From Industrial-Scale Scam Centers, Trafficking Victims Are Being Forced to Steal Billions
https://www.vice.com/en/article/n7zb5d/pig-butchering-scam-cambodia-trafficking
「豚殺し」を意味する中国語「殺豬盤」は、2017年ごろから用いられるようになった言葉で、中国では2019年4月までに876名の被害者が出ており、被害総額は2億元(約40億円)以上にのぼります。
詐欺のプロセスを「豚を育てて殺す」様子に見立てて「豚殺し」と呼ばれているもので、そのステップは以下のような感じ。
1:詐欺師がSNSアカウントで自分自身を「猪圏(豚舎)」として作り上げる
2:SNSで被害者を探す(「選猪」)
3:被害者との信頼を深める(「養猪」)
4:被害者を投資などの偽プロジェクトに誘いこみ、参加するよう説得する
5:被害者にわずかな見返りを与えたのち、大金を投資させた上で持ち逃げする(「殺猪」)
産業化した「豚殺し」の複雑な点は、この「詐欺師」が単独で活動するわけではなく巨大組織の中の一員で、しかも何らかの形で集められ強制労働させられている人々であるという点です。
「豚殺し」被害者の支援・組織化・代弁を行う非営利組織・Global Anti-Scam Organization(GASO)の創設者であるジェスさんも、「豚殺し」犠牲者の1人。シンガポール出身の30代女性であるジェスさんは出会い系アプリ「Tinder」でマッチングした男によって「豚殺し」の被害に遭い、1万6000ドル(約220万円)を失いました。
しかし、「私は好奇心旺盛で、誰が私を詐欺にかけたのかを知りたいのです。私が欲しいものを手に入れるまで、答えを得るまで、食い下がります」というジェスさんは、詐欺師と連絡を取って、より率直な関係を築き、「豚殺し」の仕組みを学んでいきました。GASOには、同じように「答えを求める」ボランティアが80名集まり、「豚殺し」に立ち向かっているとのこと。
テネシー州出身のブライアンさん(46歳)はLinkedInを経由したビジネス話で19万ドル(約2600万円)を失ってGASOに参加した人物。GASOのボランティアは6割が女性で、ほとんどが大卒という「豚殺し」被害者のプロファイルに合致する構成ですが、ブライアンさんはビジネス修士号を2つ持ち、複数の企業を経営していて、プロファイルとは合いません。しかし、その能力を「豚殺し」解決に向けることで、暗号ウォレットのアドレス追跡から、カンボジアの大手マネーロンダラーを突き止めました。さらに、被害者役、詐欺師役の両方を装ったり、逃げようとする詐欺師を「転向」させたりして、情報を聞き出しているそうです。
こうしてブライアンさんが接触した「豚殺し」組織の一員は、「逃げるのを手伝ってくれませんか、バレたら殺されてしまう」と言いつつ、アジトの写真や映像を送ってくれるので、GASOは内部情報を大使館や地元警察と共有し、人身売買された被害者の救出を支援しているとのこと。
「豚殺し」の正確な被害額はわからないものの、GASOが相手取るシンジケートは単独で1652人から合計2億8500万ドル(約392億5000万円)以上、つまり被害者1人あたり17万3000ドル(約2383万円)を巻き上げているそうです。
人身売買・強制労働被害者のために活動しているNGOの情報によると、カンボジアの「詐欺センター」には推計で数万人がいるとのこと。この詐欺センターからは2022年の数カ月だけでタイ人800人が救出されていて、なおも1000人が拘束されていることがタイ警察から発表されています。さらに、ベトナム人労働者からは、300人の同胞が高層のオフィスビルに拘束されているという証言が出ています。
マレーシア出身のブライス・タン氏は、カンボジア訪問時に求人サイトの審査に通っていた月給1万2000リンギット(約37万4000円)という仕事に応募したところ、「ビクトリー・パラダイス・リゾート・アンド・カジノ」というリゾートに連れて行かれてパスポートを没収され、求人内容とはまったく異なる「ネット上で見知らぬ人と親密になる仕事」をすることになったそうです。タン氏はなんとか3週間で施設を脱出できたそうですが、7000人ほどが「働いていた」と証言しました。
なおカンボジアでも、同様の詐欺センターがあるというラオスやミャンマーでも、時折強制捜査があるものの、運営は平然と行われていて、まったく打撃を与えるには至っていません。