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AIによる人員削減のせいで市場が壊滅して民主主義体制が揺らぐ「死んだ経済理論」とは?


AIテクノロジーの発達によりさまざまなタスクをAIが実行できるようになり、企業は人間の従業員をAIシステムに置き換えようと躍起になっています。哲学やテクノロジーに関するブログを書いているオーウェン・マクグラン氏が、AIによる人員削減がもたらす社会経済の問題を「死んだ経済理論」と名付け、起こり得る問題について指摘しました。

[2603.20617] The AI Layoff Trap
https://arxiv.org/abs/2603.20617

The Dead Economy Theory - by Owen McGrann - The Palimpsest
https://www.owenmcgrann.com/p/the-dead-economy-theory

OpenAI・Anthropic・Google・Meta・Microsoftなどによる大規模AIインフラへの投資総額は数千億ドル(数十兆円)に達し、今後10年間で数兆ドル(数百兆円)に達すると予測されています。OpenAIの評価額は8000億ドル(約12兆7000億円)を超えており、Anthropicは一度も黒字を達成したことがないにもかかわらず1兆ドル(約160兆円)近い評価額となっています。これらの投資を正当化するには十分な規模の市場が必要であり、それは今日の労働市場だとマクグラン氏は指摘しています。


多くのホワイトカラー労働者はAIの効率的な使い方を模索し、自分の労働を効率化しようと試行錯誤しています。しかし、AI開発企業が投資家に売り込んでいるのは「このAIエージェントでアナリスト10人の仕事をこなせる」といった風に、労働者を根本的にAIで置き換えて人員を削減することです。

マクグラン氏は、「AIの根底にある財務モデルは、文明規模での人的コストセンターの排除を必要としています。それが実現しなければ、これらの企業は資本主義史上最も過大評価された資産となります。小切手を切る人々はより優れたオートコンプリート機能や、誰も読まない長文メモの際限ない増加のために、何兆ドルもの資金を無駄に使う習慣はありません」と述べています。

実際、AI企業は人間の労働者をAIで置き換え可能であることを証明するため、さまざまなベンチマークや調査結果を発表しています。OpenAIが考案した「GDPVal」というベンチマークは、弁護士・映画監督・機械エンジニア・不動産管理業者・ソフトウェア開発者・看護師・薬剤師といった専門職のタスクについて、AIがどれほどの性能を発揮できるのかを測定するものです。

AIの現実世界での能力を測定するベンチマーク「GDPval」をOpenAIが開発、弁護士や映画監督など現実の職業としての性能を測定可能 - GIGAZINE


OpenAIの責任者は2026年4月に日刊紙のニューヨーク・タイムズが発表した記事の中で、ほんの数カ月前はどのAIモデルも太刀打ちできなかったタスクにおいて、AIモデルが人間の専門家に対して80%以上の勝率を収めるようになってきたと語っています。仮にこの言葉を額面通りに受け入れた場合、世間では以下のような変化が生じるだろうとマクグラン氏は指摘しています。

1:企業による人員削減
企業が従業員の大部分をAIに置き換えてコストが大幅に削減され、利益率が増大して株価も上昇し、決算説明会に出席した全員が満足する。実際、2026年3月に複数の金融サービスを展開するBlockがAI活用を前提に従業員の4割を削減した際、市場は株価が一晩で25.6%も急騰するという反応を見せました。つまり、市場は人間の労働者の排除に対し、大規模な株価の上昇という形で報いたことになります。

2:労働者の解雇による消費低迷
AIに置き換えられて解雇された労働者は収入を失い、支出を控えるようになり、当然ながら労働者がこれまで使ってきた企業の売上は減少します。膨大な企業のうちAIによる人員削減を行ったのがほんのわずかであれば影響は小さいかもしれませんが、GDPvalで示されたようにAIエージェントが代替できる労働の範囲は広いため、影響は経済全体に広がる可能性があるとのこと。

