ドローンやAIなどの最新テクノロジーを「老朽化した下水道のメンテナンス」に投入する試み
家庭からの生活排水や工場排水などが流れ込む下水道は、定期的な点検や老朽化した場所の補修などが必要ですが、さまざまな汚物や廃棄物にまみれ、ネズミなどの小動物も生息する下水道内を点検するのはかなりのコストがかかります。老朽化したインフラストラクチャーの整備が課題となっているアメリカでは、最新テクノロジーを活用したロボットやAIを導入して、下水道の問題に対処する試みが進められています。
Robots vs. Fatbergs: High-Tech Approaches to America’s Sewer Problem - WSJ
https://www.wsj.com/articles/robots-vs-fatbergs-high-tech-approaches-to-americas-sewer-problem-11636779629
排水や雨水が流れる下水道の内部では、排水と共に流されてきた油脂や汚物、トイレットペーパー、本来流してはいけないウェットティッシュや紙おむつなどの廃棄物が「ファットバーグ」と呼ばれる塊となり、詰まりや有毒ガスを生じさせて問題となっています。
人工的に作られた下水道は時間と共に劣化が進むため、定期的なメンテナンスや問題箇所の補修をしなければなりません。寿命を過ぎた下水管がそのまま放置されている場合、気候変動による大雨などに対処しきれなくなるほか、環境保護のための厳格な規制に準拠できなくなってしまいます。また、下水道システムが故障すると下水があふれることによる感染症のまん延や洪水、河川や湖、海などを汚染するといった環境問題が引き起こされる可能性があるとのこと。
しかし、汚物やファットバーグが積み重なった下水道の点検作業は困難であり、アメリカの地下空間に存在する87万5000マイル(約139万km)もの下水管の多くは、本来の大規模修繕や交換の時期を大幅に過ぎています。アメリカ土木学会の調査によると、2019年におけるアメリカの排水インフラストラクチャー関連の総支出は480億ドル(約5兆4600億円)でしたが、必要とされる支出総額は1290億ドル(約14兆6800億円)であり、810億ドル(約9兆2200億円)も予算が足りていないそうです。既に下水道の整備が追いつかない数多くの自治体が、1972年に制定された水質浄化法に違反していることがわかっています。
そこで、都市や下水道の点検・修繕サービスを請け負う事業者は、下水道内を飛べるドローンや下水の中を移動可能なロボット、AIなどを利用して下水道のメンテナンスにかかる費用を削減しようとしています。
点検分野に特化したドローン機体を開発するベンチャー企業・Flyabilityは、下水道内を飛ぶことができる衝突耐性を持つドローンを開発しています。Flyabilityのドローン操縦者であるCharles Rey氏は、ヨーロッパ・アジア・南北アメリカの地下にある下水道を調査したそうで、中国では960年~1279年に存在した宋の時代に建設された下水道内でドローンを飛ばし、これまで知られていなかった階段などを見つけたとのこと。アメリカにある下水道はもちろん宋より新しいものですが、地下に埋まっている排水システムの全容が把握されていないことが多いそうです。
水中を移動できる遠隔操作車両を開発しているDeep Treckerは、もともと難破船捜索のために設立された企業でしたが、インフラ整備を請け負う事業者からの予期せぬ需要があったと述べています。記事作成時点では、多くの下水道点検事業者がDeep Treckerなどが製造する遠隔操作車両を使って下水管を探索しているそうです。下水道内を点検する車両は細菌などの汚染や油脂、腐食性の硫化水素ガスなどに1日数時間耐えられなくてはならず、1台当たり数百万円するとのこと。
さらに、遠隔操作車両に搭載されたカメラの映像から人間が目視点検するのではなく、AIを利用して問題を自動で特定するシステムも開発されています。2019年にカリフォルニア州で設立されたSewer AIというベンチャー企業は、契約した都市に下水道の検査時のビデオを送ってもらい、下水管の問題を識別するAIのトレーニングを行いました。
アメリカの150以上の自治体で下水道検査を担当するHK Solutions Groupは、毎月20万フィート(約60km)もの下水管のビデオをSewer AIに送り、問題の自動識別と追跡を行っているとのこと。HK Solutions GroupのCEOを務めるMichael Ingham氏はAIを導入した結果、これまでに認定された検査員が数週間~数カ月かけて処理していた点検作業が、今では最短1日で完了できるようになったと述べています。
カリフォルニアやコロラドで上下水道インフラストラクチャーの財務局長を担当していたGregory Baird氏によると、遠隔操作車両を使用して人間の検査員が排水システムの問題を調査する場合のエラー率は20%あるとのこと。「人間は疲れ、水中を流れる何かやネズミに気を取られて問題を見逃します。下水管のうんちをながめるのは知的刺激がなく、人々は座って人生の次の10年を考えてしまいます」とBaird氏は述べ、AIは人間と違って疲れたり他のことに気を取られたりしないと主張しました。
自治体が管理する下水管を完全にマッピングできれば、後はオランダに本拠を置くSewer Roboticsなどが開発する「下水管修復用ロボット」を投入し、下水管を掘り起こさずに修理することが可能になります。Sewer Roboticsのロボットは下水管に水が流れている状態でも稼働可能であり、ウォーターカッターでファットバーグなどの障害物を吹き飛ばし、水漏れしている箇所を紫外線で硬化するプラスチックで覆って補修できるとのこと。
ヨーロッパでは下水道システムの整備に最新テクノロジーを導入する動きが進んでいるものの、アメリカの下水道システムではまだこれからだそうです。ロボットやAIの導入により、自治体や請け負い事業者が下水道をこれまでになく迅速かつ低コストで点検し、補修することが可能になると期待されています。
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