サイエンス

限りなく絶対零度に近い「宇宙で最も寒い場所」が地球上に作られる、実験室内で観測された最低温度を塗り替える新記録


ドイツの研究チームが2021年8月に、絶対零度である-273.15℃に非常に近い「38ピコケルビン(1兆分の38度)」まで物質を冷却する実験に成功したと発表しました。この温度は、それまで研究者らが実験室内で作り出したどの低温状態よりも低いことから、研究チームは「宇宙で最も寒い場所の1つ」と呼んでいます。

Phys. Rev. Lett. 127, 100401 (2021) - Collective-Mode Enhanced Matter-Wave Optics
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.127.100401

Physics - 3D Collimation of Matter Waves
https://physics.aps.org/articles/v14/119

ZARM: Extremely long and incredibly cold
https://www.zarm.uni-bremen.de/en/press/single-view/article/extremely-long-and-incredibly-cold.html

Quantum gas free fall experiment creates coldest temperature ever recorded
https://newatlas.com/physics/coldest-temperature-recorded-quantum-gas-freefall/

Scientists just broke the record for the coldest temperature ever recorded in a lab | Live Science
https://www.livescience.com/coldest-temperature-ever

絶対零度とは、熱力学的には「原子の動きが全くない状態」と表現される物質が最も冷たくなる温度です。この絶対零度に近い状態になると、物質はそれまで見せなかったさまざまな性質を見せるようになりますが、その中でもひときわ奇妙だとされているのが「ボース=アインシュタイン凝縮」という現象です。

このボース=アインシュタイン凝縮は「気体・液体・固体・プラズマ」に続く「第5の物質状態」と呼ばれ、物質が波のような性質を見せて原子の集まり全体が1つの大きな原子のように振る舞うようになるため、素粒子の仕組みなど物質の本質に迫る研究をしている物理学者にとっては魅力的な研究テーマとなっています。

by IBM Research

ボース=アインシュタイン凝縮の研究をするため、科学者らは物質を可能な限り冷却する実験を繰り返し行ってきましたが、これまでは地球の重力の影響で原子が動いてしまい、原子が止まった状態、つまり絶対零度に近い状態をなかなか作り出せないという課題を抱えていました。

そこで、ドイツ・ライプニッツ大学ハノーバー校やブレーメン大学応用宇宙技術・微小重力センターの研究チームは、「Fallturm Bremen(ブレーメンの落下塔)」と呼ばれている施設内部で実験設備を自由落下させ、その中で物質を冷却する実験を行いました。研究チームはまず、真空状態にした容器の中に10万個のルビジウム原子のガスを入れて磁気で閉じ込め、2ナノケルビン(10億分の2度)まで温度を下げて、ボース=アインシュタイン凝縮を発生させました。

そして、実験設備を120メートル自由落下させて無重力状態にすると同時に、真空容器の中の磁気のオン/オフを切り替えました。磁場がなくなるとガスは膨張し、磁場ができるとガスは再び収縮します。これを素早く繰り返すことでガスが運動を停止し、温度を効果的に低下させられるとのこと。

by dirk@bremen

この実験の結果、研究チームはガスの温度を38ピコケルビンまで低下させることに成功しました。この温度は、「自然な状態の宇宙空間の中で最も低温」とされるブーメラン星雲の平均温度よりも低く、これまで実験室内で達成されたどの低温状態の記録よりもさらに低温です。そのため、研究チームは「宇宙で最も寒い場所を作り出した」と述べています。

今回の実験はまた、ほぼ絶対零度の状態が「2秒間」という、この極限状態からすると非常に長い時間にわたって維持されたことでも注目を集めています。研究チームが行ったコンピューターシミュレーションによると、今回使われた「物質波レンズ」という技術を応用すると、理論的には最大で17秒間にわたって超低温状態を保つことも可能とのことです。

研究チームは、物質が波のような性質になるボース=アインシュタイン凝縮を進めることで、原子の回転や運動、原子に作用する重力のわずかな変化を測定する非常に高精度な測定機、いわゆる干渉計を開発し、物理学の基礎理論に関する研究をさらに発展させることができるとしています。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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