サイエンス

リチウムイオンバッテリーの性能を飛躍的に進歩させる新技術が実用化、早くも最新ウェアラブルトラッカーに搭載される


スマートフォンや電気自動車などに使用されているリチウムイオンバッテリーの性能を飛躍的に向上させる技術を、テスラの元従業員が立ちあげたシリコンバレーのスタートアップ・Sila Nanotechnologiesが実用化しました。新たな手法で製造されたバッテリーは、早くもWHOOPのウェアラブルトラッカーに搭載されることが報じられています。

One small new battery, one giant leap for our energy future - Sila Nanotechnologies
https://silanano.com/news/one-small-new-battery-one-giant-leap-for-our-energy-future/


Sila Nanotechnologies’ battery technology will launch in Whoop wearables | TechCrunch
https://techcrunch.com/2021/09/08/sila-nanotechnologiess-first-next-gen-battery-will-launch-in-whoop-wearables/

Whoop’s new fitness tracker is better thanks to a battery breakthrough - The Verge
https://www.theverge.com/2021/9/8/22662979/whoop-fitness-tracker-sila-silicon-anode-battery-electric-cars

2021年9月8日にWHOOPが発表した新型ウェアラブルデバイスの「WHOOP 4.0」は、手首に装着して24時間ユーザーの健康状態を測定するフィットネストラッカーです。パルスオキシメーターや皮膚温度センサーなどの新機能を搭載し、5日間充電せずに使い続けられるにもかかわらず、前世代モデルのWHOOP 3.0より33%の小型化を達成しているとのこと。

WHOOP 4.0が小型化に成功した最も大きな理由の1つが、搭載されているリチウムイオンバッテリーの性能向上です。新たなリチウムイオンバッテリーに使用されている新技術は、テスラの元従業員であるジーン・バーディチェフスキー氏が2011年に設立したスタートアップ・Sila Nanotechnologiesによって開発されたもの。Sila Nanotechnologiesは公式サイトで、「パートナーであるWHOOPと協力して、私たちはSilaの科学を搭載した世界初の製品を発表しました」と発表しています。


Sila Nanotechnologiesが開発した手法は、「バッテリーの負極(アノード)の材料に黒鉛(グラファイト)ではなくシリコンを使う」というもの。この変更によってリチウムイオンバッテリーのエネルギー密度が最大20%高くなり、従来と同じサイズのバッテリーでより多くのタスクを実行したり、バッテリーの性能を落とさずにバッテリーを小型化したりできます。

しかし、大小さまざまな企業がシリコン製アノードに着目していたものの、実際に適切な材料を開発することは非常に困難だったそうです。また、バーディチェフスキー氏は新たなバッテリー材料が「広く利用可能であり、量産化できるもの」にすることを目標としていたため、想定の2倍近い年月を研究開発に費やすことになったとのこと。それでも、Sila Nanotechnologiesが取った戦略は他のスタートアップとの差別化につながったとバーディチェフスキー氏は指摘。「クリエイティブな人々はこれらの本当に難しい問題を愛しているため、この点が私たちを他の多くのスタートアップと区別しているのだと思います。最も難しい問題を解決すれば、競争が少なくなります」と述べています。


また、Sila Nanotechnologiesは自社でリチウムイオンバッテリーを製造するのではなく、あくまで「バッテリーの材料」を製造する企業であるため、バッテリー自体の製造は他のメーカーが行います。その点を考慮して、新たな材料は従来と同じリチウムイオンバッテリーの製造プロセスに適用可能であり、追加の設備投資がいらないことはバッテリーメーカーに対する大きなセールスポイントになっているそうです。

バーディチェフスキー氏はSila Nanotechnologiesを設立した際、自社の技術が最初に搭載されるのはスマートフォンだと考えていたそうですが、研究開発を行っている間にウェアラブルデバイスがブームとなり、新たな扉が開かれました。WHOOPは2019年頃からSila Nanotechnologiesと話し始めていたそうで、すぐにWHOOP以外の消費者向けデバイスにも新たなリチウムイオンバッテリーが搭載されるとのこと。「サイズが非常に重要な革新的テクノロジーは、私たちのようなテクノロジーを開発する企業にとって非常に素晴らしいものです」とバーディチェフスキー氏は述べました。


WHOOPに搭載されるシリコン製アノードは小さなものですが、Sila Nanotechnologiesは最初から量産化を見据えた技術を開発していたため、将来的に電気自動車などに搭載される巨大なリチウムイオンバッテリーにも、自社のシリコン製アノードを使用できるとしています。Sila Nanotechnologiesは2021年1月に5億9000万ドル(約650億円)の資金調達に成功しており、この資金で生産能力のスケールアップを行うことにより、相対的なコストも下げられるとのこと。

既にSila Nanotechnologiesは2回のスケールアップを行っており、当初は1リットルのリアクターでシリコン製アノードを製造していたのが、記事作成時点では5000リットルのリアクターになっているそうです。バーディチェフスキー氏は、「現在の私たちが車のリチウムイオンバッテリー向けの材料を製造していない理由は、実際に車に配備する十分な量を作れるようになるには、さらに100倍のスケールアップが必要だからです。しかし、材料は同じです」と述べ、今後数年間で自動車産業に材料を提供できるようになると主張しました。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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