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「大型トラックと乗用車の事故」がアメリカ郊外で爆発的に急増した裏でうごめいていた陰謀とは?


2010年代半ば、アメリカ南部にあるルイジアナ州ニューオーリンズで、異常な数の18輪トラックと乗用車との接触事故が起きるようになりました。この背景には犯罪グループや貧困が絡む陰謀があったとして、週刊誌のThe New Yorkerが事件の経緯についてまとめました。

New Orleans’s Car-Crash Conspiracy | The New Yorker
https://www.newyorker.com/magazine/2026/04/20/the-car-crash-conspiracy

2015年頃、「ニューオーリンズ・イースト」と呼ばれる郊外地域を通る州間高速道路10号線のわずか約14マイル(約22.5km)の区間で、18輪トラックが関わる自動車との接触事故が急増しました。ニューオーリンズで大型トラックと自動車がぶつかる事故件数は、2004年には年間69件でしたが、2017年までに事故件数は約3倍に達したとのこと。

ニューオーリンズ・イーストで起きた大型トラックと乗用車の事故では、多くの場合で乗用車が損傷し、負傷を訴える乗員が医療処置を受けることとなりました。保険会社の調査員が事故現場を調べても、照明の不具合や急な勾配といった事故原因になり得るものは見つからず、トラック運転手にとってこの地域は「アスファルトのバミューダ・トライアングル」と化していました。

また不可解な点として、この地域で起きた事故のほとんどでは乗用車の方に複数人が乗っていたことが挙げられます。ルイジアナ州では長年にわたり、自動車事故における乗客の平均人数は約1.4人で安定していましたが、ニューオーリンズ郊外で大型トラックと乗用車の事故が多発し始めると、乗車の平均人数は3人を超えたそうです。


2017年5月のある日、リー・マリガン氏という大型トラックの運転手が州間高速道路10号線を走行している最中、車線を移ろうとしてウインカーを出しました。しかし、ミラーを確認したところ中央車線にいる日産・アルティマがかなり接近していたため、マリガン氏はウインカーを消してアルティマをやり過ごすことにしました。

マリガン氏はアルティマが後退したのを確認して再びウインカーを点灯し、ゆっくりと中央車線に移ろうとしました。ところが、このタイミングでミラーを確認するとトラックのすぐ後ろにアルティマが接近しており、アルティマの前部がマリガン氏のトラックに衝突してしまいました。幸いにもアルティマの運転手は車両のコントロールを失わず、路肩に停車することができたとのこと。


アルティマの運転手はデメトラ・ヘンダーソン=バークホルターという49歳の黒人女性で、グレゴリー・オフレイという男性とジャクリーン・トンプソンという女性が同乗していたほか、通りかかった運転手が「事故を目撃した」と言って警察に通報しました。ヘンダーソン=バークホルターとトンプソンは重傷を負ったと報告し、マリガン氏と荷主のウォルマートに対して訴訟を起こしました。訴訟では、2人は「マリガン氏が警告もなくいきなり進路に割り込んできた」と主張し、目撃者もこれを裏付ける証言を行いました。

一見するとただの交通事故のようですが、マリガン氏は自分のトラックが車線変更を始めた時にアルティマが減速せず、むしろ加速して突っ込んできたように感じたとのこと。そこで被告側が雇ったウェイン・ウィンクラー氏という元警察官のコンサルタントが調査した結果、この事故は過去18カ月間にニューオーリンズ・イーストで起きた交通事故と多くの類似点があることが判明。「車線変更中の大型トラックに後ろから乗用車が接触した」「別の車に乗っていた目撃者がいた」「ぶつかった車には必ず複数人が乗っていた」といった類似点がある事故が、なんと64件も見つかったそうです。

さらに調査を進めると、アルティマに乗っていたトンプソンは数十人の親族からなる「ハリス家」の一員であり、トンプソン以外にもハリス家の複数人が大型トラックとの衝突事故で被害者となっていることがわかりました。自動車修理工場のオーナーであるライアン・ハリス(レッド・ハリス)という男は、トラックとの衝突事故で訴訟を起こした多くの人々やその家族と連絡を取っていました。

そして、アルティマを運転したヘンダーソン=バークホルターは、ニューオーリンズ在住のコーネリアス・ギャリソン3世という男とも合計30回近く連絡を取っており、衝突前後で10回以上も電話していました。ギャリソンはレッド・ハリスやその他のハリス一家の人々、他の大型トラックとの衝突事故に関わった人々とも連絡を取っていたほか、2015年には自らがトラックとの衝突事故の原告になっており、2014年にはトラックとの衝突事故の目撃者にもなっていました。後にこれらの記録を調査した弁護士は、ギャリソンが「これらすべての事件の原告をつなぐハブ」になっていたと記しています。


ニューオーリンズで交通事故を専門とする一部の弁護士は、長年にわたり「ランナー」という非公式の勧誘業者と関係を持っていました。ランナーは警察無線を傍受したりレッカー会社と親密になったりして、いち早く交通事故の情報を仕入れては原告と接触し、法律事務所に紹介しては仲介手数料を得ているとのこと。1966年生まれのギャリソンも、レストランの料理人や観光ホテルの靴磨きといった仕事を経て、ランナーとして働いていました。

ある日、ギャリソンはジェフリー・デルーセルという男から、「故意に大型トラックに自動車をぶつけて保険金を受け取る詐欺」について学びました。当然ながら大型トラックとの事故は重傷や死亡の確率が高いものの、平均的な乗用車が加入している保険は負傷者1人当たり1万5000ドル(約240万円)ほどしか補償できないのに対し、大型トラックは最大100万ドル(約1億6000万円)の保険に加入していることから、リスクも大きい分リターンも大きいというわけです。