3:市場の崩壊
自社の利益を求めて労働者を解雇した企業は、顧客の多くもまた「他社の従業員」であったことに気付きます。AIによる人員削減が市場全体で広がれば広がるほど消費は低迷し、収益の伸びも停滞します。結果的に、企業によるAIへの投資は市場の崩壊を招くことになります。

ペンシルベニア大学のビジネススクールであるウォートン・スクールのブレット・ヘメンウェイ・ファルク教授らは、「AI解雇のわな」という論文でこの力学について論じました。複数の企業が競い合う市場において、企業は労働者の削減による利益の上昇をすべて享受できる一方、結果として生じる需要の減少はごく一部しか負担しなくて済みます。そのため、「従業員を解雇してコストを削減する」ことのインセンティブが、「消費支出の減少」という悪影響を常に上回る状態であるため、どの企業も最適化を超えて自動化を進めてしまい、最終的に市場全体が崩壊するというわけです。


テクノロジー業界の楽観主義者たちは、「AIによって大量の労働者が失業したとしても、AI時代に適応した新しい仕事が登場するから問題ない」と主張しています。実際、アメリカではかつて労働者の90%が農業に従事していましたが、今日ではその割合が2%まで減少しています。また、マサチューセッツ工科大学のデイヴィッド・オーター教授は、今日の仕事の60%は1940年の時点では存在していなかったことを示しました

確かにこれらの事実は、効率化や自動化によって仕事が失われたとしても、やがて新しい仕事が登場することを示唆しています。しかし、農業人口の大幅な減少は140年という数世代にわたる期間を経て行われたものであり、ほんの数年で膨大な労働者がAIによって失業する現代の状況と合致したものではありません。また、オックスフォード大学のカール・ベネディクト・フライ教授は、産業革命によって職を失った労働者の賃金と雇用が回復するまでに70年かかったと記しています

産業革命によって労働者の賃金が低迷する間、企業が独占する利益は増大し、不平等が悪化して政治的に不安定な状況が生じました。フライ氏は、「ほとんどの経済学者は、技術進歩が短期的に何らかの調整問題を引き起こす可能性があることを認めるでしょう。しかし、あまり注目されていないのは、その『短期』が『一生』に及ぶ可能性があるということです」と述べました

2024年にノーベル経済学賞を受賞したダロン・アセモグル氏は、1987~2017年に新技術のせいで生じた雇用喪失効果は、生産性向上や再就職による効果をはるかに上回ったと結論付けており、新たな業務は労働者が仕事を失うスピードほど速くは登場しないことを示しました。さらに、これまでの自動化は「機織り機」や「表計算ソフト」など、さまざまな仕事のうち一部を置き換えるようなものでしたが、AIはあらゆる産業における認知的労働を同時に置き換える可能性を秘めています。


マクグラン氏はAIによる労働者の置き換えは経済だけでなく、民主主義体制にとっての政治的危機でもあると主張。民主主義体制は、統治者がさまざまな体制を整えて資源を分配するだけでなく、非統治者が労働力や税収、消費支出などを提供することで成り立っています。政府や公的な権力を持たない一般的な人々に提供できる価値があり、適度に権力が分散されているからこそ、民主主義というシステム全体が機能するとのこと。

しかし、ここから一般人が提供できる「労働力」が取り除かれ、税金を抑えることに慣れた少数の大企業が所有するAIシステムが価値を生み出すようになると、民主主義体制におけるあらゆる財務メカニズムは機能不全に陥ります。税基盤は縮小し、企業と労働者の団体交渉は形骸化し、労働所得による消費支出は大幅に減少します。

マクグラン氏はAIの導入による労働者の削減が引き起こす一連の問題について、「死んだ経済理論」と呼んでいます。マクグラン氏は、「死んだ経済とは何も起こらない経済ではありません。多くのことが起こるでしょうし、GDPは上昇する可能性さえあります。AI関連の投資がすでにそれを支えているのです。死んだ経済とは、多くのことが起こるがそのどれもがあなたを必要としない経済です。文明の生産能力が、あなたが何の利害関係も、意見も、投票権も持たないシステムによって奪われているのです」と述べました。

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in AI, Posted by log1h_ik

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