人間にとって「主張の質」と「自分の政治的意見」を切り離すのは難しいことが実験で明らかに

政治的なトピックについて考える際は、さまざまな主張や証拠がどれほど信頼に値するのかを公平に吟味する必要があります。ところが複数の実験により、人々は「自分がもともと持っていた政治的意見」と「主張の質」を切り離すのが難しいことがわかりました。
For everyday arguments prior beliefs play a larger role on perceived argument quality than argument quality itself - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010027725001970

People struggle to separate argument quality from their own political opinions
https://www.psypost.org/people-struggle-to-separate-argument-quality-from-their-own-political-opinions/
多くの人は、「話し手への信頼感」「自分の意見との整合性」「感情的な言葉」「社会的な手がかり」といった認知的な近道を使い、どの主張を信頼するべきかを判断しがちです。これに対してメディアリテラシーの高い人々は、近道を使った自動的な判断を避けて「情報のソース」「主張の文脈や論理的な一貫性」「誤解を招く画像や見出し」などを見極めて、主張の正当性を評価すると考えられています。
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの心理学・言語科学科の博士課程に在籍するカルヴィン・ディーンズ=ブラウン氏らは、「中絶の合法化」といった政治的主張に関する主張の質を、人々がどのように評価するのかを調べる実験を行いました。
ディーンズ=ブラウン氏は、「2020年のCOVID-19パンデミックの最中に、このテーマに関する研究を始めました。この期間には質の低い情報がまん延し、その中には残念ながらCOVID-19の感染経路やウイルスから身を守る方法に関する誤情報も含まれていました」と述べています。

研究チームは3つの実験を行い、「主張の質」と「その人がもともと持っていた信念」との関係を調査しました。実験では、「それぞれの主張で提示された情報が、主張の中心となる部分とどの程度関連しているのか」を調整することで主張の質が操作されました。
「良い主張」には、たとえば「」「アメリカの銃による殺人率は、同じくらい高所得な22カ国の平均より25倍高い」といった主張を裏付ける統計的な証拠や、「私たちが家を暖め、車を動かし、工場を稼働させると、排出物によって地球が温暖化する」といった因果的な証拠が含まれていました。一方で「悪い主張」に含まれる証拠は大幅に弱く、主張を言い換えただけの循環論法や権威・人気・伝統への訴えなど、さまざまな欠陥が含まれていました。研究チームは10種類の政治的トピックについてこれらの主張を用意したとのこと。
まず1つ目の実験では、合計101人の被験者に8種類の政治的トピック自体を提示して、「非常に間違っている」から「非常に正しい」までの尺度で、トピックへの信念を報告してもらいました。続いて被験者はそれぞれのトピックに関する主張を読み、主張の質を評価するように求められました。
その結果、被験者らは確かに「良い主張」と「悪い主張」を区別していましたが、その内訳は被験者が支持するトピックと支持しないトピックの間で異なりました。定量的に見ると、被験者がそのトピックに同意するかどうかが主張の質の評価にも関係していることが示されました。
以下のグラフは、縦軸が主張の質についての評価を表しており、上に行くほど質が高いと評価されたことを意味しています。横軸はそのトピックをどれほど支持するかを表しており、左に行くほど反対、右に行くほど賛成となっています。2つあるグラフのうち、上のグラフは「トピックについて賛成する主張」の評価で、下のグラフは「トピックについて反対する主張」の評価。青色が「良い主張」で黄色が「悪い主張」を表しています。全体として被験者は「良い主張」の方を高く評価していることがわかりますが、被験者は自分が支持するトピックになると賛成意見の「悪い主張」を高く評価し、反対意見の「良い主張」を低く評価しており、支持しないトピックではその逆の傾向が見て取れます。

2つ目の実験では同じトピックや主張を用いましたが、200人いる被験者の半数を「まず最初に主張の質を評価し、その後でトピックへの信念を報告する」グループに、もう半数を「まず最初にトピックへの信念を報告し、その後で主張の質を評価する」グループに割り当てました。
これは、主張を評価する前にトピックについて述べることが、主張の評価に影響する可能性があるかどうかを探るためのものでした。しかし実験の結果、2つ目の実験でも1つ目の実験と同様の結果が示されました。つまり、トピックを支持するかどうかの報告と主張の質を評価する順序は、結果に影響を及ぼさなかったというわけです。
3つ目の実験では、101人の被験者に見せる「悪い主張」の中身を体系的に操作し、半数を「矛盾した証拠」に基づくもの、もう半数を「権威に訴えかける論法」に基づくものにしました。矛盾した証拠に基づく主張は、一部の証拠は主張の内容を裏付けている一方、残りの証拠は主張に反しているという状態だったとのこと。
実験の結果、被験者らは「権威に訴えかける論法」よりも「矛盾した証拠」に基づく主張を、より質が高いと評価する傾向が確認されました。左派の人々は「左派のトピックに賛成する矛盾した主張」を高く評価し、右派の人々は「右派のトピックに賛成する矛盾した主張」を高く評価していました。つまり、やはり人々は主張の質を評価する際に、自分がもともと持っていた信念に影響を受けてしまったというわけです。
ディーンズ=ブラウン氏は、「私たちの研究で用いた矛盾した主張は、注意深く読むとあまり意味をなさないものでした。なぜなら、主張は同時に相反する視点を支持することはできないからです。そのため、研究に参加した人々がはるかに理解しやすい著名人への訴えに基づく主張よりも、こうした矛盾した主張の方が優れていると考えていたことに驚きました」と述べています。

今回の研究結果は、政治的トピックにまつわる主張を評価する際、個人がもともと持っていた政治的信念が影響することを示唆しています。しかし、被験者が全体として良質な証拠や論に基づく「良い主張」を高く評価していることからわかる通り、質のいい主張をすることは依然として重要であることも示されています。
ディーンズ=ブラウン氏は、「強調しておきたいのは、人々は個人の信念と一致する主張を肯定的に捉える傾向がある一方、質の高い証拠が提示された主張も肯定的に受け止めるという点です。良質な証拠だけで人々を説得しようとする試みの限界を指摘しつつも、質の高い証拠に基づいて主張することが無益な努力であるとか、そういう主張をするべきではないといった印象を与えることは望んでいません」と述べました。
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