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検察官が軽犯罪を犯した人に司法取引をもちかけて「独自のDNAデータベース」を作成しているとの指摘


アメリカ・カリフォルニア州で2番目に人口が多いオレンジ郡では、地方検事局が独自のDNAデータベースを構築しています。このDNAデータベースは厳格な規制に基づいた運営がされておらず、倫理的・法的に疑わしい方法でデータベースを作成していると、専門家らが指摘しています。

OC Prosecutors Operate Vast Genetic Surveillance Program
https://theintercept.com/2021/07/03/orange-county-prosecutors-dna-surveillance/

数年前、カリフォルニア大学の犯罪学・法学の名誉教授であるウィリアム・トンプソン氏の同僚が、「犬をリードなしで散歩させた」として裁判所に召喚されました。確かにオレンジ郡では犬をリードなしで散歩させるのは法律違反ですが、あくまでも軽犯罪であり、同僚は裁判所で100ドル(約1万1000円)の罰金を支払うだけだろうと考えていました。ところが、同僚は「軽犯罪をなかったことにする代わりに、DNAサンプルを提供しなくてはならない」と検察官に伝えられたため、罰金の代わりに唾液のサンプルを提供したそうです。

トンプソン氏によると、オレンジ郡では軽犯罪の被疑者に検察官が司法取引を持ちかけ、DNAサンプルを採取するという事例が一般的になっているとのこと。中には大麻所持の罪で100ドルの罰金を支払うつもりで裁判所に行ったところ、「DNAサンプルを渡すことに同意しないと、罪状を『販売目的での大麻所持』に引き上げる」と脅される人もいると、トンプソン氏は述べています。


検察官によるDNAサンプルの収集は、オレンジ郡地方検事局が2007年に、独自のDNAデータベースの作成を始めたことがきっかけだそうです。アメリカには20年以上前から、連邦捜査局(FBI)によって作成・維持されている「​統合DNAインデックス・システム(CODIS)」というDNAデータベースが存在し、重罪で有罪判決を受けた犯罪者のDNAや、犯行現場に証拠として残されたDNAが収集され続けています。2021年4月の時点で、CODISには1400万人分を超える犯罪者や100万件を超える証拠品のDNAデータが保存されているとのこと。

多くの州はCODISと連携したDNAの収集を独自に規制しており、2018年の時点で逮捕者からのDNA収集を認めているのは31州で、うち29州はレイプや殺人といった深刻な事件でのみ収集を認めています。一方、カリフォルニア州では2004年に住民投票で可決された「DNA Fingerprint, Unsolved Crime and Innocence Protection Act(DNAと指紋、未解決犯罪および冤罪(えんざい)保護法)」により、DNA収集の対象となる犯罪が大幅に広げられただけでなく、本来はDNA収集の対象にならない犯罪でも司法取引の条件として収集が可能になりました。

そこでオレンジ郡地方検事局は2007年、軽犯罪に焦点を合わせた独自のDNAデータベースを作成する条例を提出しました。この条例はDNAデータベースがCODISと共有されない代わりに、軽犯罪や司法取引を通じたDNAの収集が可能となるほか、そもそも検察官が起訴しないと決定した事件の被疑者からもDNAを収集できるものでした。カリフォルニア大学の法学教授であるアンドレア・ロス氏と話した元検察官によると、2007年当時のオレンジ郡地方検事だったトニー・ラッカウッカス氏は、「ささいな罪を犯した地元の住民が最も暴力的な犯罪に手を染める」と考えていたとのこと。つまりオレンジ郡のDNAデータベースは、軽犯罪に厳しく対処することで凶悪犯罪にも対応できるとする、一種の割れ窓理論に基づいたものだったそうです。結局、この条例は管理委員会によって満場一致で可決されました。


実際にロス氏が、オレンジ郡の検察官がどのようにDNAを収集するのかを確認したところ、被告人が罪状認否を行う以前の段階で検察官がDNAの提供を持ちかけていたとのこと。検察官は被告人に対して「あなたがDNAを提供するならば、司法取引扱いにするか事件を却下します」と伝え、被告人が同意したら頬の内側を拭ってDNAを採取し、データベースへの資金提供として100ドルを徴収していました。ロス氏によると、2019年の時点でオレンジ郡地方検事局のデータベースは20万人以上のDNAを保存しており、年間1100万ドル(約12億2200万円)を徴収していたそうです。

また、被告人はDNA収集の合憲性に異議を唱えたり、DNAデータの消去を求めたりする権利を放棄する契約書に署名させられていました。CODISでは、殺人事件で逮捕された犯人でも後に無罪が判明した場合などにDNAデータが削除されますが、オレンジ郡地方検事局のDNAデータベースの場合、軽犯罪かつ結果的に起訴が取り下げられた人でもDNAデータの削除を要求できません。

理論的にいえば検察官によるDNAの収集を拒否できるとしても、実際にDNAの提供を拒否して弁護士を雇い、法廷で裁判を受けるのは非常に大きな負担となるため、拒否する選択肢はあまり現実的ではありません。こうした状況は低所得者や有色人種など、自分自身を守るリソースや知識に乏しい人々に不平等な悪影響を及ぼすほか、逆に「DNAデータベースを充実させるために軽犯罪の取り締まりに力を入れる」というインセンティブを生み出しかねないと、カリフォルニア大学の犯罪学教授であるサイモン・コール氏は指摘しています。


2021年2月、トンプソン氏とコール氏がオレンジ郡地方検事局のDNAデータベース作成に異議を申し立てる民事訴訟を、オレンジ郡の民事裁判所に提起しました。この訴訟ではDNAデータベースを中止し、人々がDNAデータベースへの資金として支払った金額を返還するように求めています。また、訴状には「(オレンジ郡地方検事局のDNAデータベースは)軽犯罪の被告の遺伝的プライバシーや憲法上の権利を永久に損なう一方、発生した犯罪との肯定的な一致はほとんどありませんでした」と記され、DNAデータベースの取り組みが失敗していると主張しています。

この訴訟に対し、オレンジ郡の現地方検事であるトッド・スピッツァー氏は4月の意見記事で、オレンジ郡地方検事局のDNAデータベースが従来であれば解決できなかったであろう事件を解決したと反論。しかし、2018年の報告ではオレンジ郡地方検事局が収集したDNAのうち、犯罪現場から採取されたDNAと一致したのはわずか0.67%だったそうで、そのほとんどは非暴力的な窃盗などの犯罪だったとのこと。なお、スピッツァー氏は2018年にラッカウッカス氏を選挙で破って地方検事に就任しましたが、それまではオレンジ郡地方検事局のDNAデータベースに批判的な論調だったそうです。

ロス氏はオレンジ郡地方検事局のDNAデータベースが結果として公安上の利益をもたらさずに、より多くの人々を刑事法制度の支配下に置くことを懸念しているほか、データベースの運用がブラックボックスになっている点も問題視しています。「より大きな問題は、オレンジ郡地方検事局がDNAデータを使用できる用途について制限があるかどうかです」とロス氏は述べ、将来的に犯罪捜査以外の目的でDNAデータが使用される可能性もあると主張しました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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