宇宙にデータセンターを設置する構想は実現可能なのか?元NASAエンジニアが技術的課題を指摘

2025年11月にNVIDIAのAIチップ「H100」を搭載した人工衛星が打ち上げられるなど宇宙空間にデータセンターを設置する計画が実現間近になる中、元NASAエンジニアでありGoogleで約10年間にわたりYouTubeやAI関連インフラに携わってきたRory McKinley(ロリー・マッキンリー)氏が、この構想について技術的観点から課題を整理した分析記事を公開しました。宇宙用電子機器を専門とする博士号(PhD)を持つマッキンリー氏は自身のブログ「Taranis.ie」において宇宙データセンター構想の実現性を冷却・電力供給・運用・通信といった観点から検討しています。
Datacenters in space are a terrible, horrible, no good idea.
https://taranis.ie/datacenters-in-space-are-a-terrible-horrible-no-good-idea/
Datacenters in space aren't going to work | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=46087616
・宇宙空間は冷却に適しているとは限らない
宇宙は極低温環境であるため冷却に向いているというイメージが広く共有されています。しかし、マッキンリー氏はこの認識は物理的な条件を正確に反映していないと指摘。宇宙空間は真空であり、地上のデータセンターで一般的に用いられている空冷や水冷は利用できず、発生した熱を逃がす手段は赤外線として放射する放射冷却に限られるそうです。
この方法は空気や液体を使った冷却と比べて効率が低く、大量の熱を処理するには広い放熱面積が必要になります。実際に国際宇宙ステーション(ISS)では、比較的限られた発電量で運用されているにもかかわらず折りたたみ式のパネルを展開する形で全長十数メートルに及ぶ大規模な放熱ラジエーターが設置されており、マッキンリー氏は「データセンターのように発熱量の大きい設備を想定した場合、冷却構造そのものが設計上の大きな制約になり、システム全体の成立性に影響を及ぼす可能性がある」と主張。

ソーシャルニュースサイトのHacker Newsでも、宇宙での冷却に関して「宇宙空間で冷却できるという考えは、サーモスの中にパソコンを入れて冷やそうとするようなもので、熱が放射される場所がないため意味を成さない」と、同様の懸念を示す投稿がありました。
・電力供給と打ち上げコストの問題
宇宙では太陽光を安定して利用できるとされることがありますが、マッキンリー氏は「太陽光を安定して利用できることがそのままコスト面の優位性につながるわけではない」と説明しています。宇宙用の太陽電池は高価であり、放射線環境による劣化も考慮する必要があるのに加えて、発電設備や計算機、冷却装置を含むすべての機器はロケットで打ち上げる必要があるため重量の増加は直接的なコスト増につながるとのこと。結果として、データセンターが必要とする電力量を宇宙で賄う場合には、地上の同規模施設よりも高コストになる可能性が高いとされています。

この点について「実際にうまくいかない理由は、そもそも真剣な計画ではなく、投資家向けの構想に過ぎないからだ」と、構想そのものを経済合理性の観点から疑問視する声も見られました。
・宇宙環境での運用と保守の難しさ
マッキンリー氏は、データセンターが「故障を前提として運用されるインフラ」である点にも言及しています。地上では故障した部品の交換や設備更新が日常的に行われていますが、宇宙空間で同様の対応を行うことは容易ではありません。人間による作業は高いリスクを伴い、無人で修理や交換を行うためには高度な自律技術が求められます。
さらに、宇宙空間では放射線環境そのものが電子機器の信頼性に影響を与える要因となります。地球周辺にはヴァン・アレン放射帯と呼ばれる高エネルギー粒子の集中領域が存在しており、人工衛星や宇宙機の電子機器は誤動作や劣化を引き起こす放射線の影響を前提とした設計が求められるそうです。マッキンリー氏は、「このような環境下で高密度な計算機を長期間安定して運用すること自体が大きな技術的課題になる」と指摘しています。

「大量のサーバーを衛星に配置するには、発電設備や故障時の定期メンテナンスを軌道に打ち上げる必要があり、そのためには追加の施設や燃料など大きなリソースが必要になる」という意見が投稿されました。
・通信インフラという制約
通信面の制約も、宇宙データセンター構想における重要な課題とされています。地上のデータセンターは高速な光ファイバー網に直接接続されていますが、宇宙に設置する場合には地上のような光ファイバーなどの物理的な線ではなく、地上局と人工衛星を電波で結ぶ衛星通信(衛星リンク)に依存する形になるとのこと。地上では数百メートルから数キロメートルで済む通信経路が、宇宙では地上局と軌道上設備の往復を伴うため、物理的な距離そのものが遅延として現れます。

衛星通信は帯域や遅延の面で制約があり、大量のデータを低遅延でやり取りする用途には適していません。計算処理だけでなく入出力も重要な役割を担うデータセンターにとって、通信性能はシステム全体の実用性を左右する要素といえます。
こうしたマッキンリー氏の見解に対して、HackerNewsのコメント欄では「宇宙は冷却に向いている」という前提そのものへの疑問や、軌道上での保守や電力供給を含めた運用負担の大きさを指摘する声が多く見られました。一方で、将来的な技術革新やコスト構造の変化を前提に、条件付きで可能性を検討すべきだとする意見もあり、構想そのものが完全に否定されているわけではありません。宇宙データセンターは注目を集めるアイデアである一方、実用的な計算インフラとして成立させるには多くの課題が残されていると受け止められているようです。
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