サイエンス

新しい肥満治療薬「レタトルチド」がGLP-1受容体作動薬の落とし穴を回避する方法とは?


近年はセマグルチド(オゼンピック)チルゼパチド(マンジャロ)といったGLP-1受容体作動薬が相次いで登場しており、多くの人々が薬の力を使って減量に成功しています。そんなGLP-1受容体作動薬が作用する仕組みや、製薬会社のイーライリリーが開発した新たなGLP-1受容体作動薬「レタトルチド」について、ライターのエリザベス・ヴァン・ノストランド氏がまとめました。

The Biochemical Beauty of Retatrutide: How GLP-1s Actually Work – Aceso Under Glass
https://acesounderglass.com/2025/10/13/the-biochemical-beauty-of-retatrutide-how-glp-1s-actually-work/

ノストランド氏はGLP-1受容体作動薬やレタトルチドについて説明する前に、まずは体内のエネルギー代謝やホルモンの作用について知る必要があるとしています。そもそも体内では、細胞小器官のミトコンドリアが糖(グルコース)や脂肪を取り込んで、細胞内の化学反応に用いられるアデノシン三リン酸(ATP)を産生しています。

グルコースはATPをとても速く産生できる望ましいエネルギー源であり、いざという時には酸素を使わなくてもATPを作れます。体は血糖値を一定に保つように働き、細胞が必要な時に血液からグルコースを取り込めるようにしているとのこと。しかし、貯蔵スペースを多く占有するほか、周囲のタンパク質と望ましくない反応を起こしがちといったデメリットもあります。


一方、余ったグルコースや摂取してすぐに燃焼されなかった脂肪は、体内の脂肪細胞に蓄積されます。脂肪はエネルギーに対する空間効率が高いため、長期的にエネルギーを貯蔵する方法として優れていますが、ATP産生に使える脂肪酸に分解されるまで時間がかかる点や、糖を脂肪に変換する過程で多くのエネルギーが失われるといった点はデメリットです。

ATP産生においてグルコースと脂肪の中間的な存在といえるのが、多数のグルコースが結合したグリコーゲンです。グリコーゲンは脂肪が脂肪酸を生成するよりも速くグルコースに分解されますが、そのままのグルコースよりも安定しています。

筋肉には激しい運動時に使えるようにグリコーゲン貯蔵庫があるほか、肝臓にも全身の血糖値を調節するためのグリコーゲンが貯蔵されており、血糖値が低くなると肝臓がグリコーゲンを分解し、グルコースを血中に放出しています。脂肪を再びエネルギーとして利用する過程はグリコーゲンの貯蔵・分解よりも効率や速度の面で不利なため、一般的に体は脂肪よりもグリコーゲンを優先的に消費するとのこと。


グルコース・脂肪・グリコーゲンといったエネルギーを管理しているのが、体内の複雑なホルモンネットワークです。血糖値が高い時はインスリンというホルモンが分泌され、筋肉細胞や脂肪細胞などが血液中のグルコースを取り込んで利用するように働きかけて血糖値を下げます。1型糖尿病患者はそもそもインスリンを分泌する能力が低い状態で、2型糖尿病患者はインスリン自体は分泌するものの、細胞がインスリンに反応しにくくなっている状態(インスリン抵抗性)です。

これに対し血糖値が低い時は、グルカゴンが肝臓に働きかけてグリコーゲンを分解させ、グルコースを血中に放出して血糖値を上昇させます。グルカゴンには脂肪の分解を促したり、ストレスホルモンとして知られるコルチゾールの分泌を促したりする作用もあります。コルチゾールは血糖値とエネルギーレベルを増加させる一方で、脂肪の蓄積や筋肉の分解を促したり、インスリン抵抗性を高めたりする効果を持つとのこと。

そしてグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)は脳に「食事をしている」と伝えるホルモンの一種であり、腸内にカロリーが存在したり、これから食事をすると認識したりすることで分泌されます。GLP-1は食欲とグルカゴンを抑制する一方、インスリンを増加させて腸内における食物移動を遅らせる作用があります。また、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)というホルモンも、腸内のカロリーによって分泌が促進されます。GIPはインスリン感受性を高めるとともに、脂肪の蓄積を促します。

これらのホルモンはそれ自体がさまざまな作用を引き起こすのではなく、特定の「ホルモン受容体」を活性化することで作用します。ホルモンと受容体の関係は「鍵と錠前」のようなもので、ホルモンという鍵が受容体という錠前を開けることで、受容体が何らかの反応を起こすというわけです。

ここで注意するべき点としてノストランド氏が指摘するのが、ホルモンと受容体は鍵と錠前のようにぴったり合わなくても、十分に親和性があれば受容体に結合できるという点です。たとえばGLP-1受容体はGLP-1に対して強い親和性を持ちますが、GLP-1と似た形状のグルカゴンに対しても弱い親和性を持っています。世の中に存在する「GLP-1受容体作動薬」にはこの仕組みを利用して、GLP-1受容体だけでなく他の受容体にも結合するものがあります。


GLP-1受容体にGLP-1が結合すると、脳に「もう食事をしたので、これ以上食べる必要はない」というシグナルが送られます。オゼンピックとしても知られるGLP-1受容体作動薬のセマグルチドは、GLP-1受容体のみを活性化します。これに対しマンジャロとしても知られるチルゼパチドは、GLP-1受容体だけでなくGIP受容体にも作用するとのこと。

そしてイーライリリーが開発した新しい肥満治療薬のレタトルチドは、GLP-1受容体とGIP受容体に加え、グルカゴン受容体を活性化します。グルカゴン受容体はグリコーゲンと脂肪の分解を促進し、体はこれらをエネルギーとして利用します。この状態が続くと体内の血糖値が危険なレベルに上昇してしまいますが、GLP-1受容体が活性化することでインスリン分泌が増加し、血糖値をコントロールできるという仕組みです。

一般にGLP-1受容体作動薬は、副作用として疲労感をもたらすことが知られています。まだ十分なデータはそろっていないものの、レタトルチドのグルカゴンを模倣する作用によって疲労感が打ち消されたり、エネルギーレベルが増加したりする可能性があるとのこと。ノストランド氏は、レタトルチドがGLP-1受容体作動薬の副作用を打ち消す作用機序は非常に洗練されており、美しいものだと主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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