サイエンス

「暴君ネロは意外にも財政面はきちんとしていた」ことが放射線で歴史的な通貨を分析する研究で判明


アメリカ・ノートルダム大学の原子核物理学者らの研究チームが、2021年10月にオンラインで開催された発表会「DNP 2021」で、X線回折や粒子加速器を用いて歴史的な硬貨や紙幣を分析する研究の成果を発表しました。これにより、暴君としてのイメージが強いローマ皇帝ネロが通貨価値の維持に尽力していたことや、アメリカの100ドル紙幣に肖像が描かれているベンジャミン・フランクリンが紙幣を発行する際に使った偽造対策などが明らかになりました。

Surface manipulation techniques of Roman denarii - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0169433219320318

APS Physics | Nuclear Physicists Track Money Crimes From Ancient Rome to Benjamin Franklin
https://www.aps.org/newsroom/vpr/dnp/2021/20-09-2021-3.cfm

A physicist studied Ben Franklin’s clever tricks to foil currency counterfeiters | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/11/history-detective-using-physics-to-track-currency-fraud-forgery-through-history/

ノートルダム大学のマイケル・ウィーシャー教授は、超新星やX線バーストを研究する天体物理学を主な専門分野としていますが、ラマン分光装置透過型電子顕微鏡といった原子核物理学の最新技術を駆使して歴史的資料を分析する文化史の研究にも造詣が深い人物です。

そんなウィーシャー教授が最近の研究で注目したのは、古代ローマ帝国の基軸通貨として使われていたデナリ銀貨です。ウィーシャー教授らが、さまざまな皇帝の在位期間中に鋳造された銀貨を集めて、銀とそれ以外の不純物の割合を調べたところ、西暦250年から350年まで間に銀の含有率は大きく減少しており、銀の含有率がたった5%しかない時代もあったことがわかりました。


ローマ帝国では、軍資金を集めるため、ローマの造幣局自身が意図的に銀貨に混ぜ物をして、利益を上げていたこともあったとのこと。対照的に、ネロの治政の貨幣は銀の含有率を92.5%と定めたローマ帝国の法律を順守したものだったことから、ウィーシャー教授は「ネロは歴代のローマ皇帝の中で最も財政に責任を持っていた皇帝の1人です」とコメントしました。

銅が混じっていて価値の低い銀貨が流通していることを知っていた古代ローマの商人は、銀貨を歯でかんで銀の味を確認し、それが偽造されたものかどうかを見分けていたと言われています。しかし、ウィーシャー教授の研究では、この確認方法を回避するような偽造技術が使われていたこともわかりました。


ウィーシャー教授によると、銀と銅が混じった硬貨を水銀の中に入れると、銀が溶けて硬貨の表面に集まるとのこと。その後硬貨を加熱して水銀を飛ばすと、中心に銅が集まり表面は銀で覆われた銀貨できるので、銀の割合が低くても銀の味がする硬貨が作れるそうです。

ウィーシャー教授はまた、1652年にボストンで鋳造されたアメリカ初の銀貨に用いられたスペイン産の銀は、アメリカに運び込まれた後に中抜きのため銅や鉄が混ぜられたことを明かしました。またウィーシャー教授によると、こうした偽造通貨の撲滅や紙幣の普及に尽力したフランクリンは、紙幣を印刷する際に自宅の裏から採れた雲母の粉を紙に混ぜていたそうです。

以下は、フランクリンが1739年に印刷した20シリング紙幣です。


フランクリンが紙幣に雲母を混ぜていたことについて、ウィーシャー教授は、「フランクリンの自宅の裏で採れた雲母は独特な形状しているので、偽札作りは至難の業だったことでしょう」と話しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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