヒトマン氏はコネクトームが神経科学における強力なデータとなることを確信し、「技術革新で大規模なコネクトームが研究が現実のものになりつつあると興奮している」と話しています。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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