ニューオーリンズでは、トラックとの交通事故を装う詐欺業者は「スラマー」と呼ばれており、2010年頃には「保険金の一部を報酬として得る代わりに事故を起こす車に同乗する地域住民」を探す人物もいたとのこと。2015年の時点でギャリソンはデルーセルと手を組み、ジェイソン・ジャイルズという弁護士と連携して、紹介した原告1人につき1300ドル(約21万円)の報酬を得ていました。

住民の約4分の1が貧困層に属するニューオーリンズでは、金銭のために命の危険すらいとわない地元住民を見つけるのは簡単でした。The New Yorkerは、「数時間の仕事で大金が手に入るという見込みは、高速事故に巻き込まれる可能性のある車に乗る恐怖を明らかに上回りました」と記しています。

ギャリソンは仲介者として優秀だっただけでなく、事故を偽装するドライバーとしても非常に高い技能を持っていました。18輪の大型トラックとぶつかる地点をほんの少しでも見誤ったり、加速する際に少しでもアクセルを踏みすぎたり全員が死ぬリスクもありましたが、ギャリソンは注意深く標的のトラックを追跡して事故を起こしたとのこと。数年間でギャリソンは数多くのトラック事故を仕組みましたが、奇跡的に重傷を負ったり死亡したりする人はいませんでした。

また、ギャリソンは「スポッター」という2台目の車とも連携し、中立的な目撃者として訴訟を助けさせていました。ギャリソンはトラックとの接触後に乗用車を降りてスポッターの車に乗り換え、別の乗員が乗用車を運転していたということに仕立て上げたそうです。このシステムにより、ギャリソンが繰り返し事故を起こしたという記録は残らず、長年にわたり詐欺を働き続けられたというわけです。


2016年にデルーセルが無関係の理由で射殺されると、ギャリソンは法科大学院を卒業したばかりの若い弁護士であるヴァネッサ・モッタと手を組みました。モッタはハリウッドの元スタントダブルという経歴を持つ人物で、ニューオーリンズ郊外にあるケナーという都市で法律事務所を構えていました。

この法律事務所の大家であるショーン・アルフォーティッシュは元弁護士で、資金の横領によって弁護士資格を剥奪された経歴の持ち主ですが、モッタは14歳年上のアルフォーティッシュと恋仲になりました。以前からギャリソンと手を組んでスラマーを行っていたアルフォーティッシュは、モッタにトラック運送会社や保険会社を相手取る訴訟を起こさせるようになり、すぐに2人の年収は新米弁護士としては破格の数百万ドル(約数億円)に跳ね上がったとのこと。

長らくギャリソンやモッタたちの陰謀が露見しなかった理由としては、ニューオーリンズの陪審員は労働者階級の地元住民に同情的で、顔の見えない大企業に対して厳しい罰金を科しがちだという司法の問題が挙げられます。同じ道路であまりにも頻繁に事故が起こることから、運送会社もやがてニューオーリンズで起きている大規模な詐欺に気が付き始めました。しかし、訴訟に反論して陪審員裁判になるとさらにひどい事態になる危険性があるため、ある程度の和解金を支払って決着することが多かったそうです。

しかし、2018年には運送会社や弁護士も詐欺を見過ごせなくなって証拠収集を始め、2019年1月にはその情報がFBIの手に渡りました。同年10月に別の容疑で地元警察に逮捕されたギャリソンは、FBIとの交渉で捜査に協力することを約束してさまざまな情報を提供しました。ギャリソンは実際に事故に関わる貧困層の住民らと弁護士を取り持つハブであり、FBIの盗聴器を付けたままアルフォーティッシュと会話するなどの捜査協力も行いました。

やがて捜査の手が及んだことを知ったモッタとアルフォーティッシュは、ギャリソンがすべての罪をかぶるなら50万ドル(約8000万円)の報酬を支払うと持ちかけましたがギャリソンはこれを拒否。2020年9月にはギャリソンが起訴され、起訴状の中でアルフォーティッシュは「共謀者A」、モッタは「弁護士B」と記されました。この訴状ではギャリソンがFBIに協力していたことは隠されていましたが、文書を詳しく読めばギャリソンが協力していたことがわかったとのこと。

起訴状が公開されてから4日後、ギャリソンは母親のマンションで夕食を取っていたところ、家を訪れた何者かによって10発もの弾丸を撃ち込まれて射殺されました。最終的に、アルフォーティッシュがかつてギャリソンと手を組んでいたレッド・ハリスに殺害を依頼し、ハリスの母親と恋愛関係にあったレオン・パーカーという人物が殺害を実行したことが判明。アルフォーティッシュとパーカーはハリスの自動車工場で面会し、ギャリソン殺害に対して報酬を支払うことを申し出たことがわかりました。


2024年12月にはアルフォーティッシュとモッタが詐欺で起訴され、アルフォーティッシュは収監されました。2025年時点で58歳のアルフォーティッシュは過去にも重罪で有罪判決を受けていることに加え、ギャリソン殺害の共謀者としても罪に問われていることから、今後の人生を刑務所で過ごす可能性が高いだろうとThe New Yorkerは述べています。

また、2023年にアルフォーティッシュとの子どもを産んだモッタは長らく保釈されていましたが、2026年3月の裁判では詐欺・司法妨害・証人の脅迫といった罪で有罪となって直ちに拘留されました。モッタには最長で禁錮20年の刑が下される可能性があるとのことです。

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in メモ,   乗り物, Posted by log1h_ik

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