これまで見つかったすべての新型コロナウイルスや未知のコロナウイルスを中和できるかもしれない抗体とは?
新型コロナウイルスワクチンが複数開発され、少しずつではあるものの、新型コロナウイルスの拡散に人類は歯止めをかけようとしています。しかし、新型コロナウイルスを完全に食い止めるにはワクチンの接種だけではなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重篤化を防ぐような治療法も求められます。ローレンス・バークレー国立研究所の研究チームが、既知の新型コロナウイルス株やその他のコロナウイルスをすべて中和できる可能性がある抗体を発見したと発表しています。
SARS-CoV-2 RBD antibodies that maximize breadth and resistance to escape | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03807-6
Berkeley Lab participates to develop COVID-19 antibody therapy
https://www.dailycal.org/2021/08/18/berkeley-lab-participates-to-develop-covid-19-antibody-therapy/
“Inescapable” COVID-19 Antibody Discovery – Neutralizes All Known SARS-CoV-2 Strains
https://scitechdaily.com/inescapable-covid-19-antibody-discovery-neutralizes-all-known-sars-cov-2-strains/
新型コロナウイルスの軽症から中等症の患者を対象に、重症化予防のために行われている治療法の1つが「抗体療法」です。これは新型コロナウイルスの持つスパイクタンパク質を認識し、ウイルスを中和する作用を持つ抗体を投与することで、新型コロナウイルスの体内増殖を抑制するというものです。また、複数の抗体を同時に投与する「抗体カクテル療法」も行われています。
新型コロナウイルスに対する抗体薬剤は1年以上にわたる研究の結果、アメリカでは記事作成時点で3つの薬剤が、アメリカ食品医薬品局(FDA)による緊急承認を得ています。その3つのうちで最新の抗体薬剤であるソトロビマブは、グラクソ・スミスクラインとVir Biotechnologyが開発したもので、2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)患者の血液から発見された「S309」と呼ばれる抗体に由来しています。開発チームが軽度から中等度のCOVID-19感染者にソトロビマブを投与したところ、対照群と比較して重症化や死亡の割合が85%減少したことが確認され、5月下旬にFDAから緊急承認が下りました。
そして研究チームは実験の結果から、S309に加えて、これまでの抗体療法では中和できなかった新たな変異体を含む既知の新型コロナウイルスをすべて中和し、さらに近縁のウイルスも中和できるかもしれない抗体を発見したと主張しています。
ローレンス・バークレー国立研究所のAdvanced Light Source(ALS)の分子生物学コンソーシアムのリーダーであるジェイ・ニックス氏は、研究の初期段階において、ALSのビームラインとスタンフォード大学のStanford Synchrotron Radiation Lightsourceのビームラインを使って、新型コロナウイルスの抗体のX線結晶構造解析を行いました。その結果、これらの抗体が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質とどのように結合するかを示す詳細な構造マップを作成することに成功しました。
新型コロナウイルスはコウモリから人間に感染したことがきっかけである可能性が高いといわれており、将来にも動物から人間に感染が広がることで新たな病原性のコロナウイルスが出現する可能性があります。研究チームはそのことを把握した上で、少しずつ性質を変えて免疫から逃れようとするウイルスに対して、抗体がどうやって抵抗力を持つのか、そして特定の抗体がどのようにして関連する多様なウイルスに対して広く反応できるのかを探求しました。
その結果、研究チームは生化学的および構造的解析、詳細な変異スキャン、結合実験を用いて、新型コロナウイルスのさまざまな株に強い効力を持つ抗体「S2H97」を同定しました。ニックス氏は「S2H97は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質でこれまで知られていなかった領域に結合することがわかりました。また、新型コロナウイルスを含む『サルベコウイルス亜属』のウイルスをすべて中和するようです。加えてウイルスの変異しにくい部分に結合部位を持つため、今後流行し得るSARS関連コロナウイルスにも対応できる可能性があります」と述べています。
さらに、その後のハムスターを用いた実験で、S2H97を予防的に投与すれば、COVID-19の感染を防ぐことも可能であることが示唆されました。また、S2H97は感染およびワクチンによる抗体とはほとんど競合しないことも判明しました。
ただし、実験は2021年に入って猛威を振るう新型コロナウイルスのデルタ株が世界的に流行する前に行われたので、S2H97がデルタ株に対して直接効果を持つかどうかは確認されていません。それでも、S2H97がデルタ株の特徴的な変異であるT478KやL452Rに対しても有効であることは確認されています。
研究チームの1人で、フレッドハッチンソンがん研究センターのポスドクであるタイラー・スター氏は「大局的に見れば、さまざまな株に広く反応する抗体を特定することは、将来的に人間に波及する可能性のあるSARS関連コロナウイルス系統に対する免疫をあらかじめ付与できる抗体治療薬やワクチンを開発する上で重要です」とコメントしました。
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