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人口の4分の3がワクチン接種を終えているデンマークはなぜこれほどまでに新型コロナウイルス感染症にうまく対応できたのか?


デンマークは人口の75%、50歳以上に至っては人口の95%がワクチン接種を完了しており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対応に関しては類いまれなる成功をおさめていると言えます。なぜデンマーク政府はこれほどまでに国民の意思をまとめられたのか、デンマーク政府でパンデミック対応の顧問を務める政治学教授のマイケル・バング・ピーターセン氏が解説しています。

COVID lesson: trust the public with hard truths
https://www.nature.com/articles/d41586-021-02758-2

パンデミックにおける各国の政府の対応のうち、特に有害だったものは「政府が国民を恐れたこと」であるとピーターセン氏は指摘。例えばアメリカでは、ドナルド・トランプ元大統領がCOVID-19を軽視する発言をしたのは「国民のパニックを抑えるため」であることを認めているほか、イギリスでは政府が国民が急速に疲弊することを恐れて都市封鎖を延長しています。他ならぬデンマークも「国民の不必要な恐怖」を避けるため、2020年初頭、必要以上にパンデミックに世間の注目を集めないよう努めていたとのこと。


しかし、その後デンマークは「真実を示し、国民を信頼する」という方針に軸足を移したとピーターセン氏は述べています。この方針転換により、デンマークはCOVID-19の死亡率低下と前述のワクチン摂取率を達成。2021年8月には、デンマーク政府が「COVID-19はもはや重大な脅威ではない」と発表するに至っています。

では、なぜデンマークは他国とは異なる方針を採ったのでしょうか。ピーターセン氏は以前、2015年にデンマークの首都コペンハーゲンで発生した、1人のイスラム教徒が起こした銃撃テロについて研究していました。このテロでは銃撃により2人が死亡、5人が負傷したとされ、国民感情に少なからず影響を与えたものとみられていますが、ピーターセン氏は「デンマーク人は、このテロを理由にしたイスラム教批判や、イスラム教徒に対する権利を制限するよう求めるようなことはしなかった」と判断。「問題のある行動が起こらなかったわけではないが、政府が懸念するような『大衆のパニック』は、実は発生しなかった」という結論に至りました。

ピーターセン氏はこのことから、パンデミック対応の顧問となった2020年3月、基本的な政府の方針として「大衆がパニックを起こすと思い込まず、明確な情報を出し続ける」よう助言したのです。ピーターセン氏は「大衆がパニックになるということは研究によって裏付けられてはおらず、そう思い込むべきではない」という考え方を示し、「パンデミックの間、国民は絶えず変化にさらされているため、『落ち着いて今の生活を続けること』などという言葉には耳を貸しません。国民が危機を真剣に受け止め、耳を傾け、行動する方法を知るためには、明確な情報が必要です」と政府へ通告したとのこと。

その結果、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相が2020年3月11日に都市封鎖を発表した際はより明確な情報が示されるように変化したほか、COVID-19の流行が病院にどれだけ負担をかけるかを示すために、視覚的に分かりやすいグラフが使われることとなりました。これらは国民の間に切迫感と危機感を生み出しましたが、パニックは発生しませんでした。

ピーターセン氏は、「パニックにはならない」という現象はデンマーク特有のものではないと指摘。例えば中国では、四川大地震の後に国民の間に他人と物資を分け合ったり慈善活動を行ったりする様子が見られたほか、フランスや他の場所でのテロでも「政治指導者が模範を示した場合、一般市民は少数民族の権利に反対しない」といったデンマークと同じ様相が確認されているとのことです。


ピーターセン氏はまた、「ネガティブな真実を隠し、漠然とした安心感を訴えるだけの父権主義的な政府は、国民のワクチン受け入れを阻害するという研究結果も示されています。信頼を維持することがワクチン受け入れに対する最良の方法であり、誤った情報に対する解毒剤でもあります」と述べました。この方針は、デンマークがアストラゼネカ製ワクチンについて「非常にまれだが、重篤で致命的となる可能性のある副作用がある」と明確に国民に説明し、使用を停止したことにも表れているとのこと。

ピーターセン氏は「国民が不都合な真実に効果的に対処することができないという考え方は、パンデミックのコントロールに悪影響を与えて政府を自滅に導きます」「政府が国民を信頼しない限り、国民が政府を信頼することは決してありません」と述べました。

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in Posted by log1p_kr

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