サイエンス

「完璧な肉の焼き方」を肉科学者が研究した結果わかったこととは?


料理の最中にはさまざまな化学反応が起こり、「フードサイエンス(食品科学)」という研究分野が存在するほど、近年の料理は科学的な試行錯誤を取り入れたアカデミックなものとなっています。古今東西で愛されるステーキを科学的においしくするにはどうすればいいのか?という点についても、これまでにさまざまな科学者が研究しており、そのお役立ちな知識がKnowable Magazineで公開されています。

Sizzling science: How to grill a flavorful steak
https://knowablemagazine.org/article/food-environment/2021/sizzling-science

まずステーキの仕上がりを左右するものの1つに「肉の部位」があります。適度に動かされてきた、背骨に沿って存在する腰部の筋肉は結合組織が少ないため、頻繁に使用される足の肉よりも柔らかい食感になります。また筋肉組織の間に脂肪滴がしっかり入ったいわゆる「霜降り肉」は、より柔らかく、肉汁が多く、風味豊かになりやすいと肉科学者の一人であるユタ州立大学のSulaiman Matarneh氏は述べています。

実際に、肉に含まれる脂肪の量は、風味を大きく左右します。テキサス工科大学の肉科学者であるJerrad Legako氏によると、リブロースのような部位はサシが多くうまみ成分であるオレイン酸が多く含まれるとのこと。これとは対称的に、サーロインはオレイン酸が少なく、ステーキの風味を増強しない他の種類の脂肪酸を多く含みます。

脂肪酸の含有は、牛が穀物で育てられるか牧草で育てられるかによっても異なります。生育の最後の月にトウモロコシや大豆を与えられた牛は、オレイン酸の含有量が多いと言われています。一方、その生涯で牧草を食べ続けた牛はオメガ3脂肪酸の含有量が多くなります。オメガ3脂肪酸は魚やジビエを感じさせる風味と言われていますが、近年は健康上のメリットが注目されています。

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ただし、ステーキの風味を最終的に決めるのは、その調理プロセスです。まず肉を熱した時に脂肪酸がより小さな揮発性分子となりますが、これが空中を浮遊することでステーキの「アロマ」が生まれます。特にアルデヒドケトン、アルコールといった分子が混合することで人は「肉のいい香り」を認識します。

加えて、メイラード反応によっても風味が生み出されます。メイラード反応は褐変プロセスであり、パンやクッキーを焼く時にも起こるもの。ステーキの場合、肉に含まれるアミノ酸と糖が高熱に反応して化学変化がおき、ピラジンフランといった分子が生成され、「香ばしい匂い」の発生に寄与します。

このため「最高のステーキ」を求める人は「完璧なメイラード反応」を求めることになります。焼きすぎると焦げて苦みが発生してしまうステーキにおいて、その変数は温度・時間・肉の厚さです。


テキサスA&M大学の肉科学者であるChris Kerth氏によると、薄いステーキは火の通りが早いため、短時間で十分な焼き目を作るにはホットグリルが必要だと述べています。実際にKerth氏ら研究チームがラボで実験を行ったところ、厚み約1.27cmのステーキを低めの温度で調理した場合、脂肪酸が分解されたことに由来する「ステーキの風味」が生まれやすいことが判明。他方、高温で調理するとピラジンが大量に生成され、「焼きすぎ」と感じる味となります。

このことから、薄めのステーキを焼く場合は、グリルのフタを開けてゆっくりと肉に火を通すところからスタートすることが推奨されています。そして予想される調理時間の半分ではなく3分の1の時間で裏返すことで、まだ焼けていない面に水分を移動させ、さらにゆっくりとメイラード反応を起こすことが可能となり、理想的なステーキの風味が生まれます。

反対に、厚さ3.8cmの分厚いステーキを焼く場合は「肉の中央部に火が通る前に表面を焼きすぎる」という問題が起こります。Kerth氏らが実験を行ったところ、高温で速く焼かれた分厚いステーキを人々は低く評価したとのこと。このため分厚いステーキを提供するステーキハウスでは一般的に、「表面に焼き目を付けてからオーブンで焼く」という方法が取られています。家庭で調理を行う場合は表面を焼いた後に170度のオーブンで加熱することが推奨されています。


「完璧なステーキ」が何かは個人の好みによりますが、科学の側面から言えることは、「脂肪酸を分解するのに十分な熱を受けていない肉は『ステーキの風味』を生み出さない」ということ。一方でミディアム以上の焼き加減になると、軽く調理されたステーキ独特の「血の風味」が失われます。多くの人は完全に焼き切った褐色の肉よりも、多少の血の風味を残したステーキを好むことから、ステーキの焼き加減をミディアムレアからミディアムの間に保つことが重要とのこと。

これらを踏まえ、Kerth氏は「ステーキを焼く際の化学反応は非常に短時間で起こる」として、「肉をしっかり観察すること」をアドバイスしました。

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in サイエンス,   , Posted by darkhorse_log

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