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国際的なロマンス詐欺集団で働いていた元詐欺師が組織の人員補充手口や詐欺手法について語る


中国語で殺猪盤、日本語で「豚殺し」などと呼ばれる形態の詐欺は、被害者と長期的に信頼関係を築いてから金銭を巻き上げる手口を豚の肥育になぞらえた国際的なサイバー犯罪です。中国のマフィアに監禁され、世界中の人々に対する豚殺しを強要されていたというエチオピア人男性の証言を、The Wall Street Journalが報じました。

Posing as ‘Alicia,’ This Man Scammed Hundreds Online. He Was Also a Victim.
https://www.wsj.com/world/asia/cyberscams-human-trafficking-forced-labor-ba2c6c1a

The Wall Street Journalの取材に応じた元「豚殺し詐欺」の元詐欺師のGuracha Belachew Bersha氏、通称ビリーは、エチオピア出身の41歳のIT技術者です。

ビリーはミャンマーにある犯罪地帯で監禁され、シンガポールに住むアリシアという名の裕福な女性として、主に東南アジアや中東の男性らを誘惑し、偽の投資に資金をつぎ込ませてだまし取る豚殺し詐欺を16カ月間にわたって強要されていたとのこと。


家族が7000ドル(約100万円)の身代金を工面したことで、豚殺し詐欺グループから解放されたビリーは、自分が受けた身体的な拷問よりも人生を台無しにされた被害者の顔がトラウマになっていると話します。

例えば、ビリーの被害者となったあるパキスタン人男性には、妻と4人の子どもが居ましたが、ビリーが演じるアリシアに夢中になり、長々とした愛のポエムを書いて送ってきていたとのこと。しかし、用済みになってビリーが返信をしなくなると、その男性は自分の顔に酸をかける動画を送ってきました。


そのことをビリーは「死ぬまで忘れられない」と述懐しました。

7人兄弟の次男として貧しい家庭に生まれたビリーは、エチオピアの都市のハワッサでコンピューターサイエンスを学び、中国の成都の大学でオートメーションエンジニアリングの修士号を取得しました。

母語であるアムハラ語に加えて英語と北京語に堪能なビリーは、卒業後に成都に残って働いていましたが、ある時Huilong Networkというフィンテック企業の仕事を紹介されました。

ビリーがだまされたHuilong Networkの書類。


その時は何も疑問を持たなかったビリーは、中国語と英語で話す男性とバーチャル面談をし、月給1500ドル(約23万円)で7カ月働く契約を結び、タイのバンコクへと渡りました。そこで手厚い日当を受け取り、高級ホテルで2日ほど過ごしたビリーは、運転手に迎えられてほかの3人の被害者とともにタイとミャンマーとの国境にあるメーソットという町に向かいました。

8時間の旅の後、運転手はビリーたちをゲストハウスにチェックインさせ、スタッフがパスポートを回収しました。そして、真夜中になって運転手が「時間だ」と告げたとき、ビリーは何かおかしいと気づきました。移動中、ビリーは携帯電話で国境を越えつつあることに気づきましたが、その時にはもう後戻りできなくなっていたとのこと。

それから程なくして、ビリーはミャンマーにある大規模な詐欺団地であるKK園区に到着し、新しい担当者からビリーらがだまされたことと、本当の仕事はマーケティングのスペシャリストではなく詐欺師であることを告げられました。

初日は働くことを拒否したビリーでしたが、次の日には看守に立てなくなるまで殴られ、やむなく詐欺を働くことになりました。しかし成果を出すことができず、ラオスに売られた後、ミャンマー・シュエコッコの亜太ニューシティにあるマウンテンビューという施設に入れられることになりました。

KK園区の建物。


そこでの上司は、ほかの2カ所と同じく中国人で、経営陣やビリーのような詐欺師を含めた100人が働いていたとのこと。そのうち半分は中国人、3分の1はエチオピア人で、残りはウガンダ人だったとビリーは振り返っています。

施設に連れてこられたビリーは、アリシアの偽プロフィールや詐欺の手口を詳細に記したマニュアルを暗記するよう指示され、会話を誘導する訓練を受けました。そして、WhatsAppやTelegramが使える携帯電話と、アリシアの写真などが入ったノートPCを支給され、被害者をだますよう強要されました。

ビリーがだました相手は裕福な金持ちから貧しい人までさまざまで、被害者の中にはパキスタンの地方に住むヤギ農家もいました。その男性は、アリシアが自分を金持ちにしてくれると信じて280ドル(約4万3000円)の有り金を偽の投資につぎ込みましたが、男性の元に残ったのは小さな家とヤギの群れだけだったとのことです。

家族が7000ドルを工面したことで豚殺し詐欺から解放され、エチオピアに強制送還されたビリーですが、工場を売り払った父親に合わせる顔がなく、実家には帰れないと話しています。また、1年以上の空白期間に何をしていたか話せないため、働き口を探すのにも難航しています。

The Wall Street Journalは、中国のマフィアにだまされた詐欺師が1カ所に集められ、大規模で国際的な詐欺を働いているという犯罪シンジケートの実態について、「舞台裏では詐欺師もまた被害者でした」と指摘しています。

また、拷問を受けた体の傷や、多くの被害者をだましてきたトラウマが癒えていないというビリーはThe Wall Street Journalに、「まだ心が前向きにならず、心を癒やす時間が必要なので、キャンプにでも行こうと思っています。1~2カ月か、ひょっとすると3カ月でも」と話しました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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