iPadとジョイスティックで操縦するヘリコプターが登場済みの航空業界で「自動飛行技術」の開発はどれぐらい進んでいるのか?
Google傘下のWaymoやテスラ、「Argo AI」というスタートアップに5600億円という巨額を共同出資したフォードとフォルクスワーゲンなど、さまざまな企業が「完全自動運転」を目指して日夜研究を重ねています。自動運転技術は地上を走る自動車だけでなく空を行く「飛行機」にも適用できるということで、アメリカ大手紙のThe New York Timesに所属するケイド・メッツ氏が「運転補助システムによってiPadとジョイスティックだけでお手軽に操作できるヘリコプターを運転してきた」という体験記に併せて「自動飛行技術」の現況を解説しています。
I’m Not a Pilot, but I Just Flew a Helicopter Over California - The New York Times
https://www.nytimes.com/2021/10/25/technology/automated-flight-helicopter-skyryse.html
メッツ氏が運転補助システムを搭載したヘリコプターを運転したのは、カリフォルニア州北部にあるベンチュラ郡のカマリロという都市。メッツ氏が運転するヘリコプターは高度1万フィート(3000メートル)まで上昇した後、眼下に広がるオレンジの果樹園を流れる運河に沿う形で谷間を抜け、くるっと旋回して飛行場の上空に戻った後、ホバリングの姿勢から静かに着陸しました。
メッツ氏は自分の手でカマリロ上空を飛行しましたが、メッツ氏はパイロットというわけではありません。メッツ氏がわずか15分強の訓練で離陸・飛行・着陸できるようになったのは、コックピットに搭載された2台のiPadとジョイスティックで構成された「FlightOS」というシステムが理由。FlightOSは、まるでビデオゲームのフライトシミュレーターのように、画面のタップやスティック操作で離陸・旋回・加速・上昇・降下・ホバリング・着陸などを実行します。実際にメッツ氏が搭乗したヘリコプターに搭載されていたFlightOSが以下。
このようにFlightOSは2021年10月時点でも高度な飛行補助を達成していますが、FlightOSを開発する南カリフォルニアのスタートアップ・Skyryseは、カメラやレーダー、その他センサー類を活用してヘリコプターから小型ジェット機に至るまであらゆるものの「完全自動飛行」を目指しています。同じ志を抱えているのはSkyryse一社だけでなく、ロッキード・マーティン傘下のヘリコプター製造企業のシコルスキー・エアクラフトなども完全自動飛行を目指しています。
自動車の完全自動運転には歩行者や地形などの多種多様な障害を認識する技術が必要です。一方、飛行機が行く空はそうした障害とは無縁であるため、自動飛行は比較的達成しやすいと考えられています。しかし、専門家が「承認には最低でも10年はかかる」と語るほど、規制当局が自動飛行を認める可能性が低いため、Skyryseは完全自動飛行をはるか先の目標として、「パイロットの同乗を前提とした飛行補助」の開発に進んでいます。今回メッツ氏が操縦したヘリコプターもライセンスを有するパイロットが横の座席に同乗しており、管制官とのやりとりを担当したほか、メッツ氏の操縦を時折正すこともあったとのこと。
FlightOSのような飛行補助システムが市場に投入された場合、パイロットライセンスの新規取得者が大幅に増えるほか、すでにパイロットライセンスを有する人がこれまで操縦したことのない航空機の操縦を容易に習得できるようになるため、運用される航空機の台数が飛躍的に増加すると見込まれており、コンサルティング大手のMcKinsey and Companyは「10年間でパイロット数が36万人から59万人に増加する可能性がある」と予測しています。
今回FlightOSを搭載したヘリコプターを操縦したメッツ氏は「15分強のトレーニングで旋回や蛇行、上昇はできるようになりましたが、離着陸時の管制官とのやりとりや飛行時のコース設定ができませんでした」と述べ、むしろ運転以外の作業こそが難題だったと語りました。
Skyryseは今後数年で管制官やパイロットに対する依存をさらに減らす形で自動化を進めると語っており、目下の目標は「誰もがパイロットになれること」とのことです。
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